溶存酸素測定において広く用いられる方法に、酸素の透過性に優れた隔膜を用い、透過した酸素濃度を電極で検出する「隔膜電極法」があります。隔膜電極法において電極で検出する方法に2種類(「ガルバニ電極法」、「ポーラログラフ法」)あり、それぞれメリット・デメリットがあるため、適宜使い分けられています。
図1は隔膜ガルバニ電極法を示した模式図です。酸素(DO)の透過性に優れた隔膜(ポリエチレン膜、フッ素樹脂膜、最近はフッ素樹脂膜が用いられるケースが多い)で、電極と内部液を試料液から遮断する構造となっています。内部液には通常水酸化カリウム(KOH)溶液を用い、作用極には貴金属(Pt、AuあるいはAg、Agが用いられるケースが多い)が、対極には卑金属(PbあるいはAl、Pbが用いられるケースが多い)が用いられます。したがって、電池と同様の構造になっており、作用極と対極が電気的に接続されると酸素還元による電流が発生します。この電流はDO濃度に比例するため、電流を外部の電流計で測定し、DO濃度を算出します。
作用極と対極が電気的に接続されていれば、酸素を材料として電流が自然に発生するため、内部液内の酸素が常に消費された状態となります。したがって、内部液内の酸素を完全に消費させるエージングの必要がありません。ただし、電池が消耗するのと同様に、内部液や電極の劣化により流れる電流も低下するため、他の原理と比較して寿命が短い傾向にあります。
また、内部液に高アルカリ液(KOH)を、また対極に有害重金属(Pb)を用いており、高アルカリ液は人間の皮膚、目などを侵すため隔膜の交換あるいは電極の廃棄などに注意が必要です。
図1 隔膜ガルバニ電極法の模式図
図2は隔膜ポーラログラフ法を示した模式図です。酸素(DO)の透過性に優れた隔膜(ポリエチレン膜、フッ素樹脂膜、最近はフッ素樹脂膜が用いられるケースが多い)で、電極と内部液を試料液から遮断する構造となっている点は隔膜ガルバニ電極法と同様です。内部液にはKClまたはKOHが用いられ(取り扱いが容易な中性のKClが用いられるケースが多い)、作用極には貴金属(PtまたはAu)が、対極には銀・塩化銀(Ag/AgCl;KCl内部液の濃度に対応して一定の電位となる)が用いられています。
隔膜ポーラログラフ法では、隔膜を透過したDOを還元するのに必要な電圧を外部の定電圧装置を用いて作用極から対極間に印加します。このとき内部液にKCl(1mol/L前後の濃度)を、対極にAg/AgClを用いている場合は、対極の電位は多少の電流が流れても変化しません。すなわち、分極しないため作用極には常に一定の印加電圧が加わることになります。
作用極に一定の印加電圧を加えることによって、DO濃度に比例した電流を流すことができます。
図2 隔膜ポーラログラフ法の模式図
図3はDOの還元電流と作用極の電位(mV vs.Ag/AgCl)の関係を示した実測図です。当社では印加電圧-650mV vs.Ag/AgCl前後を用いております。この印加電圧付近では、仮に印加電圧が数十mV変化しても観測されるDOの還元電流には全く影響しないことがわかります。電流を流し始めてからしか内部液の酸素は消費されないため、隔膜ガルバニ電極法と比較して寿命は長い傾向にありますが、酸素の還元に必要な電圧は外部の定電圧装置から供給しなければならないため、使用する前に充分にエージングをする必要があります。
図3 溶存酸素の還元電流と作用極の電位
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