ぶんせきコラム

「血液検査」って何を
検査するんですか?


健康診断のときや、病気でお医者さんにかかったとき、「血液検査」をしてもらうことがあります。これ、何をどんなふうに検査しているかご存じですか?

血液検査はその結果が数字で示されますので、お医者さんにはより客観的な医療情報として好まれています。

とくに重症のときや、赤ちゃんなど自分で症状が説明できないようなとき、この血液検査が大きな頼りとなります。

血液検査は例えていえば、道路に走っている自動車の種類やその数から、その地域の経済状態などを推測するのに似ています。血液のなかには大きくわけて3つの細胞、「赤血球」「血小板」「白血球」があります。

それでは、その3種類の細胞がどんな役割をしているか、まず見てみることにしましょう。

「赤血球」はおもに酸素を運ぶ役割をします。赤血球はさきほどの例でいえば、生活に必要な人や物を運搬する車といえます。バス・自家用車・自転車などのようによく見かけ、数もたくさんあります。

「血小板」は血管の傷を修復する働きがあります。傷がないときにもあらかじめ血液中に流れています。工事用車両と考えればよく、日常でもときどき見かけます。

「白血球」は生体の防衛を担当し、例えれば軍隊でしょうか。健康な人では数は非常に少なく、日常で軍用車が走りまわるのをほとんど見かけないのと同じですね。

これら3つの比率は、健康な人ではおよそ1000:50:1とされています。さらに詳しく見ていきましょうか。

「白血球」は、体内に細菌などが侵入して炎症を起こしたとき、その数が増加します。そこで、血液検査では血液1立方mmあたりの白血球数を調べて、病気を診断する手がかりにしています。人間の血液中には通常、1立方mmにおよそ4,000〜11,000個の 白血球があります。

「白血球」には大きくわけて5分類あり、なかでもいちばん知られているのが「リンパ球(LYM)」です。これは白血球のおよそ1/3をしめていて、免疫反応の中では「知的中枢」を担当しています。 つまり、相手を敵だと認識したり、それに対する抗体を作ったりします。「リンパ」の語源は「澄んだ」という意味ですが、これは細胞質の透明性が高いことから名づけられました。

リンパ球が「知的役割」とすれば、これから紹介する3つはいわば「実戦部隊」で、「顆粒球」と呼ばれるグループです。古くから白血球の検査には、酸性・中性・アルカリ(塩基)性の3種混合染料が使われていますが、顆粒球の名前は「好酸球」「好中球」「好塩基球」となっていて、どの染料に染まりやすいかという性質が、その名前の由来になっています。

これら3つの白血球の役割は、「好中球」が正規軍とすれば、「好酸球」と「好塩基球」は特殊部隊に例えることができます。

「顆粒球」の代表は「好中球(NEU)」で、白血球の約6割をしめます。白血球中もっとも数が多く、外敵との戦いでいちばん活躍する白血球のエース的存在です。ただし好中球は、外敵が抗体でラベルされないと敵としての認識ができないので、リンパ球の支援が必要です。

感染の規模や悪性度をはかるには好中球の数を調べます。身近な例では、「リンパ腺が腫れた」といったりしますが、これは風邪をひ いたときなどにリンパ節の中に敵をおびき寄せて、リンパ球と好中球が盛んに戦っている状態です。

「好酸球(EOS)」は白血球の約5%をしめ、好酸性顆粒というアレルギーを抑える物質をつめた袋をもっています。アレルゲンの近くで袋を破って中の物質をまきちらし、症状を緩和します。好酸球が増加した場合には、じんましんやアレルギー性肺炎などの指標となります。

「好塩基球(BAS)」は白血球の1%前後ともっとも少数派です。好塩基性顆粒にはヒスタミンやヘパリンが含まれており、アレルギー症状緩和に関係していると考えられています。好塩基球が増加することで、ある種のアレルギー症が起こっていることの指標になります。

「リンパ球」「顆粒球」とならんで分類される「単球(MON)」は、白血球の約5%をしめています。白血球の中では連携性が弱い反面動きが速く、「軍隊」というよりも「警察」や「機動隊」に近い特徴があるといえます。つまり、正規軍であるリンパ球や好中球を組織するには時間と手順がかかりますが、単球は自分で敵を認識し、自由に動いて局地戦を素早く鎮めます。また、体内の老廃物を処理するのも単球の役目です。

単球は貪食性がつよく、外敵を単球内に取り込んで処理してしまいます。白血球の中でももっとも大きく、単球じたいやその核の形が 単純であることから名づけられています。単球が増加する疾患も知られてはいますが、その増減時期に関心が持たれる場合があります。

「白血球」はとてもうまく役割分担していますので、病気にかかったときは、その全体の数やそれぞれの割合が変わってきます。

この5つを分類して計数することで、すばやく病気をみつけることができるというわけです。

これら血球のほかにも、病気の診断に役立つ指標があります。 「C-反応性たんぱく(CRP)」は、組織が損傷したときに血中にあらわれるたんぱくの一つです。はじめ、肺炎の患者の血清中で発見され、肺炎球菌の膜成分であるC分画と反応することからこう呼ばれています。いまではいろいろな病気で重症度を反映して増減することがわかっていて、治療方針の決定や薬剤の選定に役立ちます。

このように病気の診断に大きなヒントを与えてくれる血液ですが、 1975年ごろまでは顕微鏡をのぞき手作業で数を数えるなど、たいへんな作業でした。

それが今では「自動血球計数装置」と呼ばれる検査装置でできるようになっています。

また、最近まで高価な大型装置でなければできなかった「白血球分類」や、これまで同時に測ることのできなかった「C-反応性たんぱく」でさえも、技術の進歩によって小型の検査装置が開発され、 医院などの小規模な医療機関でも検査ができるようになりました。

このように分析技術は医療の現場でも、「ポイント・オブ・ケア・テスト」(患者の側での検査)を実現するために貢献しているんですね。