HORIBAのひとり言

特許をもって世界へはばたけ

今日、「知的財産」をまもることは企業にとって、ときには存亡をも左右しかねない重要な問題です。HORIBAからグループ企業のホリバ・ジョバンイボン社へ赴任し、特許マネージメントに携わる知的所有権部・楠洋明氏からのレポートをお届けします。

ヨーロッパの特許事情
いま私は、フランスを拠点におもに光学分析機器を製造販売するホリバ・ジョバンイボンという会社で、特許をはじめとする「知的財産」にかかわる仕事をしています。「特許」というのは、いわば「技術を保持する権利」で、これをめぐって会社どうしが争っているのを耳にすることも少なくありません。

私が赴任前にヨーロッパの国々、とくにフランスの人たちに抱いていたイメージというのは、失礼ながら「自分の権利を強烈に主張する人々」というものでした。しかし実際は、特許の世界でもっとも権利主張の強いアメリカ、そしてもっとも特許出願数が多い日本にくらべると、争いは少ないように感じます。

ヨーロッパにおいて特許紛争がそれほど多くないのには、技術者たちが抱く、「特許されるべき技術の水準」ともいうべき共通認識があるからではないでしょうか。たとえば日本のように、極端にいえば何もかも権利化してしまう、というような行動があまりみられないことが背景にあります。

特許にも習慣の違い
特許を出願することは特許業務のなかで、いうまでもなく大きな柱のひとつです。私も赴任してから何度か、新しい特許を出願する仕事にかかわりました。

ごぞんじのとおり特許の世界では、「出願日」がとても重要な意味をもちます。たった1日の遅れがもとで、競合する他社とトラブルに陥る可能性も少なくありません。ところがフランスでは7月から9月にかけて、「バカンス」つまり長期の休みをとる習慣があるんですね。そのことを私は忘れていました。

あるとき、ミーティングの日程調整をするため技術者をたずねたところ、「来週からバカンスだから帰ってきてから」と言われました。しかも会社へ復帰するのは1ヶ月も先だというのです。特許事務所の弁護士にしてもおなじようなもので、「8月はバカンスをとるので原稿の完成は9月の中ごろになる」と、当然のように告げられました。日本との習慣の違いを痛感した瞬間です。


「どれだけ特許があるかわからない」
保有している特許の整理というのもだいじな仕事です。特許技術を利用して独自性をうちだせることはないか、他社が特許を侵害していることはないかなど、つねに気を配っていなければならないからです。

しかしこれも一筋縄ではいきませんでした。ひととおり保有特許のリストをつくって関係者に見せたのですが、「これはうちの会社の権利ではない」「これはもう権利を捨てた」「これは古すぎてわからない」など、私を困惑させる答えが多く返ってきたのです。

これはホリバ・ジョバンイボン社が、もともと複数の会社だったものが、統合や分割をくりかえしてできあがった会社だという事情によるものです。これまで知的財産についても十分に整理されておらず、またそれぞれの特許についても価値観がバラバラだったといえます。

そこで私は、事業部ごとにそれぞれ知的財産の担当者を任命し、どれだけの特許権を保有しているかつねに把握してもらうことにしました。また定期的に事業部どうしのミーティングをひらいて、新たに取得した特許など、お互いに情報を共有するための機会をつくりました。こうしてだんだん、特許について認識を深めてもらうところまでこぎつけることができました。


グローバルな視点で特許をとらえる
国や民族がちがえば、言葉はもちろん考え方や習慣の相違などが障害となって、ものごとをスムーズに進めることは簡単ではありません。しかし、このたび現地へ赴任して現地の技術者と直接話しあうことで、eメールやファクスだけのやりとりだけでは補いきれない何かを手に入れたと思います。

特許の問題は、開発に携わる人々の協力なしではけっして解決できません。いちばん大切なものはやはり、現場の技術者との信頼関係です。今後、技術提携や事業統合などグローバルな特許マネージメントの必要性が増すなか、ここで得たものを礎に特許業務をとおして独創的な製品を世に送りだす一端を担いたいと、誓いをあらたにしています。