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分光エリプソメトリーでわかること

4.1 光学定数のエネルギー依存性と材料物性

分光エリプソメトリーで測定される波長領域(近赤外-可視-紫外)の誘電率は、ほとんど物質の電子分極によって決まります。よって、物質の屈折率や誘電率のエネルギー(波長)依存性は物質の電子状態を表します。例えばガラスなどの無機絶縁体は束縛電子の結合エネルギーが高いため、近赤外-可視領域では透明で紫外や遠紫外領域以外の光は吸収しません。しかし金属や透明電極は自由電子を持つので、近赤外-赤の領域の光がかなり吸収されます。

図16にその代表例を示します。グラフの横軸はエネルギー(範囲:0.6-6.5eV)、縦軸は屈折率(\(n\))と消衰係数(\(k\))です。

図16:材料の光学定数のエネルギー(波長)依存性の例

図16:材料の光学定数のエネルギー(波長)依存性の例

◆二酸化ケイ素

二酸化ケイ素(SiO2)の屈折率(\(n\))は可視領域において1.46程度と比較的低い値であり、波長分散も小さく約0.1程度です。またバンドギャップが約9eVと広いため、0.6-6.5eVの範囲では消衰係数(\(k\))は完全にゼロになり、透明な膜であることがわかります。

◆シリコン

\(n\)は可視領域において3.5-7.0程度と、二酸化ケイ素と比べて値、波長分散ともに大きくなります。また、単結晶 (c-Si)、多結晶 (p-Si) 、アモルファス (a-Si)ではそれぞれ異なる波長分散スペクトルを示します。c-Siでは3.4eV、4.3eVにバンド遷移特有のシャープなピークが現れます。p-Siになるとこれらのピークがブロードになり、a-Siではこの2つのピークが1つの緩やかなピークに変わります。このピークの高さや半値幅からSiの結晶状態を評価することができます。

◆窒化ガリウム

青色発光ダイオード(LED)などに用いられる窒化ガリウム(GaN)は、バンドギャップより低い近赤外~可視領域では\(k\)がゼロですが、バンドギャップ付近で\(k\)が急峻に高くなり、高い結晶性による\(n\)\(k\)のシャープなピークが見られます。バンドギャップは吸収端より計算できます。

◆酸化インジウムスズ

透明電極などに用いられる酸化インジウムスズ(ITO)は可視領域では透明(\(k\)がゼロ)ですが、近赤外側で自由電子による大きな\(k\)のピークが見られます。電気を通す材料ではこの範囲に吸収が見られ、その大きさや半値幅を示すパラメータをもとに、導電性、抵抗率、キャリア密度などの電気特性の評価ができます。このITOも前述のSiと同様に、結晶性が変わるとバンド構造部分のピーク形状が変わります。

4.2 計測できるサンプル

分光エリプソメトリーでは、以下のような様々なサンプルを測定することができます。

◎基板(基材)

半導体や金属などの不透明材料のほか、透明材料でも測定可能です。

透明材料はガラスのようなアモルファス材料、樹脂などの高分子材料、サファイアなどの結晶材料でも測定することができます。また粉体を固めた焼結体やPETなどの薄いフィルム基材でも測定可能です。ただしフィルム基材の場合は裏面反射を含むと測定が難しくなるため、これの除去が必要になります。

◎薄膜材料

絶縁体、半導体などの無機材料や低分子、高分子のような有機材料でも単層、多層にかかわらず測定可能です。測定可能な薄膜の膜厚は数Å~数十μmです(ただし材料や膜質、装置の仕様によります)。

◎液体材料

分光エリプソメトリーでは固体のみならず、液体自身の光学定数(n&k)測定のほか、液-液界面あるいは固-液界面状態の評価、液中、液上における薄膜評価なども可能です。

4.3 計測が難しいサンプル

以下のサンプルは測定に注意が必要です。

  1. 表面ラフネスが非常に大きいサンプル

    表面ラフネスが非常に大きいサンプルの場合、サンプル表面で光の散乱が起こることがあり、その散乱光は非偏光な光となります。これを偏光解消といいます。分光エリプソメトリーの解析は反射光が完全に偏光であることを前提としており、偏光解消を多く含む(およそ20%以上)場合は正しい膜厚、屈折率、消衰係数を求めることが難しくなり、注意が必要です。測定可能な表面ラフネスの目安は、測定波長の数分の1以下です。

  2. 金属の膜厚評価 
    金属の膜厚が厚くなると、測定波長範囲全体に渡って光は金属薄膜に完全に吸収されてしまい、金属薄膜の下にある基材あるいは薄膜材料まで届きません。そのため、金属薄膜とその下の材料との界面に関する情報が得られず、金属のバルクとして見なされることから膜厚を求めることが困難になります。評価可能な膜厚の限界は金属の種類や状態によって変わり、30~50nm程度です。一般的な金属では100nm以上になると、膜厚の評価は不可能です。

  3. 低屈折率コントラスト薄膜
    基材と薄膜材料、あるいは多層膜の隣接する薄膜材料の屈折率差が非常に小さい場合、界面が明確にならず区別がつかなくなるため、各層の膜厚を求めることが難しくなります。

    例えば石英基板上の二酸化ケイ素薄膜は、ともに材料がSiO2で同じ屈折率であるため、薄膜の膜厚を求めることは難しくなります。

    また半導体分野においてSiやGaAsなどの基板上に、同じ材料を結晶成長させるホモエピタキシャル薄膜も、同様の理由から膜厚測定が困難です。

    ただし基材-薄膜、薄膜-薄膜間の屈折率差が0.005以上(目安)ある場合や、基材-薄膜、薄膜-薄膜間に界面などが形成されてしまった場合などは、膜厚評価ができることがあります。このようなサンプルを評価するには、高性能な装置と測定のノウハウが重要になります。

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