ぶんせきコラム

鉄と炭素の意外な関係
── 鉄を分析する


外に出てあたりを見わたすと、自動車、電車、橋。空を見あげれば、信号、鉄塔、高層ビル。さらに地面の下にも、地下鉄、ガス管、水道管。そして、部屋の中には冷蔵庫、洗濯機などなど…。こんなにたくさんの鉄鋼製品が、私たちの身の回りにはあふれています。プラスチック製品が増えているとはいえ鉄鋼の用途はいぜん減ることはなく、世界中で作られる鉄の量は年間約8憶トンにもおよびます。

鉄鋼は鉄鉱石から鉄分をとりだすところから、いくつもの工程を経て製品に仕上げられます。

まず天然資源である鉄鉱石(酸化鉄)は 還元・溶解され、鉄分をとりだします。この鉄鉱石からとりだされたばかりの鉄を「銑鉄(せんてつ)」と呼び、数%という多量の炭素(C)を含んでいます。

炭素の含有量が多いと鉄は硬くなり、同時にもろい性質を持つことになります。反対に、炭素が少ないと柔らかい鉄になります。したがって、炭素を多くも少なくもないちょうどよい量に調整することで、粘りのある強靭な鉄を作ることができます。この工程を「製鋼」といい、一般的に炭素含有量が2%までの鉄を「鋼」、2〜7 %のものを「鋳鉄(ちゅうてつ)」と呼んでいます。

鉄鋼は用途によって炭素の含有量を変えてつくられます。たとえば上下水道の鉄パイプには、硬くて加工が簡単な炭素約3%の鋳鉄を使います。ビルの鉄骨には、炭素約0.05%の強靭な鋼を使います。自動車のボディは風圧を少なくし、またデザインを重視するため複雑なプレス加工を必要とするので、炭素約0.002%以下のやわらかい「深絞り性」のある鋼を使います。

これら用途に応じた鉄鋼製品をつくるためには、炭素含有量の測定を正確に行う必要があります。

鉄鋼の炭素測定では、まず測定したい鉄鋼を1g程度切りとります。そしてこの試料を酸素(O2)ガスが充満している炉の中で加熱・燃焼(酸化)させます。このとき鉄鋼中の炭素が二酸化炭素(CO2)となって抽出されるので、その発生量を専用のガス検出器で検出することで、鉄鋼中の炭素含有量を測定します。

鉄鋼を加熱・燃焼させるには、2つの方法があります。ひとつめはあらかじめ約1500℃に加熱した炉の中に試料を入れて燃やす方法。もうひとつは高周波で鉄鋼を加熱して燃やす方法です。これは電磁調理器で鉄の鍋が熱くなるのと同じ原理です。一般には、取り 扱いが簡単で安全な高周波加熱タイプの炉を搭載した装置が用いられています。

最近では、さらにやわらかく深絞り性のよい鋼が求められていて、0.001%以下といった炭素の低濃度化が進んでいます。

これに ともない鉄鋼中の微量炭素を測定する必要がでてきました。ところが、鉄鋼試料を切りとって分析装置まで運ぶあいだにも空気中のホコリが試料に付着してしまいます。このホコリは炭素を含んでいるので、同時に燃焼させると測定値に誤差を与えてしまいます。炭素含有量が0.001%程度より多ければ問題にならないのですが、 微量な炭素を測定するときはこの誤差が無視できません。

この誤差をとりのぞくためには、予備加熱ということを行います。 これは鉄鋼試料をまず約500℃の低温で加熱し、付着したホコリを燃焼させ除去します。そして次に、鉄鋼試料を高温で燃焼させることで、含有している炭素だけを測定することができます。つまり、付着炭素と含有炭素を分離して測定できるというわけです。この測定を実現するため、鉄鋼試料の加熱温度を自由にコントロールできる高周波加熱炉も分析装置に搭載されるようになりました。

これからも鉄鋼中炭素の低濃度化はさらに進んでいくといわれています。その製法開発とともに分析装置の開発も非常に重要な課題となっているのです。