日本では1960年代、70年代に工場排水などによる水質汚濁が問題になり、その後すべての工場で厳しい排水管理が行われています。現在では、各地方自治体が独自の水質基準を定めて規制を行なっていますが、pHはこれら水質基準の重要な測定項目になっています。
pHは特定の汚染度を示すものではありませんが、水棲生物の生活などに密接な関連があり、異常なpH変化の結果として塩類化合物などの沈殿が起こり、水が濁るのです。
また、各工場では排水の水質規準を守るために廃水処理を行わなければなりませんが、この工程でもpH測定は重要です。たとえば、メッキ工場では廃液中のシアンやクロムを処理する場合、処理液のpHが処理効率を大きく左右します。
火力発電所の大型ボイラをはじめ、すべてのボイラでは給水系統の腐食防止のために給水のpHが8以上のアルカリ性に保たれています。また、ボイラ水も腐食防止のためにアルカリに保たれていますが、あまりアルカリに傾くと苛性脆化(かせいぜいか)といってカルシウム分がボイラに付着する現象が起こります。したがって、火力発電所の慣流ボイラのpHは9.4くらいに保たれています。また、原子力発電所のBWR一次水、PWR一次水・二次水もそのpHに注意が払われています。
高性能・高効率のボイラが普及している今日、ボイラの水に対する要求が厳しくなっており、ボイラ給水・ボイラ水のpH管理は、電力分野だけでなくあらゆる分野で行われています。
ガス分野では、ガスのカロリーを上げるためのガス混合工程で、タンク、パイプなどの腐食防止のために液化ガス中の水分のpH管理が行われています。
浄水場では、河川や湖から取り入れた水を塩素殺菌したり、凝集剤を加え沈澱ろ過したりしますが、このとき塩素や凝集剤に適した水質になるようにpHを管理しています。
もちろん、各家庭や工場へはこの水にアルカリを加えて中性*にし、飲み水や工業用水に適した水として供給しています。また、下水処理場では水処理の各工程、処理後の放流時にpH測定を行うほか、活性汚泥法の汚泥のpH調整(バクテリアの働きに適したpH)や界面活性剤による泡の発生の処理などにpH 測定が行われています。
* 上水の場合は、日本の水道法によりpH5.8〜8.6の基準値が定められています。
●警察の鑑識
犯罪現場での血痕の検知方法として有名なルミノール反応。ルミノール反応は、化学発光(Chemiluminesence:CL)の一種ですが、一般に化学発光反応はpHにより発光波長が変化します。血痕検知のルミノール反応は、強アルカリ性下(ルミノールを水酸化ナトリウムを溶かした液に入れ、これと過酸化水素水を混合する)で行われ、血痕が存在するとそれに含まれるヘム鉄の作用でルミノールが強い青色発光を起こします。
●百貨店の商品試験室・消費者センター
消費者が安心して商品を買い、使ったり食べたりできるように、百貨店の商品試験室や消費者センターでは、商品の品質チェックを行なっています。そのうち、衣料品の染色堅ろう度テストや食品の新鮮度テストではpH測定が行われています。
●植物生理学
植物生理学の分野でもpH測定は不可欠です。たとえば、品種改良の実験や花色変化の研究などでpH測定が行われています。
●美容院
流行のヘアーデザイン。その美しいウェーブ効果を出すのがコールドウェーブ液です。美容院では、髪質やウェーブの種類によってコールド液のpH調整を行なっています。
●ゴルフ場
芝が生えそろった目の覚めるようなグリーン。こんなゴルフ場でこそナイスプレーが期待できます。芝をベストの状態に保つために、グリーンキーパーは土壌のpH測定を行い、必要な手入れを施しています。
●現像所
皮膚の色、鮮明な花びらの赤、空の青…こうした色を的確に再現するためには、現像液の調整が重要な仕事。たとえば、ネガカラーの場合は数ある現像工程ではpH3〜12までそれぞれ現像液のpH値が違います。カラー現像はデリケートですから、わずかなpH値の違いで発色が微妙に変わってくるのです。最近は、デジタルカメラの普及によりカラーフィルムなどの民間需要が激減していますが、医療関係などでは銀塩フィルムはまだまだ必要とされています。
●ビル クリーニング
ピカピカの窓から晴れた青空、鏡のようなオフィスのフロア、これでこそ仕事の効率も向上するというものです。しかし、せっかくのワックスがけも剥離剤や洗剤などのアルカリ性分を完全に取り除いておかないとその輝きが薄れてしまいます。
このように日常の生活の中でも、pH測定は重要な要因となっています。
●プール
プールの水管理では、残留塩素濃度とpH値が重要な項目となっています。