ぶんせきコラム

小さく強く!
ジレンマとたたかうX線分析


病院などでなじみのある「レントゲン写真」や「X線CT]。どちらもX線をもちいた検査方法ですが、このほかにもX線を応用した分析手法があるのをご存知ですか?

たとえば、物質を構成している元素やその量を調べるための「蛍光X線分析装置」、結晶の方位や原子結合の構造を調べるための「X線回折装置」などが、研究や品質管理などで重要な装置として使われています。

ところでこの「X線」とは、いったいどんな性質をもっているのでしょう?

まず、X線を放射して物質にあてるとき、最初に放射したX線のことを「入射X線」(または「一次X線」)とよびます。X線は多くの場合物質を突き抜ける性質をもっていて、この透過したX線を「透過X線」とよびます。レントゲン写真は、透過X線を写真に焼きつけるなどして画像化したものです。

また、X線をあてると物質そのものからもX線が発せられます。この物質じたいから発せられたX線を「蛍光X線」とよびます。X線は電磁波の一種で、光と同じようにそれぞれ波長をもっていて、この物質が発する蛍光X線の波長も元素によって異なります。蛍光X線の波長ごとの分布(スペクトル)を調べれば、物質にどんな元素が含まれているかがわかり、それぞれの波長の強度からは元素の分量を知ることができます。この方法では、たとえば、魚の中でどのあたりにカルシウムが多く分布しているかを画像に表わすというように、元素分布による画像表示が可能になります。

これとはべつに、物質にあたってはねかえったX線は「散乱X線」とよびます。また、この散乱X線の一部として「回折X線」とよばれるものがあります。これは物質に結晶構造があった場合に、はねかえったX線が干渉を起こし、強めあったX線のことをいいます。回折X線によって原子結合の構造や、原子の並んでいる方向性を把握することができます。

最初にあげた装置はすべて、X線のモノを透過する性質、元素に特有のX線を生じさせる性質、結晶で干渉をおこす性質を利用したものです。これらの装置はX線を照射することによって分析するため、試料を破壊せず、しかも真空状態などにすることなく大気中で分析できるのが大きな特徴となっています。

さて、近年の分析対象の微細化や分析成分の微量化にともない、X線分析における分析領域の微小化が求められてきています。

そしてこれには「いかにX線を集光させるか」が深くかかわっています。兵庫県・播磨科学公園都市にある「SPring-8」のような世界最高レベルの大型放射光施設を使えば、X線を1μm以下に集光できますが、卓上型のX線分析装置に同じ手法をもちいることはできません。従来は、発生したX線を「遮る」ことでX線ビームを絞るという方法が使われてきました。しかし、細く絞れば絞るほど、ビーム断面積に比例してX線強度は低くなってしまいます。そのため、実用的なX線強度が得られるビームの細さには限界があり、微小部を分析できる分解能の高い装置を作ることは困難でした。

このジレンマともいうべき問題を解決するため開発されたのが、「X線導管(X-ray Guide Tube)」です。

これは、内面の滑らかな細いチューブを使い、その内面でX線を全反射させながら導いた後、分析位置に照射するというものです。この手法によりX線強度を保ちつつ、X線を細く絞ることができるようになりました。市販製品で空間分解能10µmまでの集光を達成しています。

この細く絞ったX線を試料に当てれば、透過X線、蛍光X線、回折X線が得られます。さらに、X線を走査しながら測定し、走査位置と測定データを関連付けてコンピュータ上で復像化することで、透過X線像、蛍光X線像、回折X線像として2次元の情報が得られるようにもなります。

この装置によって、印刷物の微量のインク成分を分析して偽造鑑定を行なったり、食品・薬品・化粧品などに紛れ込んだ微小異物の元素分析を行なって異物の混入源を特定したり、地層の微細元素分布から各地層の年代毎の地球環境がどのようなものであったかなどの分析が手軽にできるようになりました。また、非破壊かつ大気中での分析できるため、たとえば植物の葉の成長過程での元素分布の移りかわりを捉えたりといった、生体を生きたまま分析することもできるようになりました。

最近の半導体産業や携帯電子機器の小型化の流れから、今後、分析対象はさらに微小化するものと考えられます。「もっと小さく」という要求はまだまだ尽きることはないでしょう。







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