株式会社堀場製作所 科学半導体開発部 中 庸行
本論文は著作権者である(一社)大阪工研協会様の許可のもとに掲載しています。

1. はじめに

図1 AFM-Ramanの外観

顕微ラマン分光装置 と原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope : AFM)との複合装置(AFM-Raman)は、ラマン分光による化学情報[1]とAFMによる表面形状・物理情報[2]とを効率的に取得できる分析ツールである。本発表では、AFM-Ramanの原理、様々な構成を述べるとともに、光の回折限界を超える空間分解能でラマン分光測定が可能であるチップ増強ラマン分光(Tip- Enhanced Raman Spectroscopy : TERS)[3]によるカーボンナノチューブ・グラフェンの測定データを紹介する。


2. AFM-Ramanの特長

カーボンナノチューブやグラフェンに代表されるナノマテリアル材料の評価において、AFMはナノメートルオーダの微小領域の観察・物理量測定に威力を発揮し、また、その化学構造を同定するために顕微ラマン分光法は極めて有効である。一方で、AFMで観察した箇所を顕微ラマン分光装置で測定するには、AFMのナノメートルスケールと顕微鏡のマイクロメートルスケールとの違いから、それぞれの装置で測定箇所の特定することは簡単ではない。2つの分析技術を統合した AFM -Ramanは、ナノマテリアルの同一領域・同時測定を短時間で簡便に実現したいというニーズに応えるために開発された複合分析装置である。特別なサンプル調製を必要とせず、大気下において非常に微小な領域を測定することができるといった点でもラマン分光装置とAFMは適した組み合わせと言える。図1に堀場製作所製AFM-Ramanを示す。

昨今、多くのラマン分光装置メーカ、SPMメーカから複合装置が開発・販売されている。それぞれの装置によって特長は異なるが、顕微ラマン分光測定のタイプは以下のように分類される。

  1. 正立顕微鏡・レーザ下方照射
  2. 正立顕微鏡・レーザ斜方照射
  3. 倒立顕微鏡・レーザ上方照射

これらのタイプは、対象となる測定サンプルの透明性やプローブ形状によって選択される。なお、図2(a)の装置は1、2、図2(b)の装置は3の装置構成に分類される。

 

図2 AFM-Ramanの光学配置

3. TERSイメージング測定

図3 TERSにおけるプローブ先端のプラズモン

図3に、TERS測定におけるプローブ先端の模式図を示す。光の回折限界を超える空間分解能を実現するTERS測定においてもっとも重要な技術的ポイントは、局在プラズモンを励起する金属プローブである。現在までは主にAFM用カンチレバーのプローブに金属をコーティングしたもの、あるいはSTMプローブのような金属ワイヤの先端を鋭利に加工したものを用いるものが一般的である。課題は得られるスペクトル強度(増強度)の再現性、および測定対象サンプルごとの最適なプローブの開発と考えられる。

また、表面プラズモン励起は光の波長、金属ナノ粒子の形状・サイズなどに依存し、各サンプルの励起波長ごとのラマン散乱効率などを考慮した測定条件の設定も重要となってくる。現在まで、カーボンナノチューブやグラフェンといったナノカーボン材料の評価に対して、TERSは非常に有効な手法であることが認識されつつある。ここでは、その一例を示す。

図4は、金基板上にカーボンナノチューブ、酸化グラフェンを配置して金プローブでTERSイメージング測定を行った結果である。表2に示すように、増強効果を用いることで本測定においては1点あたり8 msec、2 x 2 μm、40,000点の測定を8分9秒といった短時間での測定が可能であった。

図4(a)はトポグラフィイメージであり、ナノチューブおよびグラフェンフレークと思われるイメージが取得されている。図4(b)は本測定で得られた代表的な酸化グラフェン(青線)、カーボンナノチューブ(赤線)のスペクトルである。いずれのスペクトルも明確なD-bandおよびG-bandが取得され、また、カーボンナノチューブのスペクトルには2D-bandも明確に確認できる。これらD-band、G-band、および2D-bandの強度分布でイメージを作成したものが図4(c)である。

このイメージにおいて見積もられるカーボンナノチューブ直径は10 nmであった。すなわち、本カーボンナノチューブ測定において、10 nm径のカーボンナノチューブを検出可能と言える。以上の結果は、金基板上のナノチューブ及びグラフェン構造を、短時間でしかもナノメートルスケールで分類できることを示している。

(a) AFMイメージ
(b) TERSスペクトル
(c) TERSスペクトルイメージ

                               図4 カーボンナノチューブおよび酸化グラフェンのTERS測定結果

 

表2 TERSイメージング測定条件
励起レーザ照射方向斜方照射
プローブ金(チューニングフォーク)
励起レーザ波長638 nm
対物レンズ倍率:100X、開口数:0.7
励起レーザ照射パワー6 mW
測定領域 / 測定間隔2 x 2 μm / 0.01 μm
一点あたりの測定時間0.008秒(8 msec)
トータル測定時間8分9秒

4. まとめ

AFM-Ramanは、簡便に材料表面の物理、化学情報を得るための有効な複合装置である。また、単にAFMとラマン分光測定を行うだけでなく、特殊なプローブを用いることでTERS、あるいはSNOMを組み合わせた測定が可能であり、AFM-Ramanはナノメートルスケールの構造解析ツールとして今後ますます発展する可能性を有する。一方で、様々な材料のナノ分析への展開のポイントなる新規プローブ、測定手法の開発には、分析メーカのみならず材料メーカとの連携が必須になるものと考えている。

当アプリケーションノートPDF版はこちら
高速イメージングAFM-Ramanによるナノレベル材料特性評価


参考文献

[ 1 ] 濱口宏夫, 岩田耕一, ラマン分光法, (講談社, 2015).
[ 2 ] 秦信宏, 秋永広幸,走査型プローブ顕微鏡入門, (オーム社, 2013).
[ 3 ] E. Bailoa, V. Deckert, "Tip-Enhancement Raman Scattering", Chem. Soc. Rev., 37(3), 921 (2008).