はじめに

食品には自家蛍光を含むサンプルが多く、食品化学の分野ではこれまでにチーズや植物油の酸化、有害物質の検出等に蛍光分光法が使われてきました。その理由に、蛍光発光が物質特異的であること、また高感度に検出が可能であることが挙げられます。しかし食品由来の蛍光発光は単一成分由来であることはほとんどなく、通常複数成分が混ざり合った状態で観察されるため、複雑な発光を示します。

三次元蛍光測定 (蛍光指紋) は、これらの発光情報を一度に測定できる簡便な方法です。また、得られた蛍光指紋情報にケモメトリクス解析の一つ、平行因子分解 (PARAFAC)を行うことにより、重なり合ったピークを同じ発光挙動を示す成分に分離することが可能です。PARAFAC解析では、分離されたピークがEEMで表示されるため、視覚的に蛍光成分を評価できます。
そこで今回、自家蛍光を持つポリフェノールを多く含む赤ワインを使い、一見違いが分かりにくい赤ワインの蛍光情報を視覚的に表した例を紹介します。

実験手法

サンプルには、産地やブドウ種の異なる赤ワイン下記7種を用意しました。

Italia産 50% Cabernet Sauvignon, 50% Merlot (Italia)、 Italia産 ブドウ種情報なし (Italia N/A)、Chily産 Merlot (Chily)、California産 Merlot (Cal)、 Argentina産 Malbec (Arg)、France産 55% Cabernet Sauvignon, 40% Merlot, 5% Petit Verdot (France)、 Spain産 50% Tempranillo, 50% Gamacha (Spain)

これらのサンプルを278 nmにおけるOD値が0.6になるように純水で希釈して調整しました。その後、三次元蛍光測定装置 Dual FL (図1) の3D+Absモードで1サンプルにつき3回測定を行い、蛍光指紋を取得しました。測定条件は下記表1に示します。測定後、Inner Filter Effect (IFE, 内部遮蔽効果)補正とレイリー散乱補正をした後、PARAFAC解析を行いました。

表1. 測定条件

測定モード:3D+Abs
励起スキャン範囲: 240~850 nm
蛍光スキャン範囲: 240~850 nm
波長送り分: 3 nm
スリット幅(バンドパス)
励起側: 5 nm
発光側: 5 nm
取り込み時間: 0.1 s
水ラマンシグナルで標準化

図1. 三次元蛍光分光装置 Dual FL
図1. 三次元蛍光分光装置 Dual FL

結果と考察

 

赤ワインサンプルの蛍光指紋の一例を図2に示します。蛍光指紋上では、一見違いが見えませんが、統計的手法によって蛍光色素分子を表す励起-発光成分に分解することができます。図4にPARAFAC解析により、3成分に分離された蛍光色素分子の蛍光指紋を示します。過去文献より、これらの成分はいずれもポリフェノール類で、左から順に、プロシアニジン様 (図3, a)、フェノールアルデヒド類(図3, b)、ゲンチシン酸 (図3, c) と考えられます1

図2. 赤ワインの蛍光指紋

California産赤ワインの蛍光指紋データ

図3. PARAFAC解析結果

(a), (b), (c); 分離された各成分の蛍光指紋
(a) Component 1, (b) Component 2,
(c) Component 3
(d) 分離された成分の励起スペクトル
(e) 分離された成分の発光スペクトル

 

 

次に、PARAFAC解析から得られた各成分の含有比率を図4に示します。PARAFACでは、各成分の含有量情報がローディングとして表示されます。各ローディング結果を用いて各成分の含有比率を比較したところ、ワインの違いが示されました。

図4. PARAFACによる成分比解析

California産ワインの蛍光指紋 (a) と成分比 (b)、
Chily産ワインの蛍光指紋 (c)と成分比 (d)

おわりに

今回、赤ワインに含まれる複雑な発光情報を、蛍光指紋を用いて網羅的に取得することができました。また、蛍光指紋に含まれる蛍光色素分子の情報について、ケモメトリクス解析を行うことにより成分分離や成分比率推定を行うことが可能です。


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三次元蛍光測定(蛍光指紋)を用いた
赤ワインの成分分析

参考文献

[ 1 ]  Diego Airado-Rodriguez et. al., Journal of Food Composition and Analysis, 24, (2011), 257-264