4月13日に大阪・関西万博が開幕し、約2ヶ月半が過ぎました。
HORIBAは、アンドロイドの開発、ロボット工学の第一人者である大阪大学 石黒浩教授がプロデュースするシグネチャーパビリオン「いのちの未来」にブロンズパートナーとして協賛しています。大阪・関西万博(以下、万博)への協賛に伴い、2022年7月に万博事業を推進する「はかるのみらい万博プロジェクト」※を社内に立ち上げ、パビリオンの展示・演出の共創に取り組んできました。また、そのプロジェクトとともにモノづくりを通して、万博について考え、試行錯誤をした開発者たちがいます。今回はそんな開発者にスポットを当て、開発秘話を聞きました。
メカ設計担当 橋本
亀子:「はかるのみらい」ということで、HORIBAの創業製品であるpHセンサで、既製品とは違う新しい技術を使ったものができないかとプロジェクトメンバーから相談を受けたことがきっかけです。私はパビリオンの周囲の水盤に設置される100個の水質センサーの開発を担当しました。これはヘモグロビンをモチーフとした10個の黒いオブジェの中に入れられるものです。
「いのちの未来」パビリオンは建屋自体を生命体と捉えた演出がされており、官能器官に見立てた水質センサーが、水盤の水質変化を捉え、計測機器から得た測定値を外観の光の波として表現しています。
橋本:私はこのセンサーのほか、別のセンサーも含め、パビリオンにどう設置するのか。また、通信機を入れるBOXなど、メカ設計を担当しました。メンバー間でコミュニケーションを取りながら、センサーの形状や長さ、電気部品の配置、防水構造などを相談し設計を進めました。
亀子:やはり「新しい」の部分をどうするか、関係者で頭を捻りました。そんなに時間がかけられないなかで新しいものを・・・というのは難しかったです。従来のpHセンサーは応答部がガラス製ですが、それとは違うものでできないかと議論し、ある大学と共同研究していた技術が使えるかもしれないと考えました。その研究はステンレス製のセンサーで形状などもアレンジしやすいので、社内の既存センサーの最小径約3mmよりも細い1mmという細さでもできるのではと思いました。ただ、共同研究とはいえ、まだ実用化できるまでには至っていなかったのでチャレンジでしたね。
橋本:それを日常の業務と並行して考え、形にする。納期も決まっていたので、スケジュール管理や試作機の評価などギリギリになってしまい大変でした。
亀子:なんとか納品までに万博で使用するに相応しい性能を出すことができ、ホッとしました。割れる心配があり、製造過程で手作業が必要なガラスセンサーとは違い、ステンレスは割れにくく、加工もしやすくリーズナブルです。でも、条件など微妙な違いで評価が変わってしまうこともあり、製品化にはまだ課題も多いです。
橋本:設計面では、設置する場所が当初想定していた水位の設定から変わり、どんな水位変化にも対応できるようにとのリクエストが。そうなると、もともとの設計では難しいので設計をやり直し、センサーをフロート(浮き)に載せて浮かべることで水位変化に合わせられる設計としました。センサーが底面に当たってしまわないようにするなど、検討することが多く苦労しました。パビリオンではセンサーは黒いオブジェのなかにあるのですが、外ですので暑い夏でも温度影響を受けにくいように対策も行いました。要望に合わせ、安全性やメンテナンスなども考えて工夫しました。
黒いオブジェを被せる前の水質計 細さ1mmの水質センサー
水質センサ開発担当 亀子
亀子:そこまで遠い未来ではないかもしれませんが、今回製作したステンレスセンサーは水質測定だけでなく、私たちの生活の中でさまざまな用途に活用できると考えています。例えば、使い捨て可能で誰でも簡単にサンプルのスクリーニングができるようになれば、ヘルスケア(医療)の現場でも応用できるでしょう。こうした幅広い用途に応用するためには、まだ多くの課題を克服する必要がありますが、それを実現し、汎用性の高い製品として社会に広く普及させたいと思います。
橋本:これから先も「世界の水質を守る」という気持ちで水質計を設計していければ、万博テーマの重要な要素である「いのち」を守ることにつながると思いますし、HORIBAのめざす「はかる」技術で「あらゆる生命が豊かに生きる未来」にもつながるはずです。
亀子:万博が自分の生きているうちに日本で開催されるとは限らず、ましてや勤めている会社が協賛する機会もなかなかあることではありません。そこに携われたことはラッキーだと思います。自分が関わったセンサーが、シグネチャーパビリオン「いのちの未来」にあったということは何年たっても嬉しいはずです。
橋本:自分の設計したものが万博会場にあることが誇らしく、自信になっています。これからも、要望に応え、アレンジ力を発揮して設計をしていきます。
橋本 渉(写真左)
㈱堀場アドバンスドテクノ
開発本部 設計部 Custom Productチーム
2016年入社。水質計カスタム製品の設計に従事。
亀子 雄大(写真右)
開発本部 先端技術開発部 Core Sensingチーム
2020年入社。新規水質センサーの研究開発に従事。
いずれもシグネチャーパビリオン「いのちの未来」外観演出のための水質計製作に力を注ぐ。
※はかるの未来万博プロジェクト
公募によってHORIBAグループの国内4社(堀場製作所、堀場エステック、堀場アドバンスドテクノ、堀場テクノサービス)から横断的に組織。年齢や社歴は関係なく、万博に関わりたい、というおもいを持った有志27名のメンバーで構成。
2022年7月にプロジェクトチームが立ち上がり、50年後の未来社会を創造することから活動が始まりました。協賛他社との共創Meetingでは、2075年の「都市環境」について議論を重ね、未来社会の中でHORIBAがどのような存在になっているかを考えました。
(インタビュー実施日:2025年3月)
※掲載内容および文中記載の組織、所属、役職などの名称はすべてインタビュー実施時点のものになります。
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