巻頭言:持続可能なエネルギー社会への貢献に向けて

齊藤 壽一* | |   53

*株式会社 堀場製作所 代表取締役副会長 兼 グループCOO
HORIBAは長年自動車を“はかる”ことにより,エンジン・パワートレーン技術の発展,環境負荷の軽減に貢献してきました。2015年7月に英国の自動車研究,試験機関であるMIRAを傘下に入れて以降は,自動車のエネルギー効率,また安全,安心につながる技術への貢献にも取り組みの範囲を広げてきています。
現在,自動車産業は100年に一度の変革の時期を迎えていると言われています。一つにはまず,安全,安心を革新する自動運転,大量の情報を高速に受発信して交通流の制御や従来にない利便性を実現するコネクテッド機能など,“ C A V ”(Connected & Autonomous Vehicle)と呼ばれる新世代の自動車の技術開発,実証が急速に進み,実現されつつあります。制御,通信,サイバーセキュリティー対策など様々な新しい技術要素が必要とされ,HORIBAはこれまで培ってきた“はかる”技術とMIRAの技術,経験を融合させ,この変革にいち早く貢献すべくチャレンジを始めています。その一環として,現在MIRAにおいて自動運転テスト用市街地コース,自動駐車試験設備,高速限界挙動試験用コースなどの新設,整備を進めており,さらにサイバーセキュリティや機能安全に対応する一連の技術を“VRES”(Vehicle Resilience)と包括的に定義し,お客様の技術開発支援に着手しています。
さて,自動車産業の変革のもう一つの柱は,言うまでもなく自動車の電動化です。これは単に動力が内燃機関から電気に変わるというだけの単純なものではありません。そもそも,電池で貯めた電気だけを動力源とするEVから,内燃機関とモーターを組み合わせたハイブリッドEV(Electric Vehicle),さらに燃料電池のような発電機と電池,モーターを組み合わせたEVなど,いわゆる電動車両にもさまざまなタイプが普及しつつあります。いずれの場合も,大電力の効率的な発電,蓄積や入出力の適切な制御が技術課題となっています。加えて電動化によってパワートレインシステムがますます複雑になり,モーター,電池,発電機から機械系メカニズム,電気回路,ソフトウェアという多様なサブシステムとその組み合わせが車両のなかで複雑に絡み合うことになります。それら全体を同時に最適,かつ安全に実現するための設計パラメータが急増し,電動車両の開発工数を大幅に増大させています。
このような電動化の動きに対して,HORIBAは燃料電池やリチウムイオン電池の試験システムなどを扱うドイツのFuelCon社を昨年グループに迎えました。同社の技術を融合させ,自動車計測事業の基幹工場であるBIWAKO E-HARBORに,燃料電池,バッテリーの「コンポーネント」から「システム」,「車両」の段階まで試験・評価できる設備を新たに整備します。さらにはエネルギー分野とモビリティ分野を統合し,エネルギーインフラまでも含めた様々なこれからの課題に対しても,カリフォルニア大学アーバイン校で計画中のHORIBAモビリティ・コネクティビティ研究所の設立支援を通じ,将来課題の探索や解決のための研究を推進していきます。
本号の特集と関連してご紹介する2019堀場雅夫賞は設立16年目を迎えます。本賞は一貫して,社会の様々な課題解決のために必要とされる地道な学術研究を支援してきました。そして本年は,まさに自動車の電動化とその先に求められるエネルギー革新に貢献する分析・計測を見据えた募集テーマを設定しました。本賞を受賞された新進気鋭の研究者のますますのご活躍を期待するとともに,我々もこの分野へのさらなる貢献に努めたいと思います。

※ 本内容は特段の記載がない限り、本誌発行年時点での自社調査に基づいて記載しています。