がん転移のメカニズムを解明する。
がんの浸潤・転移に深く関わる細胞接着分子「CADM1」
がんという病気は、発生した局所(原発巣)で増殖している場合には外科手術や放射線治療などが有効ですが、がんが転移すると、抗がん剤による化学療法や免疫療法など限られた治療法しかありません。固形がんによる死亡原因の大部分は、この浸潤・転移によるものだと言われており、がんの浸潤・転移を抑える薬剤の開発が待望されています。
そのためにはまず「転移はどのようにして起こっているのか?」というメカニズムを解明する必要があります。私たちのグループでは、分子生物学的なアプローチによって、この「転移のメカニズム」を研究しています。
がん転移の出発点は、がん細胞同士の接着が失われることにあります。そこで私たちが着目したのが、細胞の接着に関わる「CADM1」という遺伝子です。CADM1は主に肺、脳、精巣などで細胞の接着に関わっているのですが、肺がんをはじめとする上皮細胞由来のがんにおいては、がんの進行にともなって発現の欠如や低下が高い頻度で認められます。また、CADM1の発現をがん細胞に戻すと増殖や転移が抑制されます。このことからCADM1を介した細胞間接着が、がん細胞の増殖及び浸潤・転移の抑制に機能する、つまりCADM1はがん抑制遺伝子として機能すると考えられます。
ただし一方でCADM1は、成人T細胞白血病(ATL)や、小細胞肺がんなどのがんでは、過剰に発現し、血管内皮細胞との接着を促すことで、がんの浸潤・転移を促しています。つまりそこではCADM1ががん遺伝子として働いているわけです。
細胞膜上の分子間相互作用を解析
接着分子の働きの二面性を解明する
CADM1が、組織によってこのような正反対の機能を発揮する理由の一つは、細胞膜表面でCADM1が結合している分子の違いによるのではないか、と私たちは考えており、CADM1と結合する相手方分子との間に、どのような分子間相互作用が起きているのかを解明するための研究を続けています。
しかしこの結合は非常に弱く、従来の分子生物学的手法ではこれを検出するのはとても難しいという問題がありました。この問題を克服すべく、私たちが最近活用を始めたのが、HORIBAのSPRi(表面プラズモンイメージグ)装置「OpenPlex」です。OpenPlexを使った、様々な組織の細胞膜表面分子とCADM1の結合・解離に関わる各種パラメーターのデータを収集し、結合相手の同定や結合の親和性などを解析していくことで細胞接着による浸潤・転移の制御機構について研究を進めています。
がん抑制遺伝子とがん遺伝子という二面性を持つCADM1の働きを明らかにできれば、がんの浸潤や転移を抑えるという画期的な医薬品の開発につながることが期待されます。現在の分子標的治療薬は、細胞増殖を直接阻害する薬剤がほとんどで、浸潤・転移を抑える医薬品は、まだ開発されていません。私たちの基礎研究を、がんの浸潤・転移を制御する、全く新しい診断や治療法に結びつけていければと考えています。
分子間相互作用解析装置OpenPlex
分子間相互作用の同時解析が可能
原理 | 表面プラズモン共鳴イメージング(SPRi) |
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光源 | LED 810nm |
検出器 | 8bit CCDカメラ 752×582pixels |
光学分解能 | 50μm |