ぶんせきコラム

酸性雨から地球の姿を知る


「酸性雨」をご存知ですか? 温室効果やオゾンホールとともに語られる代表的な環境問題のひとつです。ふつう、雨には大気中の二酸化炭素がとけ込んでいるので、そのpHは弱い酸性の5.6程度をしめします。そしてこのpHが5.6より小さい、つまりふつうより酸性の強い雨を、一般に「酸性雨」と呼んでいます。では、この酸性雨、どうして酸性になってしまうのでしょうか?

酸性雨の原因は、おもに石油などの化石燃料が燃焼したときに発生する硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)です。

これらが大気中で化学変化をおこして硫酸や硝酸になり、雲や霧の水滴にとりこまれてpHが5.6より小さい酸性雨となるのです。

酸性雨によって引き起こされる環境問題は年々深刻化していて、先進工業国ばかりか地球的規模で大きな問題となっています。酸性雨は、湖や沼などの水質を変化させたり、森林の土壌を変化させたり、さらには住宅など建造物にまで被害を与えます。

さてこの酸性雨、どうすれば観測できるのでしょう。酸性雨を詳しく分析するには、pH、導電率、硫酸イオン(SO42-)、硝酸イオン(NO3-)、塩化物イオン(Cl-)、アンモニウムイオン(NH4+)、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カリウムイオン(K+)、ナトリウムイオン(Na+)という10項目程度を測定します。しかし、この方法ではイオン選択電極法やイオンクロマトグラフィ法といった、専門的な知識と装置が必要な分析を行わなければなりません。

そこで、一般的にはpHと導電率を測定することによって、降雨の概略の汚染程度を知ることができます。

pHは雨の酸性の強さをはかることになり、導電率からは雨の汚染度がわかります。これは、雨にとりこまれた汚染物質は上にあげた各種のイオンとして雨水の中に存在するのですが、この全体量と導電率とのあいだに関係があるからです。酸性雨のpHと導電率が簡単にはかれるよう、携帯型の小型測定器が開発されています。

大気中の汚染物質は、雨の降りはじめに多くとりこまれます。そのため、降りはじめの雨水(初期降雨)はやむ前の雨水より、より強い酸性をしめすことが多いと言われています。このことから、酸性雨測定においては降りはじめの雨から、時間をおって分離採取することが大切です。

HORIBAでは、初期降雨を簡単に採取するための装置もつくられています。この装置には雨水をキャッチするろうと、それから雨水をためておく採取カップがついています。採取カップは観覧車のように回転する円盤にいくつもつりさげられていて、降水量1mmごとに時間をおって8 つまでとりわけられるようになっています。最初のカップに雨水がたまると、重さのバランスがかわって次のカップへと雨水がたまっていきます。

また、採取カップにゴミやちりが入ってしまわないよう、ろうとにはふたがとりつけられています。このふたを開く雨感知センサには、トイレットペーパーが利用されています。雨が降るとペーパーがとけて、ばねと重力で自動的に開くしくみです。環境を測定するためのものなので、できるだけエネルギーを使わなくてすむように、また電源のない場所にも設置できるようにと、工夫されているわけですね。


日本の各地で採取した酸性雨のデータを公開したり調べたりできる場として、「HONEST」をインターネットにオープンしています。

1992年にパソコン通信からはじまったHONESTの会員の輪は現在約800名。会員の皆さんが少しずつ集めた酸性雨データも、いまでは全国規模で9000件あまりにまでなっています。

酸性雨は空がきれいかどうかのバロメータ。HONESTに参加する人たちは、空の健康を見まもっているといえるでしょう。酸性雨は上で紹介したような器具を使えば、比較的簡単にはかるこができます。ひとりひとりが集められるデータはけっして多くなくても、みんなで測れば地球の姿が見えてくるかもしれません。