ぶんせきコラム

燃料電池開発をささえる
分析の数々


1969年、人類がはじめて月面に着陸したアポロ11号には「燃料電池」が動力源として搭載されていました。当初、宇宙開発や軍事目的が主だった燃料電池は、いまでは化石燃料ばかりに依存したエネルギー供給構造から脱却するひとつの手だてとして、私たちの生活エネルギー供給をまかなうための研究開発が、多くの研究機関ですすめられています。

燃料電池とは、水素(H2)と空気中の酸素(O2)との化学反応から電気エネルギーを生成するシステムです。

ではなぜ、その燃料電池が次世代のエネルギー源として注目されるのでしょうか?

たとえば現在多く利用されている火力発電では、石油などの化石燃料を燃料させ、その発熱を利用して発電しています。化石燃料を燃焼させると、大気汚染の原因となる有害物質や、地球温暖化を促進する二酸化炭素(CO2)など、地球環境にとって好ましくない物質が発生します。

これに対して燃料電池は、水素を燃料とし酸素と化学反応(水の電気分解の逆反応)させて電力と熱をとり出します。水素と酸素が反応してできるのは「水」ですので、原理的には有害物質を発生することがありません。ここが環境にやさしい発電方法として注目される理由です。

また最近では、自動車の動力源としても燃料電池をもちいる研究が進んできました。

燃料電池を利用するためには水素が不可欠ですが、これは自動車の燃料として安全に供給したり、持ち運んだりするのにはあまり適していません。

そこで、自動車にはかわりに天然ガスやメタノールなどの炭化水素を積んでおいて、燃料電池へ送る直前に「改質装置」を通して水素を多く含むガスに変化する方法も研究されています。この場合でも、ガソリンや軽油を燃料にするより、窒素酸化物(NOx)や二酸化炭素といった排出ガスは大幅に低減されます。

さて、この燃料電池を実用化する過程では、じつに多くの「分析」が登場します。

直接、燃料となる水素はもちろんのこと、改質装置を使う場合では、メタノール(CH3OH)やメタン(CH4)などさまざまな物質が分析対象となります。また、燃料電池、改質装置、触媒などに使われる高機能材料をミクロの目で分析する素材分析装置も欠かせません。

クリーンなエネルギーを1日も早く実現するため、「分析」も大切なお手伝いをしているというわけです。家庭の電力や自動車の動力が、このようなエネルギー源でまかなわれる日は、もうそこまでやって来ています。