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核医学治療分野に結晶技術で本格参入

2002年6月21日


当社は、このほど米国アリゾナ州の結晶工場で、世界で初めて結晶の成長にコンピュータ制御を導入し、従来より面積比で約2倍の大型結晶の量産化に目処をつけました。
核医学治療を中心とした最先端の研究分野に貢献する結晶を、顧客ニーズに合わせて迅速かつ安定的に供給することが可能になります。
今後は、当社医用分野の新たな事業の柱とするべく、人材と技術面で米国の子会社との連携をより強固なものにし、本格的に核医学治療の事業展開を図っていきます。


<結晶と分析>
レーザーや赤外線分析計の光学材料(プリズム、ウィンドウ、レンズ)には、波長の長い赤外線をよく透過させる、人工的に合成した単結晶が重要な部品(目の機能)として用いられています。
また、医学・原子力・宇宙などの分野では放射線を受けるとそのエネルギーに対応した発光現象(シンチレーション)をおこす結晶が、放射線検出器(シンチレータ)として活躍しています。

<大型結晶の用途>
最近では、放射線検出器に用いられる人工結晶は、医学・原子力・宇宙などの分野で最先端研究の素材として注目され、その大きさも従来一般に使われている直径12インチ(約30cm)のものより、さらに面積の大きな結晶へと需要が高まっています。
医学用のがん診断、脳や心臓の検診では、人体に影響の少ない放射線同位元素(アイソトープ)の薬剤を患者体内に入れ、その分布を測定する診断がありますが、診断装置のガンマカメラの目(ガンマプレート)として、大型のシンチレータが使われています。シンチレータが大型になるほど、体全体の広い範囲を一度に測定できるため初期のがん診断に有効です。また、血流の動的変化も診断でき、初期の段階での早期発見につながります。

また、原子力分野では原子力施設の建替えが増加しており、大量かつ迅速に建材の再利用を診断するため、大型の放射線検出器への需要が高まっています。
宇宙分野においても、従来からの宇宙線測定に加え、素粒子ニュートリノや暗黒物質の解明のため、より大きな放射線検出器が必要とされています。


<結晶と当社>
赤外線分析をコア技術とする当社では、1953年の設立から間もなく、国内で初めて人工結晶の量産体制を確立しました。当時輸入に頼っていた赤外線分析計とその光学材料の分野で国産の道を切り開いてきた歴史的背景があります。その後もCO2レーザーメス開発等の国家的プロジェクトに、結晶技術を生かして参加してきました。
1991年には結晶生産の本拠地として、気候やランニングコストなどの面で日本より生産環境に適した米国のアリゾナ州フェニックスに生産工場を設立。以来、主に米国の医学診断装置向けの用途で、実績を収めています。近年では、医学・原子力・宇宙の最先端研究に用いられる大型の放射線検出器の研究に特化し、より大型の結晶を安定的に生産する研究に取り組んできました。
今回、アメリカでの10年ごしの研究に成果が出たことで、当社が設立以来醸造してきた結晶の基礎技術と最先端研究の分野との融合につながります。


<今回の結晶>
従来の成長法では、熟練した職人の経験と勘が重要で、成長炉から引き上げるまで仕上がり具合が分からなかったこともあり、直径22インチ(約55cm)の結晶が最大でした。
このたび、結晶成長に世界で初めてコンピュータ制御技術を導入したことで、直径31インチ(約80cm)、重さ0.5トン、従来より面積比で約2倍の単結晶(タリウム活性化沃化ナトリウム/NaI(Tl))成長開発に成功し、生産体制にも目処をつけました。
今回の方式は単結晶成長に必要なデータをコンピュータ内にメモリーし、CAEでシミュレーションすることにより、顧客の要求する大きさの結晶を短納期で開発、生産可能です。
また開発体制では、日本とアメリカの技術者をメンバーとし、両国の時差を生かし昼夜連続して結晶をモニタリングするシステムを導入し、開発期間を4年から2年と従来の半分に短縮することに成功しました。



<今後の展開>
今回の日米共同開発による結晶成長成功は、先に実績を上げている主力の自動車排ガス測定装置につづき、基礎研究においても成果が出たことで、今後の当社グループのグローバル開発戦略において重要な足がかりとなるものです。
また、世界で初めてコンピュータ制御による大型結晶の生産に目処をつけたことで、今後ますます重要な鍵となる、顧客の結晶の大きさへの要求に素早く応え、安定的に市場に供給することが可能になります。
今後は、核医学治療の分野を当社医用部門の新たな事業の柱とするべく、人材と技術面で米国の子会社との連携をより強固なものにし、本格的に事業展開を図っていきます。