ラマンイメージング

ラマン分光法に顕微技術を組み合わせた顕微分光手法を、ラマン顕微分光法といいます。試料上を励起光が走査する走査系を組み込むことで、分子構造の空間分布を調べることができます。

代表的なラマンイメージング法

現在ある、ラマン顕微分光手法の走査系は、

  1. 共焦点ラマンイメージング
  2. ライン照明ラマンイメージング
  3. 広帯域照明ラマンイメージング

の3つに大別されます。測定試料の性質に合わせて、走査系を変更して、試料が持つ分子構造や物性の空間分布を取得します。

1. 共焦点ラマンイメージング

図1. 共焦点ラマンイメージング光学系概略図
図1. 共焦点ラマンイメージング光学系概略図

共焦点ラマンイメージング光学系は、観察対象上のある1点に対応する共焦点位置にピンホールを設けることで、その1点からの散乱光を効率よく検出する光学系です。画像化を行う際は、試料をステージスキャンにより動かし各点からの信号を取得するか、ガルバノミラー等を用いて焦点位置を走査させ試料上の各点からの信号を取得する方法をとります。

共焦点ラマンイメージング光学系の特徴は空間分解能です。共焦点光学系の空間分解は、対物レンズの開口数(N.A.)、波長と共焦点上に設けたピンホールサイズによって決まります。対物レンズのN.A.と波長によって決まる空間分解能をレイリー(Rayleigh)による定義である分解能といい、試料上の二つの輝点を分解する二点間の距離を言います。ピンホールのサイズを小さくすることで、さらに空間分解能を上げることができます。しかし、ピンホールのサイズを小さくしすぎると、回折現象の影響を受け、検出器に結像された光がサイドローブを持ち、像情報を歪めます。なので、サイドローブを避けるために、ピンホールのサイズを適正化させる必要があります。ピンホールのサイズを適正化するためには、ピンホールで結像され、できるエアリーディスクの直径サイズを基準に行うのが一般的です。

共焦点技術の特徴はZ方向測定が可能なことです。この特徴を利用し、観察試料を立体的にとらえる3次元イメージングが可能です。我々が提供しているLabSpec6の機能により、直観的な操作で、簡単に3次元イメージングを行うことが可能です。試料を立体的に捉えることで、試料に発現する物性の要因解明などに役立てられています。

2. ライン照明ラマンイメージング

図2. ライン照明ラマンイメージング光学系概略図
図2. ライン照明ラマンイメージング光学系概略図

ラマン分光で用いられる検出器は2次元の検出面を持っていることが一般的です。ライン照明では、“行列“状に並んだ各素子の、行を波長に対応した情報を与える並びとして用い、列を試料上の空間分布に対応した並びとして使用します。このように、2次元検出器全面を利用するのがライン照明ラマンイメージングです。この手法は、試料へのダメージを抑えることができる一方で、共焦点ホールでなくスリットを通すため、Z方向の分解能が悪くなります。

3. 広帯域照明ラマンイメージング(Widefield Global imaging)

図3. 広帯域照明ラマンイメージング光学系概略図
図3. 広帯域照明ラマンイメージング光学系概略図

共焦点ラマンイメージングやライン照明ラマンイメージングは、光を試料上で走査させる必要があるため、画像取得に時間がかかります。試料全体をワンショットで照射できれば、画像取得時間を大幅に短縮することができます。この全体照明手法を利用したラマン顕微分光法を広帯域照明ラマンイメージングといいます。試料上を全体的に照らすことで得られる各点からのラマン散乱光は、2次元検出器の各素子上に結像されます。

この手法では、分光させた光すべてを検出面に結像させることができないため、音響光学可変波長フィルター(AOTF)やチューナブルバンドパスフィルターを検出器前に配置し、検出する光の波長を掃引し分光像を取得します。この手法では、ワンショットでの撮像により画像取得時間の短縮化が図れる一方で、試料断面方向の空間分解能が大きく悪くなることが問題となっています。

 


ラマンイメージングに用いるパラメーター

ラマンイメージングの構築に使用するパラメーターは、各振動モードのピーク強度、ピーク幅やピークシフトなどが一般的です。それぞれ、組成情報、結晶性、応力などの分布を表すことに用いられています。


ラマンイメージングの最新動向(TERS / SRS)

ラマンイメージング法の発展する方向は二つあり、高空間分解能イメージングと高速イメージングです。高空間分解能イメージングを得る技術の代表的な例は、先端増強場を利用したチップ増強ラマン (TERS: Tip-enhanced Raman Scattering) 顕微分光法です。

図4. チップ増強ラマン顕微分光法(TERS)の光学系概要
図4. チップ増強ラマン顕微分光法(TERS)の光学系概要

光学顕微分光法には回折限界による空間分解能の壁があります。我々は、近接場で試料を照らし、回折限界を超える空間分解能で顕微分光する方法としてチップ増強ラマン顕微分光法を提供しています。金属短針に光を照明することで針先数十ナノメートル領域に近接する新たな光を誘起されます。それを微小光源として試料を照らしラマン散乱光を取得することでナノメートルの空間分解能を実現する技術をTERSと呼びます[図4]。

高速イメージングの代表的な例は、ラマンの非線形現象を利用したCoherent Anti-Stokes Raman Spectroscopy(CARS)や誘導ラマン現象を利用したStimulated Raman Spectroscopy (SRS)と検出器の伝送時間ロスを低減した高速撮像技術です。非線形現象で最近注目を集めているのは、SRSです。これは、高い分子識別能と高感度を併せ持った次世代のラマン顕微分光技術ともいえます。SRSは、ビデオレートで生体組織を迅速にとらえることが可能な技術として期待されています[図5]。

図5.  誘導ラマン(SRS:Stimulated Raman Scattering) 顕微法による血球像
図5. 誘導ラマン(SRS:Stimulated Raman Scattering) 顕微法による血球像

 

当社で提供している高速撮像技術のソフトウェアをSwiftといいます。Swiftは、一点あたりの露光時間が1 msec以下の条件で、高速で高感度なラマンイメージングが可能な高速撮像技術です。高精細なイメージを短時間で取得することが可能です。

さまざまな物理現象や光学技術を利用することで、ラマン顕微分光法の超解像化と高速化が進み、ナノオーダーの空間分解能で、観察試料の挙動を捉える、他の分析方法では提供できない情報を得られる手法へと発展する可能性に期待しています。


 ラマンイメージングアプリケーション例