技術の遷宮 〜 技術の伝承 〜

創業者・堀場雅夫が学生ベンチャーとして立ち上げた堀場無線研究所から始まる堀場製作所(以下HORIBA)は、創業以来独自の技術を武器に世界をリードする分析・計測機器メーカーとなりました。HORIBAはコア技術をただ守り、伝えるのではなく、歴代技術者が蓄積してきたノウハウや知見を次世代に繋げることを「技術の遷宮」と名付け、独自の企業文化と技術を受け継ぎ発展させる大切な仕事として位置付けています。

「技術の遷宮」は、既存の技術に新しい技術や発想を融合させることでより先駆的な製品開発の原動力にもなります。

日々技術の探求に情熱をそそぐHORIBAの技術者達が取り組む「技術の遷宮」。
「技術の遷宮」によって新たに誕生した粒子計測装置 ParticaCENTRIFUGE(パーティカセントリフュージ)開発の事例を紹介します。

 

新製品開発までの背景

HORIBAは1980年代に粒子計測の草分けとして自然/遠心沈降式粒度分布測定装置CAPA シリーズを開発、販売していました。セラミックス粒子の品質管理でベストセラーになったものの、次第にレーザー回折散乱式のLA シリーズに置き換わり、2000年頃に販売を中止しました。ところが、「高濃度スラリー材料においては、遠心沈降式でなければ測定できない」とCAPAシリーズの復刻を望むお客様の声を聞くようになり、復刻に向けた開発チームを立ち上げました。
    ※1 粒子の沈降速度から粒子の大きさをはかる装置

いざ開発チームを立ち上げたものの、往年のCAPA シリーズから40年が経過しており、過去の技術では太刀打ちできない多くの壁が立ちはだかりました。

「CAPA シリーズを開発した1980 年代と比べ、世の中の粒子サイズがナノメーターサイズへと格段に小さくなっていることから、性能や回転数を数段向上させる必要があり、モーター開発に試行錯誤しました」と語るのは開発リーダーの山口。


ParticaCENTRIFUGE開発リーダー 山口

「ナノメーターサイズの粒子は軽くて簡単には沈降しません。そのため高速でセルを回転させなければなりません。CAPAの時代は、最大10,000回転/分であったものを18,000回転/分に引き上げる必要がありました。計算上、セルにかかる遠心力は30,000Gになります。重力が1Gぐらいなので、その30,000倍の遠心力がかかるわけです。

分かり易くいうと、水1ccは1gですが、この30,000Gの世界では、30,000gつまり30kgの力に相当します。この力を受ける円盤の強度や、セルの材質の再設計が必要となり、過去の設計は使えないものばかりでした。

もし試作中にセルが割れたり、円盤が飛び出したりすると大事故は免れません。これだけ重いものを回すモーターは世の中に存在していないのです。吸引力が売りの掃除機を作っているメーカーに掃除機モーターが使えないかなど、いろいろな業者さんに相談に行きましたが、どこに行っても、『難しいですね』と言われ途方に暮れる毎日でした。

やっとのことで、下町の工場を題材にした某有名ドラマに出てくるような小さなモーター屋さんで試作機が出来上がりました。防護柵を周りに作って実験をしますが、実際に回してみるとものすごい音と振動で、その場にいたものは皆怖くなって実験室から逃げ出すくらいでした。

また、これだけのものを回せたとしても、摩擦熱が激しく、すぐにセルの中の水温が上昇します。これをいかに冷却するかなど、他にもさまざまな改良点が必要でした」

 

HORIBAの開発スピリットを次世代へ

開発当初はベテラン技術者を中心にCAPAシリーズ復刻をめざして開発を進めていましたが、過去の技術や測定原理を見直し、試行錯誤を繰り返す、そんな泥臭い装置開発に若手技術者が興味を持ち、開発に加わるようになっていました。

まずは過去製品の測定原理への理解を深めるため、ベテラン技術者による勉強会を開催し、若手技術者とともに昔の設計を紐解く作業から始まりました。

測定原理の紐解きには、往年のCAPAシリーズの回路設計を入社間もない頃に経験した境、粒子計測装置一筋の東川をはじめ光学系装置を専門としてきたベテラン技術者の知見が活きています。ベテラン技術者から過去製品の測定原理や設計技術を学び、若手技術者が新製品の設計・開発を主体的に行うというリレー方式で開発が進みました。プロジェクトリーダーの山口を中心に、国内外のお客様の声を聴き、真のニーズを掴み、お客様に満足いただける装置開発をめざしました。

ベテラン技術者の持つ知見と若手技術者の新しい着眼点から、さまざまな発想が生まれます。そうしたトライアンドエラーを重ねていくなかで、過去の設計に捉われず、一からの設計・開発をめざす、という大きな方向転換を図り、CAPAシリーズの測定原理を受け継ぎながらも、ただの復刻製品ではない、これまでになかった新製品、「ParticaCENTRIFUGE」が完成しました。

粒子計測装置 ParticaCENTRIFUGE
 

ベテラン技術者から若手へ“おもい”をつなぐ

「初期設計から原理の深いところに入ったうえで、HORIBA にない技術を新たに取り込み、カタチにできることにおもしろみを感じました」と語るのはメカ担当若手技術者である赤松。「ベテラン技術者から、原理・原則を大事にして、一歩踏み込んで納得のいく判断をする、こだわって作るという姿勢を学びました。先輩より学んだ、諦めず粘り強く考え続けることをこれからも実践していきたいです」と続けます。

ソフト開発を担当した竹内は「新製品ParticaCENTRIFUGEは、粒子計測としては原理がシンプル。単純だからこそ誤魔化しが効かない、原理通りの性能をきっちり出すというところに、ノウハウとして必要な部分がありました。 開発を進めるなかで、予定していたやり方ではうまくいかず、大きくやり方を変える機会が何度かありました。既存のやり方を一回捨てる勇気は自分たち若手ではなかなか決断できないことで、ベテラン技術者の思い切りに学び、技術者としての開拓精神を感じました。HORIBA の歴史のある製品、過去の資産をただ大切にするだけでなく、より素晴らしい製品にすることを意識していきたいです」と製品開発へのおもいを語ります。

入社2年目の時にこの新製品開発メンバーに加わったエレキ担当の井澤は、高速アンプの回路設計を担当。「任された設計業務は大学時代の研究テーマとも異なるため、分からないことだらけ。先輩の境さんには経験的に足りないところをご指導いただきました。CAPA の時はこういうところがダメで変えた、など昔の経験や、ベテランならではの視点を伝えてくださいました。『自分が理論的に説明できない回路は動かない』とのご指導のもと、細かいところまで理論的に自分で理解し伝えること、プロセスをしっかり組み立てることの大切さを学びました」と語ります。

ベテランの東川は「一から製品を設計し、開発できる機会は滅多にないこと。若手にとって貴重な経験になったと思います。手取り足取りの指導ではなく、方向性が間違ってなければ、自分自身で考えてもらいました。生みの苦しみを味わいながらも自分で考え抜き、工夫しながら製品を立ち上げた経験を、次の製品開発、改良に活かしてほしいです」と若手にエールを送ります。

「ベテラン技術者との試作機開発で目標性能を達成したという成功体験が若手メンバーの自信となりました。この開発で生まれた関連特許化件数は 8 件で、新製品に新しい技術やアイデアが満載の製品です」と開発リーダーの山口。


HORIBAでは「技術の遷宮」によって、技術ノウハウだけではない、粘り強く諦めずに真理に近づく姿勢、そして未知の技術を探究する開拓スピリットが次世代に脈々と受け継がれています。