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「PM2.5」は、大気中を漂う粒径2.5μm以下の微小粒子。PMはParticulate Matter(微小粒子状物質)の略で、煤(炭素)や金属、有機物、化学物質といったさまざまな物質の総称。髪の毛の幅の1/30程度と、非常に小さいため肺の奥深くまで入りやすく健康影響が心配されている。
PM2.5の発生源は火山の噴煙や砂漠の黄砂など自然起源のものもあるが、工場のばい煙や自動車の排気ガスなどの大気汚染ガスを起源とする微小粒子が特に問題。これらの大気汚染ガス中には、煤や金属も含まれるが、PM2.5の中で構成比が最も高いのは硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOC)のガスから2次生成した「化学イオン成分」。これらが全体の半分以上を占めると言われる。

慶應義塾大学理工学部の田中茂教授のグループでは、JST(科学技術振興機構)支援を受け、(株)インターアクションと東京ダイレック(株)との共同で「PM2.5中の酸性度と化学イオン成分濃度の自動連続測定技術」の研究開発を進めています。
これまで科学的な評価手法がなかった「PM2.5の酸性度」を、リアルタイムで連続測定できるこの技術により、PM2.5の実態解明と健康影響への評価への一層の研究の進展が期待されています。

[チームリーダー]
慶応義塾大学
理工学部 環境化学研究室
教授・工学博士 田中 茂
田中  茂

“地球環境”、“環境計測・対策技術”、“酸性雨”の3つの大きなテーマを研究対象として、これらのテーマに関連する研究プロジェクトによる研究成果を基にして、理論的考察及び解析を踏まえて地球環境の実態を明らかにし、21世紀における環境問題の解決・対策に貢献する。

[参画企業]株式会社インターアクション・東京ダイレック株式会社


※本研究はJST平成26年度採択環境問題解決領域 要素技術タイプにて行われました。

人体にも影響を及ぼすPM2.5の「強酸性」。

PM2.5の人体影響(有害性)については、煤などによる「発がん性」のみがクローズアップされがちだが、その「強酸性」も大きな問題だ。
大気中で2次生成した化学イオン成分の粒子には、空気中の水分を取り込む性質(潮解性)がある。大気の湿度が高いとこれら粒子の表面が水分を含み、そこにNOxやSOxが溶け込むことで表面が酸性になる。微小粒子表面での水分量は極めて少ないため非常な強酸性になり、肺に入れば即炎症を起こすと考えられる。こうしたことは従来あまり議論されてこなかった。
それはPM2.5の酸性度の測定に適した測定法がなかったためだ。一般的なPM2.5測定では、粒子をフィルタで集めて分析する。金属や炭素の粒子ならこの方法で問題ないが、強酸性の源である化学イオン成分はフィルタで集めるとアンモニアガスと反応して強制的に中和されてしまう。さらに、これほど微小な粒子のpHを、リアルタイムで連続測定できる装置も従来存在しなかった。

〔フィルタ法によるPM2.5の捕集〕

極微量サンプルのpH測定に

我々の開発した装置は、まず独自開発による「平行板型拡散スクラバ」を用いて、ガスと粒子の混ざった大気から粒子だけを分離する。そしてこの粒子を「捕集用ミストチェンバ」で霧状の水で捕集・抽出した試料液を作る。この時、できるだけ少量の水に溶かす必要がある。水の量が多いとpHが薄められ、有意差が出ないためだ。
そこで活躍するのが、HORIBA製の「マイクロpH電極」。わずか1mlの試料液でも測定可能な電極が、極微量のサンプルのpH測定を可能にしてくれた。

〔マイクロpH電極によるPM2.5試料液中pH測定〕

PM2.5表面の「酸性度」の科学的測定が可能に

我々の装置によって、PM2.5を捕集・抽出した試料液は元の水よりもpH値が下がる(酸性度が高い)ことが判った。この数値を基に計算を行うことで実際のPM2.5表面のpH値を確定できる。特に大気の湿度が高い日にはpH-1〜1という非常な強酸性を持つと推測される。
今後は中国など海外での観測も実施し、さまざまな気象条件や環境要因でpH値がどう変動するかを調べていきたい。疫学の専門家には今後、強酸性の粒子による健康影響にも目を向けて欲しいと思う。
また、長時間連続して安定的な観測が行え、且つ自動校正機能を備えた機器である「UP-100」の評価を現在進めており、将来的にはPM2.5酸性度自動連続測定装置の一部を担えるよう更なる改良を進めてもらいたい。

〔大気中PM2.5の酸性度(pH)の自動連続測定装置〕

薬液濃度モニタ

創業来のpH計測技術を発展させ、新たに超小型キャピラリーpH電極を開発しました

微量サンプリングpHモニタUP-100シリーズ

1測定あたり、500μL(Lの100万分の1)という極めて微量なサンプリング量で測定が可能で、半導体洗浄/エッチング工程、食品製造工程、製薬工程、バイオプロセスなど、pHの連続監視が必要なあらゆるプロセスにご活用いただけます。

pH電極

世界最微量* 50μLから測定可能な温度補償センサ付pH電極。
*2011年6月現在、当社調べ

マイクロToupH電極9618S-10D

容量が確保しにくい水溶液系試料に広くお使いいただけます。タンパクを含む試料には専用洗浄液のご使用をおすすめします。