巻頭言:世界中のあらゆる水質を守るために

堀場 弾* | |   54

*株式会社 堀場アドバンスドテクノ 代表取締役社長
HORIBAの歴史は,創業者の堀場雅夫が1950年に国産初のガラス電極式pHメーターを完成させた所から始まっており,水の分析はHORIBAの基盤であると言えます。60年代には卓上型pHメーターはコンパクトな形に進化を遂げ,70年代にはガラス電極・比較電極・温度補正電極を一本化した複合電極を開発。80年代〜90年代にはカード型,ハンディ型,スティック型と用途に合わせた製品を開発し,オンライン化も実現。2000年以降はそれらの製品ラインナップの拡充と精度・品質・デザイン面においても進化を遂げてきました。電気化学や電導度を用いた分析に加え,分光を用いた技術の発展や計測のオンライン化により,研究開発用途に加えて環境規制や産業プロセスに関わる水質分析機器を幅広く提供してきました。環境規制に関わる水質分析のニーズは多岐に渡っており,例えば船舶における排出ガス環境規制(一般海域における硫黄酸化物SOxの排出量0.5%以下)の強化を受け,その対応に排ガス浄化装置用水質モニターの需要が高まっています。船舶にはエンジン排ガス中の硫黄酸化物排出抑制のための浄化装置が搭載されており,その浄化に用いられるスクラバー水(浄化水)を船外に排出する前に排水処理が必要となります。国際海事機関(IMO)により定められた規制値を満たした水でなければ船外へ排出が出来ない為,水の採取時点と処理後での計測に弊社の製品(EG-100)が不可欠となっています。多くの先進国では水利用に不自由する事はなく,水インフラ施設の高水準化の成果を実感する事が出来る一方で,新たな需要や効率化による水処理施設の増設や新たな取り組みが日々行われています。また世界の国々では水利用の需要に対する供給の均衡は取れておらず,今この時も浄水,水処理施設やシステム,計測などが必要とされています。加えて,生活排水や産業排水の再利用,環境負荷低減の為の対策も今後取り組みを強化していく国が増加していくと思われます。地域別で見ると,北米では,水不足が深刻化する西部や南部地域では産業排水の再利用化,海水淡水化等の対応が進められ,中南米ではブラジルやアルゼンチンなど上下水処理事業の民営化を推進する国が増加すると見込まれています。また,中国やインドを始め,東南アジア諸国では国の発展と共に環境への負荷軽減の為の規制が強化されており,飲用水・下水・産業排水など様々な水処理プロセスにおいて,効率的で確実な処理とそれらを定量的に表す計測を求められています。グローバルにニーズが拡がる中で,計測データに対する責任を担う我々の役割は重責であると認識しています。持続可能な社会の実現(SDGs)に関しても,HORIBAは自社の持つ技術や製品とアプリケーションを繋げる事で,多くの社会課題への解決に貢献しています。これまで述べてきた“水”そのものに対する課題に加え,昨今,マイクロプラスチックのような水に関わる重要な社会的課題も着目されています。マイクロプラスチックは水圏に生息する生物に対する影響だけでなく,我々の飲料水,さらにはボトル飲料の安全性への影響が懸念されており,昨年のG20でも重要な課題として取り上げられました。HORIBAグループでは,これらの課題に対しても,HORIBA JovinYvonの主力製品であるラマン分光分析装置を核に,専門家の研究や課題解決に貢献しています。プラスチックは,商業用として多くの物に利用され,我々の日常生活に欠かせないものであるのも事実です。持続可能な社会の実現に対して,“水”のみならず,プラスチックという“固体”に対して,分析・計測のソリューションを提供できるHORIBAグループならではの貢献が求められていると考えられます。HORIBAは,「世界中のあらゆる水質を守る」事が水計測のプロフェッショナルとしての使命であると考えており,コロナウィルス蔓延による人々の生活が変化した世界でも変わらず,グローバルな環境保全,産業の発達に貢献していける企業であり続けたいと考えています。