半導体市場における高速応答マスフロー

瀧尻興太郎・高橋明人(執筆) / テクノロジー

【概要】

近年,あらゆる物に半導体デバイスが搭載されインターネットに接続されるInternet of Things(IoT)が提唱されており,大量のデータを扱うためのデータセンタやサーバー需要が高まっている。半導体市場ではSolid State Drive(SSD)などのメモリ需要の増加により,3D NANDのメモリーセル高層化が進んでいる。またスマートフォンなどで使用されるプロセッサはさらに高速化・省電力化が求められ,3次元構造のFinFETなどの開発が進んでいる。半導体デバイスではナノメータースケールの複雑な構造となってきており半導体製造プロセスでは原子レベルの制御を求められ,原子一層分を成膜するAtomic layer deposition(ALD)や除去を行うAtomic layer etching(ALE)などのプロセスが重要となっている。 最先端プロセスのマスフローコントローラ(MFC)の開発において,ナノメータースケールの超微細化に伴いプロセスガスの質量流量に対して高い精度・再現性が求められている。流量応答性に対してはプロセスによって要求が異なり,高速応答性を求めるプロセスや安定性を重視するプロセスなど要求が多様化している。
 

 

【全流量域に対する高速応答化:連続最適化PID】

一般的なMFCは,フルスケール流量付近では1秒以下の高速応答を実現できているが,低流量域では数秒の応答速度となり,設定される流量によってライン毎に応答のばらつきが生じることがある。SEC-Z700シリーズは設定流量の全域において,高速応答性能でありライン毎の応答のばらつきを解消している。MFCは流量制御回路にPIDによるクローズドループの制御になっている。一般的なMFCはPID係数が一つもしくは設定流量にゾーンを設けそのゾーン毎にPID係数を持たせていた。この方法では特定の流量設定値での高速応答化は行えるが,全設定流量に対しての高速応答(1秒以下)の実現は難しい。SEC-Z700シリーズに採用した連続最適化PID制御は,制御したい流量値とガス物性値に合わせてPIDを連続変化させることにより応答性能の大幅な向上を実現している。ガス種,フルスケールを変更した場合でも高速応答性能を維持している。この性能はマルチレンジ,マルチガス対応にはなくてはならない重要なファクタである。
 

【流量応答性能の向上】

半導体装置間の機差低減の要求が高まっており,流量応答性能に対して応答時間やオーバーシュートの器差低減が求められている。流量制御設計にはPID補償を採用し,内部モデル制御(Internal model control, 以下IMC)の設計法を適用した。
Figure 01においてIMCによる制御系設計手法について示す。MFCの制御対象Gp(s)の出力y(s)と制御対象モデルĜp(s)の出力yM(s)を比較し,フィードバックすることでモデル化誤差や外乱d(s)を補償する。さらに,モデル化誤差の影響を最小限に抑えてロバスト性を向上するため,制御器Gc(s)にフィルタF(s)を直列に接続した。Figure 02に流量応答時間の器差について示す。IMCを適用することで流量応答の98%到達時間のバラツキは±10ms以内の結果となった。さらに,多様な流量応答時間の要求に対して,独自の制御アルゴリズムにより流量応答時間を設定する機能を有するコントローラを開発した。Figure 03では流量応答時間を1000msec・500msec・300msecに設定した結果を示す。なお,流量応答時間は98%到達時間を設定する。