HORIBAのひとり言

偶然の産物?!
ディーゼル車のススをはかる


東京都の石原知事がペットボトルに真っ黒なススを入れて振りながら、ディーゼル車から出るススは問題だと言っているのをごぞんじの方は多いと思います。

ここで話題になっているディーゼル車から排出される粒子状物質(PM)は、じつは連続的に計測することがたいへんむずかしいものなのです。

そもそも法律で定められたPMの規制には、「ディーゼル車より排出されたガスを空気で希釈して、一定時間フィルタに通しなさい。そして、そのフイルターに溜まった物質の重さが規定値以下でないといけません。」と書いてあります。

このように物性を決めず重さだけが基準になっていますので、この計測方法では自動車が走っている状態でのPMの量を連続的に計測することができません。そこで20分ほど走行したあとで、その平均値を求めるのがふつうです。したがって、車が加速したときにPMがたくさん出るのか、それとも減速したときにたくさん出るのかすらわからず、エンジンを改良するにも手がかりがありませんでした。

なぜこの計測がむずかしいかというと、まずPMの標準物質がありません。

さらにこのフィルタの上にたまった物質は、真っ黒いススと軽油の燃え残りの透明な粘りけのある物質とが混ざっていて、この2つの割合がつねに変化しています。黒いススだけなら光の透過度などで簡単にはかれるのですが、現実にはPM重量との相関がないのです。

世界中の多くの人々がPMの連続計測法の開発をしてきて、これまでにも20種類ぐらいの計測法が発明されているのですが、まともに製品化できるものはありませんでした。私たちも15年あまり、何度となく試作しては失敗、ギブアップ、2台だけ販売して中止などと苦渋をなめてきましたが、それでもあきらめずチャレンジを続けてきました。

そしてあるとき、偶然にも炭化水素を計測する分析装置でフィルタをつけ忘れてディーゼルのガスを計測してしまったことがあったのです。

すると、たいへんノイズの多い信号が出たのですが、これはガソリン車を計ったときと明らかに違いました。そこで、この違いがPMの有無によって起こっているのではないかと仮定し、この現象を利用してPM計が作れないかと考えたのです。

社内には「なぜPMが計測できているのか原理もわからないのに、そんな計器は作るべきでない」との意見も強かったのですが、他によい方法もないのでなかば無理やりに開発を進めました。そしてなんとか連続PM計として製品化することができ、お客さまから喜んでいただくことができました。そのうえ、この技術を論文で紹介したところ、日本機械学会関西支部より技術賞をいただくことになったのです。

このような結果に開発者としてたいへん喜んでいると同時に、この計測器が活躍してディーゼルエンジンの改良に役立ち、私たちの生活環境からPMをなくすことができればと望んでいます。