半導体構造の表面にかかる応力分布をイメージ

ラマン測定では、試料に作用している応力を測定することができます。
応力が作用している試料のラマンバンドは、応力が作用していないときのピークの位置からシフトします。シフト量は1cm-1以下のことが多く、点分析では、応力の分布が捉えにくいことがあります。

例1: シリコンデバイスのマイクロ加工構造に作用する応力を測定

右の試料の観察像中の四角で囲まれた部分をマッピング測定しました。左の図は、試料の測定部位内のピークのシフト量を示しています。左の図のようにマッピングすることで、試料にどのように応力が作用しているかを見積もることができます。

 

3Dイメージは、活性ゾーンの端にある浅いトレンチ(溝)に機械的応力が働いていることを示しています。ここで、プラス方向のシフトは圧縮応力を意味します。


例2: 【応力の評価】単結晶シリコンの二軸引張試験

平面二軸応力が負荷されている単結晶シリコンの微小構造体周辺をマッピング測定しました。得られたピークシフトを解析したところ、最大で約680MPaの平面二軸応力が負荷されていました。

  • マッピング領域:7μm×7μm
  • 測定ピッチ:0.2μm

シリコン構造体周辺の応力分布

無歪シリコンとのピークシフト差から応力値を算出しています

UV(紫外)ラマン分光法:半導体表面のナノメータスケール薄膜の測定

歪みシリコン(Si)や、シリコンゲルマ(SiGe)薄膜層はナノメートルオーダーで形成され、その薄膜にかかる応力を評価するためには、試料の表面層だけを選択的に測定する必要があります。UVレーザーを使用すれば、Si、SiGeへの光の侵入長が小さいため、表面層のラマンスペクトルを選択的に測定することができます。

例1: シリコン(Si)基板上の厚さ100nmのシリコンゲルマSi70Ge30薄膜を波長の異なる3種類のレーザーで測定

633nmのレーザーで測定したスペクトル(右図)では、強い高波数側のピークがSi基板由来のスペクトルで、その横に出ているピークが最表面のSiGe薄膜のラマンバンドです。基板へのレーザーの侵入深さがSiGeフィルムの厚みよりも大きいため、基板のSiのスペクトルが強く測定されています。

351nmのレーザーで測定したスペクトル(左図)では、Siのラマンバンドはほとんどなく、最表面SiGe層のラマンバンドのみが測定されています。


例2: ラマンマッピングによるシリコン(Si)層とシリコンゲルマ(SiGe)層の間に生じた応力のモニター

Si基板上SiGe薄膜の応力測定の例です。Siと同様SiGeのラマンピークシフトからもSiGe層にかかった応力を評価することができます。左のスペクトルイメージは、Siピーク強度の分布を示しており、ピーク強度が高い白い領域は、SiGe層が薄いことを示しています。SiGeピークの波数シフトのイメージ(右図)を見ると、ピーク位置が低波数にシフトしている黒い領域は膜厚が薄い領域に対応しています。試料のピークシフトの分布を測定することで、試料に作用している応力の分布を知ることができます。

また、この例は、マッピング領域がわずか5μm角でありながら、非常に微細なラマンイメージを取得することができていることから、UVレーザーを用いると高い空間分解能が得られるという特徴を示しています。

UV励起(244nm)を使用することで高い空間分解能(0.4μm)が得られた。

マッピングエリアX × Y=5 × 5 (μm)

結晶性評価

結晶性の解析は重要なラマンアプリケーションの一つで、シリコンの場合、結晶シリコン、ポリシリコン、アモルファスシリコンの評価に用いられます。下のスペクトルは、シリコンの結晶性の違いによるラマンスペクトルの波形の違いを示しています。

[用語解説]

  • アモルファスシリコン(a-Si)
    比較的簡単な加工で半導体素子を作成できる。TFT (Thin Film Transistor) 、太陽電池などに応用される。原料ガスに含まれる水素が膜中に取り込まれ、シリコンの未結合手(ダングリング・ボンド、dangling bond)が水素で終端されるため、欠損密度が比較的小さく電子移動度が低いという電気的性質を持っている。光電特性にも優れている。
  • ポリシリコン(P-Si)
    LCD用TFTなどに応用され、a-Siとc(結晶)-Siの中間。異なる方位を有する単結晶のシリコンの粒(「単結晶粒」)で構成されている。結晶-Siと比べれば移動度が低くなるものの、無定形なa-Siと比べればキャリア移動度ははるかに大きい。

結晶方位

結晶方位によるラマンスペクトルの違いをGa-Asを例に示します。ラマン選択則に従いLO(縦光学)フォノンとTO(横光学)フォノンのスペクトルが現れます。シリコン等などLOフォノンとTOフォノンの波長が同じ場合でも、偏光測定をすることで、同様に結晶方位を知ることができます。

[用語解説]

格子振動を量子化した準粒子をフォノンという。電磁場の量子。

試料:Ga-As

半導体ウェハのPL高速マッピング

3インチAl In Ga PのMQWウェハのピーク波長マッピングの比較

ウェハの全面マッピングをすることができます。
また、高速測定機構SWIFTを用いることで、通常のポイントマッピングよりも高速にマッピング像を得ることができます。

通常のポイントマッピング
測定時間1時間10分

SWIFTを用いたポイントマッピング
7分10秒