透過ラマン分光法とその応用

材料分析において、バルク材の平均的なマクロスケール情報が必要な場合に透過ラマンモードが有効です。

1.はじめに

透過光学系でのサンプルの測定によって、顕微タイプのような後方散乱光学系では測定できない新たな情報を得ることができるようになります。透過ラマン分光(Transmittance Raman Spectroscopy ; TRS)法は、新しい手法ではないものの、高出力近赤外レーザと透過ラマン専用のアクセサリの開発によって、最近再び注目を集めるようになってきました。
TRSは錠剤のような光拡散する材料に有効なため特に医薬品応用分野で発展しました。
この方法は、カプセルなど光が透過する材料についての主構成成分のスペクトルを得たい場合に適用できます。また、医薬品のパッケージ越しに内部を分析する場合にも利用できます。他に生体材料(組織、食品)や高分子材料といったさまざまな分野での応用が考えられます。

2.透過ラマン分光法

図1:光学配置の比較   顕微ラマン後方散乱(左)、透過ラマン(右)
図1:光学配置の比較 顕微ラマン後方散乱(左)、透過ラマン(右)

ラマン分光法は、ここ数十年でハードウェア技術が著しく進歩しました。今では、顕微ラマン分光法の応用が広がり、サブミクロンレベルの微小領域分析が可能になってきました。
しかし、顕微ラマンでは試料の微小領域、表面近傍、微量体積に限定されるために、不均一な試料の場合に十分に正確な情報を得ることが困難になる場合があります。透過ラマン分光はこのような場合に不均一試料のバルク測定への応用が期待されています。

図1に示すように、TRSはレーザ照射部の反対方向からラマン散乱光を集光する光学系を有し、その透過光から得られるラマンスペクトルは試料全体の情報を反映しています。対照的に顕微光学系による後方散乱測定では、表面コートされているような医薬品錠剤では、コーティングの構成成分が主として検出されてしまいます。


図2: 消炎鎮痛錠剤(Advil:ibuprofen)のラマンスペクト   光学配置:透過(緑線),後方散乱(青線)
図2: 消炎鎮痛錠剤(Advil:ibuprofen)のラマンスペクト 光学配置:透過(緑線),後方散乱(青線)

図2に、消炎鎮痛錠剤(Advil:ibuprofen)の透過および後方散乱のラマンスペクトルを示します。青線のスペクトルは主にTiO2(145cm-1のピークはアナターゼ型であることを示しています。)およびコーティング主成分の糖のスペクトルが現れています。一方、透過ラマンスペクトルでは、コーティング由来のアナターゼのピーク以外にも内部の医薬品有効成分(API:Active Pharmaceutical Ingredient)由来であるibuprofenのピークが観測されています。


3. 透過ラマン分光法の医薬品への応用
4. 食品の脂肪含有率の分析
について解説しています。以下のPDFをご覧ください。