マイクロプラスチックとは?

プラスチック材料はその利便性から広く用いられていますが、近年廃棄されたプラスチックによる海洋汚染が国際的な課題となっています。 市街地からの流入や海洋への直接の投棄によるプラスチックごみは、物理的な破壊や紫外線などで劣化し微小化します。 マイクロプラスチック(Microplastics: MPs)は一般的に、5 mm以下のプラスチック粒子(化粧品など)、あるいは分解により微細化した粒子を指します。
マイクロプラスチックは、海洋表面に浮かぶ52.5億ものプラスチック粒子の92%を占めています。 プラスチック粒子には有毒な有機物(フタレート、ビスフェノールA、臭化難燃剤、ノニルフェノール※、抗酸化物質:これらは、耐熱性、酸化防止、劣化防止の目的でポリマーにもとから添加されている)が含まれている可能性があります。中長期にみて、有害影響を与えることから、プラスチックはどのような過程を経て分解するかを理解し、形状や化学組成を調べることが必要です。
2019年6月に開催されたG20大阪サミットでは、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が共有されました。 日本においても、このビジョンの達成に向け、環境省及び経済産業省が中心となり、

  1. リユースおよび代替素材への転換
  2. リサイクルおよび資源循環
  3. 海洋プラスチックごみ対策
  4. 国民運動及び普及啓発など
様々な施策が取り組まれています。


マイクロプラスチック測定と分析機器

マイクロプラスチック(MPs)の測定は、海洋、河川、湖沼、下水処理水、工場排水処理水、浄水、飲料水など測定対象と目的により測定範囲や評価項目が異なります。 測定対象と分析機器(振動分光)の関係は以下の通りです。

調査対象・目的MPsサイズ前処理 分析機器
海洋、河川、湖沼300 μm~5 mmピッキングFT-IR
下水、工場排水10 μm~300 μm

1次ろ過

酸化処理

比重分離

2次ろ過

顕微FT-IR
顕微ラマン
浄水、飲料水10 μm以下

顕微ラマン

食品、化粧品
生態系影響(細胞)
MPsの測定対象と分析機器(振動分光)


海洋MPsの計測範囲は、粒子サイズが300 μm〜5 mmを対象としていますが、下水処理水や飲料水では300 μm以下のより小さなMPsを対象とした研究もあり、生態系への影響の研究分野では10 μm以下のさらに小さなMPsが対象となります。 MPsの測定方法は一つに限定するのではなく、目的に応じた測定手法を選択することが有用だと考えられます。

マイクロプラスチック模擬試料の分析事例

マイクロプラスチック(MPs)は海洋や河川のような環境水中以外にも、大気、飲料水、食品パッケージから検出の報告[2]がされています。 ここでは、環境水中からサンプリングされたMPsを想定した模擬試料の計測例と大気中から得られたMPsの分析例を紹介します。 試料には、ポリプロピレン(PP)、ポリウレタン(PU)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)を粉砕したMPs模擬試料を供し、赤外分光分析により組成分析をレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置および装置内蔵オプションの画像解析ユニットを用いて粒子径分布と画像観察を行いました[3]
マイクロプラスチック(MPs)の分析には、海洋や河川から採水後、MPsのみを前処理により分離したのち、粒子数の計測とFT-IRによる組成分析を行う手法が広く取り入れられています。そこで、PP、PU、PMMA、PETのバルク材料を粉砕した粉末を作成し模擬試料としました。 試料の写真を(a)に示します。 得られた模擬試料を金属基板上に分散し、顕微FT-IRにて赤外反射吸収イメージングを行いました。 各測定ポイントから得られたスペクトルを主成分解析し、PP 、PU 、PMMA、PETの分布図を得ました。 測定結果(b),(c)に示すように、観察像で見られたすべての粒子を同定することができました。 次に、同一の模擬試料をレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で計測した結果、10 μm〜2 mmの範囲で粒子径分布が確認でき、高精度な結果を得られることがわかりました。 また、同時に画像を確認することで形状の異なる様々な粒子がある様子を観察することができました。


大気中マイクロプラスチックの分析事例

大気中のMPs(Airborne microplastics: AMPs)は、都市部だけでなく、高山、北極圏からも発見の報告があり、大気を通じてマイクロプラスチック汚染が広がっている可能性が示唆されています[4]。また、大気中に浮遊する直径10 μm以下のMPsは、呼吸を通して体内に取り込まれる可能性があり、環境への影響だけでなく、健康への影響が懸念されています[5]。 自由対流圏におけるAMPsの測定を行いました。富士山頂で夜間にサイクロン式PM2.5分級装置付ハイボリウムエアサンプラー(柴田科学)によりテフロンフィルター上にPM2.5を採取し、前処理を行った後、組成分析を行いました。AMPsは、想定されるサイズが10 μm以下と小さいため、顕微FT-IRによる測定は困難と考え、空間分解能に優れる顕微ラマン分光装置を組成分析に用いました。 顕微ラマン分光装置は、試料にレーザを照射することで得られるラマン散乱光を測定することで、組成分析や結晶性評価を行うことができます。 顕微鏡と電動ステージとの組み合わせにより、サブミクロンオーダーでのイメージングができます。 採取されたAMPsをアルミナフィルター上に移し、4領域(1 mm2/領域)をマッピング測定し、有機物由来のCH基伸縮振動由来のラマンピーク強度を用いてAMPsを含む有機物粒子の分布図を得ました。 測定領域からは約30個のAMPsが検出されました。顕微ラマン分光装置によってCH基由来のピークが検出された部位をポイント分析し、スペクトル解析したところ、15種類の樹脂に同定されました。 参考にフィルター上の1粒子の試料観察像と、1領域からのCH基のラマンピークの強度分布図を以下に示します。

ラマンピークの強度分布の領域から得られたAMPsのサイズと組成を以下に示します。 4領域のマッピングにより検出されたAMPsにはPPの粒子数が37%と最も多く含まれていました。 他には、PUに加え、生分解性プラスチックであるポリヒドロキシ酪酸などが同定されました。 本測定により検出されたAMPsの数を大気中個数濃度に換算すると4.47個/m3になります。 これらの結果から、直径10 μm以下のMPs粒子を含む広い粒子径範囲に対して、組成分析への顕微ラマン分光装置の応用が期待されています。

targetSize/μm identifi ed compound by Library search
18(diameter)Polystyrene(PS)
2 6(Maj axis),4(Min axis)Unidentifi ed polymer + TiO2
33(diameter)Polyester
4 4(diameter)Polypropylene(PP)
5 6(Maj axis),4(Min axis)Polyurethane(PU)
6 12(Maj axis),3(Min axis)Polyethylene(PE)
7 1.4(diameter)Poly-3-Hydroxyl Butyl acid
8 2(diameter)Polyolefin
928(Maj axis),2(Min axis) Palytetrafl uoro ethylene(PTFE)
10NDPolyolefin
検出したAMPsのサイズと組成

ParticleFinderを使用したマイクロプラスチック粒子の形態学的および化学的特性評価

110個(103+7個)の粒子の局在化、計数、2次元形態学的特徴付けおよびラマン測定は、LabSpec6用のParticleFinderTM機能を有した装備したLabRAM HR800顕微ラマン分光装置を用いて行いました。 粒子は、顕微鏡スライドから発生するラマン信号を避けるために、金でコーティングされた顕微鏡スライド上に置きました。 試料上の大面積(25×21mm)の画像をキャプチャして、ParticleFinderTMを使用して、さらなる解析を行いました。 主要な二次元形態学的特徴(マイナーおよびメジャーサイズ、粒子面積、直径、および周囲)および二次元形状記述子(楕円比および真円度)の統計量を各粒子についてソフトウェアで計算しました。 次のステップでは、自動ラマン測定を行いました。 ParticleFinderTMソフトウェアアプリケーションは、粒子の自動ステージ位置決めおよび分析を電動化することを可能にしました。 各粒子の中心に1つのスペクトルを収集しました。ラマン測定は、10倍拡大対物レンズ(オリンパス)と785nmレーザーを励起光として使用して実施しました。 ほぼ全ての粒子の化学的同定は、市販のラマンライブラリ(KnowItAllTM Informatics Systems、Bio-Rad®、Raman ID Expert)を用いて実現しました。 測定は、粒子の空間的位置を除いて、同じ条件で3回繰り返しました。

有効性が確認された後、以前に提示した方法をより大きな環境サンプル(n=962個の粒子)に適用しました。 表面水に採取された962個の粒子のうち、75%が化学的に特徴づけられました。 マイクロプラスチック(PE 48%、PP 12%、PS 11%)がサンプル全体の71%を占めていました。 残った識別粒子の4%は、石英(2%)と炭酸塩(2%)でした。 非同定粒子(25%)は、PB15の色素スペクトル(3%)、データベースとの対応関係がないスペクトル(6%)、または不在または飽和したシグナル(16%)のみを示しました。

形態学的分析は、細軸と長軸、周長、直径、面積、比楕円、円形度としての記述子に基づいて行いました。 石英粒子、PE粒子、PP粒子、PS粒子の分布に有意な差が認められました。

Frere Laura, Paul-Pont Ika, Moreau, Jonathan, Soudant Philippe, Lambert Christophe, Huvet Arnaud, Rinnert Emmanuel, 2016. A semi-automated Raman microspectroscopy method for morphological and chemical characterizations of microplastic litter.

Marine Pollution Bulletin. Volume 113, Issues 12, pages 461-468.

Microplastics explained part I


Microplastics explained part II


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関連ページ

参考文献
[ 1 ] 亀田豊,公益社団法人 日本環境技術協会 第28回技術交流会 講演集(2019)
[ 2 ] Laura M. Hernandez, Elvis Genbo Xu, Hans C. E. Larsson,Rui Tahara, Vimal B. Maisuria, Nathalie Tufenkji, Plastic Teabags Release Billions of Microparticles and Nanoparticles into Tea, Environ. Sci. Technol., 53, 21, 12300-12310(2019)
[ 3 ] 株式会社東レリサーチセンター,No.0386 マイクロプラスチック分析法の検討と関連技術の研究開発動向調査( 参照20200424)
[ 4 ] 大河内博 他,東京理科大学 研究推進機構 総合研究院 大気科学研究部門 第4回 成果報告会 要旨集,(2020)
[ 5 ] 大河内博,認定NPO法人富士山測候所を活用する会 第13回成果報告会 要旨集,(2020)