『2013堀場雅夫賞』受賞者決定 / 授賞式は10月17日

-「分析計測技術」研究者の奨励賞-

当社は、このほど、国内外の大学または公的研究機関の研究開発者を対象とした「分析計測技術」に関する研究奨励賞『堀場雅夫賞』の2013年度の受賞者を決定しました。
2003年の本賞創設から10回目となる今回の選考テーマは、”水計測”です。本年4月から5月にかけて公募し、海外含め41件の応募がありました。これらの応募に対し、募集分野において権威ある研究者を中心に9名で構成する審査委員会が、将来性や独創性、ユニークな計測機器への発展性に重点を置いて評価し、以下の3名を堀場雅夫賞受賞者、1名を特別賞受賞者に決定しました。受賞記念セミナーならびに授賞式は、学究界および行政関係から出席者をお招きし、10月17日(木)京都大学 芝蘭会館にて執り行います。


2013堀場雅夫賞 募集分野について

「水の惑星」という言葉でも表されるように、地球上にはおよそ13億5000万km3という豊富な水が存在しています。ところが、河川・湖沼水など人類が利用しやすい地表水の量は、約0.01%の10万km3に過ぎないとされています。さらに、この地表水の分布も不均一で、中東・アフリカで水不足の状態が慢性化している一方、水資源が豊富な地域は集中豪雨などの異常気象に悩まされるなど、水資源の安定確保は難しいのが現状です。世界人口が増加し続けていることも考えあわせると、水資源が今後ますます重要となることは明白です。この貴重な水資源を永続的に利用していくためには、水資源の保全・監視および造水・浄化・再利用が不可欠となります。これらに対して定量的な情報を与える計測が果たす役割は非常に大きいといえます。このような背景から、2013堀場雅夫賞では資源としての環境水や、その環境水を産業利用する上での水計測を募集分野に設定しました。


受賞者ご紹介

堀場雅夫賞

由井 宏治 氏
東京理科大学理学部第一部化学科 教授
「電子を用いた新しい水計測法の開発とその応用」

ラマン分光法は、試料にレーザー光を照射して分子構造を調べる手法で、多くの分野で使用されている。しかし、試料が「水」の場合は得られる信号の強度が極めて微弱なため、水計測技術としての産業的な応用は難しかった。由井氏は、強いレーザーパルス光を水溶液中に入射し、放出された電子の作用でラマン散乱強度が過渡的に最大10万倍に増強される「電子増強ラマン散乱」を発見した。この現象を応用すれば、発光などによる妨害を抑制しつつ一度きりの励起でラマンスペクトルを得ることができ、水のミクロな状態計測への適用が可能となる。この研究は、半導体製造現場の洗浄水、発電所の冷却水、環境中の流水分析などの分野におけるオンライン水計測技術として、ラマン分光法の可能性を広げるものと期待される。

渡辺 剛志 氏
慶応義塾大学 理工学部化学科 特任助教
「ダイヤモンド電極を用いた選択的センシングを指向した電極設計」

ダイヤモンドは本来電気を通さない物質であるが、ホウ素を混ぜ込むことで導電性を示すようになる。この性質を利用するダイヤモンド電極は、白金や金を使用する従来型の電極に比べ、より多くの物質を高感度測定できる次世代の電極材料として幅広い応用が期待されている。一方で、溶液中の検出対象物質への選択性が課題とされ、測定を妨害する成分を事前に除去する必要がある。渡辺氏は、ダイヤモンド電極に金属を埋め込む独自手法を採用することにより、電極近傍での反応物の拡散を制御し、検出対象物質に対する選択性を向上させることに成功した。この研究は、環境中の重金属の測定などへの応用が期待され、前処理不要で安定した高感度計測を実現する携帯型測定器の実用化に貢献が見込まれる。

パラストゥ・ハシェミ 氏
米国 ウェイン州立大学 化学科 助教
「高速サイクリックボルタンメトリーによる環境水中の微量金属の連続計測」

環境水に汚染物質として含まれる微量金属については、健康被害防止や環境保全の観点から、現地での連続モニタリングが重要とされている。その手法として電極を用いた電気化学法が有望視されてきたが、計測時間や安定性といった性能が必ずしも十分ではなく、電極に使用される水銀の有害性も問題視されている。ハシェミ氏は、カーボン電極を用いて計測時間の短縮と水銀フリーを実現した“微量金属高速サイクリックボルタンメトリー”を開発し、微量の銅や鉛を0.1秒オーダーでリアルタイムに分析できることを示した。本技術は、ヒ素やクロムなど、他の微量金属の分析への応用も可能である。水資源の保全・監視および造水・浄化・再利用をする上で必要な情報源となる、環境水中の微量金属のリアルタイム計測技術として応用が期待される。


特別賞

齋藤 伸吾 氏
埼玉大学大学院 理工学研究科 准教授
「新規蛍光プローブによる放射性廃棄体中および環境微生物中の重金属イオンの超高感度電気泳動法の開発」

電気泳動法は、溶液に電圧をかけたときに、試料に含まれる物質の移動速度がそれぞれ異なることを応用する分離法である。対象成分の光吸収や蛍光を検知する検出器と組み合わせ、分離分析に広く利用される。しかし、水環境中の重金属イオン分析に対しては、十分な感度を示す検出方法がなく、適用が難しいとされてきた。齋藤氏は、目的の重金属イオンと結合し、安定して蛍光を発する物質(蛍光プローブ)を新規に設計するとともに、このような重金属イオンの選択的検出を実現する新しい電気泳動法を考案した。これにより、有害物質である鉛や水銀などの濃度を、ppt(1兆分の1)レベルの高感度で測定できる分析手法を確立した。この技術では、数十マイクロリットル(10万分の1リットル)ほどの微量試料での測定が可能であり、放射性物質を含む水中の重金属イオン測定や、微量金属イオンの生体への暴露影響評価手法としての有効性が期待される。

関連情報 堀場雅夫賞ウェブサイト