次世代レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置 Partica LA-960

各種の工業プロセスで取り扱う粉体粒子の大きさは、製品の機能性を特徴づける重要な要素の一つです。レーザ回折/散乱式の粒子径分布測定装置は、セラミックスや顔料、電池材料、触媒、化粧品、食品、製薬など、幅広い分野で研究開発や品質管理の目的で使われています。粒子関連市場の動向に目を向けると、近年のナノテクノロジーの発展により、粒子微細化・複合化の技術は目覚しく進歩し、より微細な粒子の粒子径分布をより正確に測定する要求が高まっています。LA-950V2は、ハードウェア性能において、その完成度は非常に高く,評価の高い装置でした。一方で、データ解析性能は、近年のコンピュータ技術の目覚しい発展により大幅に向上しており、装置本体で検出された光信号を解析する能力には向上の余地がありました。Partica LA-960は、最新のデータ解析技術を導入し、大幅な解析能力の向上を実現した次世代レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置です。

最小粒子径の測定精度向上

従来機種から継承する二波長光学系による測定ワイドレンジに加えて、微弱光測定に対応した信号処理のアルゴリズムを新たに開発し、世界最小粒子径20nmの標準ポリスチレンラテックス粒子に対して±0.6%の高精度測定を実現しました。

測定可能な粒子径上限の拡張

光学系の構成図をFigure 2に示します。フローセルとリングディテクタ間の長い光路長を有効に活用することで、高い空間分解能を実現しています。これにより、大粒子に感度を持つ低角の散乱光信号を高精度で安定に検出することが可能となっています。LA-960では、最大5000 μmまでのワイドレンジ測定を実現しています。また、光学系の検出器を高さ方向に配列することで、床面積を従来機とほぼ同じに留め試料室を広く確保し、日常の試料室内メンテナンスがしやすい構造となっています。

Figure 2?LA-960 optical system

最新の演算アルゴリズムの導入

最新のデータ解析理論を導入し演算アルゴリズムを新たに開発しました。全粒子径範囲に渡って安定した高品質の解析性能を提供します。また、新演算ではこれまで事前に入力が必要であった反復回数パラメータが不要となりました。粒子径分布演算が実行されると、最適な演算条件が自動設定されます。

新ソフトウエアGUI

LA-960では、ソフトウエアGUIに全面的な改良を施しました。ソフトウエアデザインを一新すると同時に、操作性と視認性を向上させました。使用頻度の高い操作ボタンやアイコンは実用を考慮して再配置しました。使用頻度の高い操作ボタンは大きく表示し、フォントサイズも大きくし、視認性を高めました。

Figure 3は、測定画面であり散乱光強度と簡易的に算出された粒子径分布がリアルタイムで表示されます。測定を最適な分散状態で開始するために、粒子凝集や気泡混入の有無などを本画面上で確認します。もし、凝集、気泡混入が確認されれば、超音波分散処理や空気抜き処理のシーケンスを実行して分散状態を最適化します。

Figure 3?Measurement window

Figure 4は、測定結果画面です。粒子径分布表示は、グラフ形態、積算分布表示など、オペレータ任意の表示が可能です。測定条件と測定結果の情報は上部に表示されます。拡張機能として、測定結果を様々な方法で解析するためのツール、例えば、散乱光解析、検出器出力確認、分布ピーク分離ツールなどが準備されています。これらの機能を有効活用することで多様な解析が可能になります。

Figure 4?Measurement result window

旧機種とのデータ互換

LA-960ソフトウエアは、一世代前の機種であるLA-950V2との完全なデータ互換機能を標準仕様としてサポートしています。また、二世代前の機種であるLA-920に対しては、有償にてデータ相関機能を搭載したソフトウエアを提供します。


粒子径分布解析性能の向上

レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置では、検出された散乱光信号はMie散乱理論に基づいて解析され、粒子径分布が算出されます。LA-960では、近年のコンピューター性能の進歩により実現可能となったデータ処理の高速化や最新の計算理論を導入しています。ここでは、その内容の詳細について紹介します。

次世代解析アルゴリズムの採用

静的光散乱式の粒度分布測定装置では、粒度分布算出時に行列の逆問題を解く必要があります。従来機LA-950では、Twomey反復法と呼ばれる、1960年代に開発された古い計算方法を用いていました。しかし、行列の逆問題は数学的にはインターネットの検索問題や生体信号の解析と類似する点が多く、近年さまざまな解法が開発されています。LA-960では、これらの解法を分布算出問題に適用することにより、Twomey反復法では実現できなかったピーク位置精度や偽解の低減を実現しています。具体的には、対称LQ法(Symmetric LQ method),MRNSD法(Modified Residual Norm Steepest Descent method),HyBR法(Hybrid Bidiagonalization Regularization method)など複数の解法をLA-960の演算アルゴリズムに使用しています。

Mie散乱理論関数の高精度化

Figure 5?3-D ray tracing-applied Mie scattering modeling

装置本体で検出された散乱光信号から粒子径分布をより正確に計算するには、測定試料の相対屈折率に対応した高精度のMie散乱理論関数が必要です。今回、理論関数計算を高精度化するため、取り扱うデータ長を増加しました。すなわち,、数内で使用されている基本数をDouble(64ビットプリミティブ浮動小数点)から、BigDecima(l 任意精度符号付小数)に変更しました。これにより、粒子径分布演算で実行される無限級数演算において発生する桁落ちや情報落ちを最小限にとどめ、十分な演算精度(表示部と同等の精度)を確保することができました。しかしながら、扱うデータ量およびオブジェクト生成時間の増加により、Mie散乱理論関数の計算時間の遅延が懸念されました。この問題には、演算処理の並列化とキャッシュ活用による演算効率化により対応し、計算の高速化を実現しています。現行機種並みの時間で精度の高いMie散乱理論関数の作成が可能となっています。

LA-960では3次元モデルを基本とした光線追跡技術により、セルやスリット、検出器、散乱光源などを統一的に扱える試験環境において、理想的なMie散乱理論関数の評価を行いました。LA-960のMie散乱理論関数には、検出器や光源の機械的誤差の影響、セル内外の反射光の影響などが精密に考慮されており、より正確な測定の実現に大きく貢献しています(Figure 5)。


測定結果例

LA-960の測定性能を示す測定例を紹介します。

単分散試料の測定例

Figure 6は、測定下限粒子径付近の20nm標準ポリスチレンラテックス粒子の3回連続測定の結果です。3測定の結果はいずれも測定精度±0.6%以下の範囲にあります。微弱光信号の処理性能が大幅に改善され、20 nmPSLの高精度/高感度測定を可能としています。

Figure 6?20 nm polystyrene latex(NIST Standard)

Figure 7は、測定上限付近の4 mm径ガラスビーズの測定結果です。LA-960では、微弱光信号に対する解析性能の向上と測定上限の拡張により、従来よりもさらにワイドレンジでの高精度測定を実現しています。

Figure 7?Glass beads(4 mm)

多分散試料の測定例

多成分混合試料の測定結果例を示します。LA-960では、混合粒子の各粒子径ピークの位置、および混合比率において高精度測定を実現しています。Figure 8は、異なる2種類のガラスビースの混合試料の粒子径分布測定結果です。ピーク位置およびピーク
高さについて、それぞれガラスビーズ径22 μmおよび100 μm位置に正しく分布ピークが得られ、ピーク高さも混合比3:7で正確に得られています。

Figure 8  Bimodal glass beads(GBM-20:D50=21~23 μm,GBL-100:D50=99〜101 μm),mixing ratio 3:7(GBM-20:GBM-100)

Figure 9は、3種の異なる粒子径分布の測定結果です。ピーク分解能の高さを示す結果の一例です。

Figure 9?Trimodal PSL(0.08 ?m?6 ?m?100 ?m)

Figure 10は、ブロードな分布の混合試料の測定結果の一例です。各混合アルミナの粒子径1.2 μmおよび6.2 μmの位置に正しくそれぞれの粒子径分布が得られています。

Figure 10? Bimodal Alumina?WA#2000?D50?6.2 ?m, WA#8000?D50?1.2 ?m?

LA-960は、多種多様な粒子の様々な分布形状に対して、高品質の粒子径分布測定性能を提供します。


おわりに

演算系の解析技術の開発を中心にLA-960の装置の特徴を紹介してきました。光学系、循環系、および演算系により構成される装置において、散乱光信号から粒子径分布を算出する演算系は、装置性能を決定付ける上で特に重要な要素です。最新テクノロジーを応用した解析技術を搭載したソフトウエアに、従来機種で長年定評のある高性能ハードウエアが融合しました。品質管理用途はもちろん、科学技術の進歩とともに、今後ますます微細化する粒子計測の要求にも十分に満足してお使いいただける装置です。


謝辞

LA-960の開発および評価には、国内外より多くの方に協力をいただき大変貴重なアドバイスを数多くいただきました。この場
を借りて心より感謝します。LA-960が、ユーザの日ごろの品質管理から研究開発まで、幅広い分野においてお役に立てれば
幸いです。

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レーザ回折/散乱式 粒子径分布測定装置 LA-960

参考文献

[1] 東川 嘉昭,Readout (HORIBA technical report),30, 74 (2005)