測っちゃいました Vol.23 使い捨てカイロ

 寒さがいっそう厳しくなる季節になりました。 外出時に手軽に体を温められる使い捨てカイロは、まさにありがたい存在ですよね。一方で、便利な反面、残念ながら再利用することが難しい構造になっています。 湯たんぽのように中身を入れ替えて繰り返し使うことはできません。それは、カイロの中身に含まれている鉄と空気中の酸素の化学反応を利用して、熱を放出させて温もりを得ているからです。

 鉄と酸素の化学反応といっても、「乾燥した状態で鉄が酸化し酸化鉄になる」反応とは少し違います。例えば、鉄を濡れたままで放置するとサビが出てきます。これは鉄と酸素と水分が反応して水酸化鉄(Ⅲ)(=Fe(OH)3)を生成する反応です。使い捨てカイロは、この反応を利用し、発生する熱で中身を温めています。化学式で示すと以下のように表せます。

使い捨てカイロの外袋は、空気の侵入を遮断する特殊なフィルムで作られています。袋を開けてカイロの中身が空気に触れると、上記の反応が起こり、熱が発生します。カイロの中身は、主に鉄粉と、水分を含んだバーミキュライト※1でできています。バーミキュライトが水分を抱え込んでくれるため、中身の見た目や手触りがサラッとしていても内部には十分な水分があり、さらに酸素がすみずみまで行き渡って、鉄粉とムラなく反応することができます。実際に使い終わったカイロの中身を取り出して、蛍光X線分析計で測定すると主成分が鉄であることが確認できます。また、新品のカイロを取り出して空気にさらしてみると、黒っぽい色が短時間で褐色へ変わっていく様子が観察できます。さらに反応後にできた鉄化合物が、酸化鉄ではなく水酸化鉄(Ⅲ)であることは、ラマン分光装置で測定することで判別できます。

乾燥した状態で鉄が酸化して酸化鉄になる反応とは、いわば「鉄が燃える」という現象で、高温かつ激しい反応です。発熱量が大きく、使い捨てカイロのように“穏やかな温度で長時間”という使い方には向きません。ところが、この「高温で燃やす」性質は、別の場面ではむしろ重要な役割を果たします。

その代表例が、鉄に含まれる炭素や硫黄を測定する分析装置です。試料を酸素ガス中で燃焼させ、炭素は二酸化炭素に、硫黄は二酸化硫黄に変換します。発生したガスを酸素流に乗せて取り出し、赤外線吸収を利用して定量する仕組みです。鉄鋼業界では古くから広く使われてきたポピュラーな装置で、鉄だけでなくさまざまな金属材料の分析にも応用されています。炭素と酸素と金属の反応で生じる炭酸塩は、2000 ℃以下でも分解・抽出できますが、硫黄と酸素と金属の反応で生じる硫酸塩の場合、2000 ℃では分解・抽出できないことがあります。その時は、硫黄を含まない鉄を一緒に燃焼させて、温度を2000 ℃以上に引き上げることでガスとして抽出し分析できるようになります。

 この方法は金属試料に限りません。硫酸塩を含む試料や、ナトリウム・カルシウムなどを含み燃焼過程で硫酸塩が生成しやすい生体サンプルの硫黄含有量を測定する際にも応用されています。実際に、植物に対する酸性雨の影響を調べる研究でも利用されました。鉄と酸素の反応熱を利用することで、植物体内でさまざまな形で取り込まれている硫黄の全量を測定できたのです。

※1:観葉植物の保水土として知られている雲母系の人工土

 

<参考文献>

  • 伊豆田猛、大谷智子、横山政昭、堀江勝年、戸塚績
    大気汚染学会誌 第28巻 第1号 1993年
    「モミ苗の成長に対する人口酸性雨の影響」
  • 渡邊司、伊豆田猛、横山政昭、戸塚績
    大気環境学会誌 第34巻 第6号 1999年
    「シラビソ苗の成長、ガス交換速度および栄養状態に及ぼす人口酸性雨の影響」
  • Takeshi Izuta,Taeko Tamaoka,Tatsuro Nakaji ,Tetsushi Yonekura,
    Masaaki Yokoyama,Ryo Funada,Takayoshi Koike,Tsumugu Totsuka
    Trees(2004)18:677₋685
    「Growth,net photosynthesis and leaf nutrient status of Fagus crenata seedlings grown in brown forest soil acidified with H2SO4 or HNO3 solution」

 

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