タコもイカも墨を吐きます。イカの墨は、パスタなどいろいろな料理にも使われますが、タコの墨はほとんど料理に使われません。なぜでしょう。
理由の一つは、タコの墨は取り出しにくいからです。タコは水揚げ時に墨を吐ききってしまっていて、調理の時点で墨袋が空っぽに近いことが多いのです。一方、イカの墨袋は体の割に大きく、小出しに墨を吐くので、調理の時点でも墨袋に墨が残っていて、食材として利用しやすいのです。
さて、タコの墨をうまく取り出して食べてみたとして、果たしておいしいのでしょうか。タコとイカそれぞれの墨に含まれるうまみ成分であるアミノ酸を分析したところ、意外にも両者に含まれているアミノ酸の量や種類にはあまり差がありませんでした。アミノ酸だけがおいしさの基準ではありませんが、分析結果はタコの墨がイカの墨に負けないくらいおいしい可能性を示しています。
かつて『タコの墨はアミノ酸含有量が少ないのでおいしくない』という検証結果が報告されていました。当時の分析技術では、サンプルが大量に必要だったのですが、タコの墨のサンプリングに失敗したり、海水などで希釈されたりしたことによって不正確な結果が導き出されたと考えられます。
ちなみに、この分析では解剖用小型メスで慎重に取り出したマダコやミズダコの墨袋を使用しました。残ったタコの墨を食べてみたところ(筆者個人的には)独特の風味があって分析結果に違わず美味しいと感じました。