満月を愛でるお月見ですが、特に中秋の名月にお月見をする方が多いようです。中秋の名月とは、旧暦(太陰太陽暦)の8月15日に見える月のことです。2025年は10月6日(月)が中秋の名月ですが、実はこの日は満月ではなく、正確な満月は翌日の10月7日(火)12時48分に訪れます。そんな月ですが、実は地上から放射温度計を使うことで、その表面温度を測ることができるのです。
放射温度計は、物質から出される放射エネルギー(赤外線)を検知して温度を測定します。非接触かつすばやく体温測定ができることから、コロナ禍以降はクリニックやイベント会場などでの発熱チェックに利用されてきました。赤外線は電磁波なので、離れた場所の温度も測定することができます。この特徴を生かして、直接触れることが難しい食品などの品質管理にも利用されています。
もっと遠く離れたものの温度を測定する場合は、大気中の水蒸気が測定の妨げになることを考慮しなくてはなりません。地上から空の雲の底の温度を測定して雲の高さを計算する方法が検討されていますが、大気中の水蒸気量を算出して補正する必要があります。大気中の湿度が低ければ測定への影響も少ないのですが、雲が出ている時は湿度も高く空気中の水蒸気量は多くなりがちです。
月も太陽光で暖められ赤外線を放出しており、その赤外線を測ることで温度を導き出すことができます。地球の周りには大気がありますが、その外側から月の表面まではほぼ真空なので、赤外線が吸収されることはありません。晴れた日の満月なら、大気中の湿度が低いので問題なく温度測定ができそうです。しかし、正確に満月表面からの赤外線をとらえているかどうかの確認は簡単ではありません。頭上を覆っている雲の底とは違います。
クリニックなどで体温を測られた時、赤い光のセンサーでおでこの測定位置がわかることに気づいた方も多いと思います。一般的な体温計は、その赤い光の点を目安におでこを測り、体表温度から体温に換算します。しかし、月の表面では赤い光を目で確認することはできません。また、距離が非常に遠いので、満月全体からの照射面積は放射温度計の測定視野よりも小さくなってしまいます。ここで、埼玉県立春日部女子高校の地球科学部の学生が、HORIBAの放射温度計IT-550Lを使って月の表面温度を測定した事例があります。放射温度計の測定視野2°に対して月の視直径は0.5°です。そのため、面積比から赤外線強度が1/16となります。学生たちは、地球の自転を利用して月からの照射が測定視野を通過するよう設定し、温度の経時変化から月の表面温度を算出しました。
お団子を食べながら秋の夜空に思いをはせるのも風流ですが、月面温度の測定は、絶対湿度が低く安定する真冬の方が正確な結果が得られます。きっと論文を執筆した高校生たちも寒い真冬の夜中に集まって月面温度を測定したのでしょう。
<参考文献>
・埼玉県立春日部女子高校
(教諭)鈴木文二、(地球科学部)福原育代、他20名
ぶんせき 2012 12 P701~706
赤外線放射温度計を用いた月の観測
<関連リンク>
放射温度計 IT-545シリーズ(NH. N. S. N-C)
