『2016堀場雅夫賞』受賞者決定 / 授賞式は10月17日

|   ニュースリリース

‐社外の「分析計測技術」研究者の奨励賞‐

当社は、このほど、国内外の大学または公的研究機関の研究開発者を対象とした「分析計測技術」に関する研究奨励賞『堀場雅夫賞』の2016年度の受賞者を決定しました。
2003年の本賞創設から13回目となる今回の選考テーマは、“自動運転社会を支える計測技術”です。本年3月から5月にかけて公募し、海外含め21件の応募がありました。これらの応募に対し、募集分野において権威ある研究者を中心に8名で構成する審査委員会が、将来性や独創性、ユニークな計測機器への発展性に重点を置いて評価し、以下の3名を堀場雅夫賞受賞者、2名を特別賞受賞者に決定しました。受賞記念セミナーならびに授賞式は、学究界および行政関係から出席者をお招きし、10月17日(月)京都大学 芝蘭会館にて執り行います。

 

2016堀場雅夫賞 募集分野について

今まさに、自動車は人が運転するものから、ブレーキサポートなどの技術革新を経て、完全自動運転の実現が近づきつつあります。そして、そのための研究開発がますます盛んに行われるようになっています。我が国においても内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で自動走行システムの実現・普及のためのロードマップが掲げられていますが、これらが日々改訂されていることからも、この分野の技術革新の速さがうかがわれます。
自動運転の実現のためには、我々が運転動作として行っている「認知」「判断」「操作」という過程を自動化し、かつ、お互いが適切に関係し合える技術の実現が求められます。その中でも、「認知」においては様々なセンシング技術が、「判断」においては人の知能に匹敵するデータの分析・解析技術が必要です。これらの最適化・安定化に向けての分析・計測・解析技術の高度化も不可欠となります。さらに、自動運転から手動運転へのスムーズな移行や運転者の状態把握など、膨大な情報のやり取りが必要となり、革新的なヒューマンマシンインターフェイス(HMI)が求められています。
加えて、自動運転のもたらす期待効果として、交通事故低減はもとより、渋滞解消・環境負荷低減・快適な運転環境の実現といった、社会的な側面や人間の感性・感情といった側面に対する貢献も期待されます。そのためのセンシングや分析・解析が、研究開発の対象となっています。
2016堀場雅夫賞では、この自動運転社会を支える計測技術を募集分野に設定しました。

 

<受賞者ご紹介>

[堀場雅夫賞]

阪本 卓也氏
兵庫県立大学 大学院工学研究科・電子情報工学専攻  准教授

「超広帯域レーダーを用いた人体の超高速立体イメージング」

超広帯域レーダー※1 を用いた物体形状イメージングは、物体の検知手段として有効な技術のひとつであり、地中探査などで実用化されている。しかし、レーダーから得た情報をコンピューターで画像化する処理時間が問題となり、自動運転には応用されてこなかった。阪本氏は、空気中の物体を計測するときに適用できる、新しい物体形状イメージング技術「SEABED法」を開発した。この手法は、従来の手法と比較して約100倍高速で、さらに人体形状も明瞭にイメージングできる高い分解能を有する。歩行者の認識技術として、人命を最優先する安心・安全な自動運転技術、さらには交通システムの構築に貢献することが期待される。
 
【用語解説】

※1 超広帯域レーダー:近距離の物体を高い分解能で計測できるレーダー。夜間や逆光などの悪環境下でも使用できる特長

 

菅沼 直樹氏
金沢大学 新学術創成研究機構 自動運転ユニット  准教授

「市街地における完全自動運転を実現するハイディペンダブルローカライゼ―ション手法の開発」

市街地における自動運転では、複雑な道路環境を確実に認識するため、高精度な地図に自己位置推定手法を組み合わせる必要がある。自己位置推定手法としてGPS等の衛星測位システムが実用化されているが、自動運転に使用する場合、ビル街やトンネル内など十分な精度が得にくい環境があることが問題となる。菅沼氏は、衛星測位に依存しない新しい自己位置推定手法「ハイディペンダブルローカライゼーション手法」を開発した。2次元オルソ画像※2を地図として用い、車載センサー情報と照合する手法で、誤差約14cmの高精度を実現している。また、データ量が小さく、演算時・記録時の取り扱いやすさも大きな利点である。量産化への取り組みと公道での実証実験も始まっており、安全快適な移動や高齢過疎地域の次世代モビリティに大きく寄与することが期待される。

【用語解説】

※2 オルソ画像:上空から道路面を見下ろしたような画像

 

ポンサトーン ラクシンチャラーンサク (Pongsathorn Raksincharoensak)氏
東京農工大学 大学院工学研究院 先端機械システム部門  准教授

「リスク予測運転知能モデルに基づく協調型運転支援システム」

自動運転技術には、運転の快適性向上と並んで、交通事故の防止効果といった安全性能も期待されている。
ただし、現行の運転支援技術は、それにはまだ不十分であるのが現実である。ラクシンチャラーンサク氏は、熟練ドライバーの運転知能「先読み運転モデル」をベースに、交通事故リスクを最小にする規範運転操作を導き出し、ハンドルやペダルに最適な反力を発生させるなどしてより安全な運転へと誘導する手法を提案した。運転者の状態や個人特性に適合する協調型の制御手法は、自動車運転技術としてはもちろん、ロボットや家電のインターフェースにも応用可能な技術として期待される。

 

[特別賞]

伊藤 太久磨氏 
東京大学 高齢社会総合研究機構  特任研究員

「リーンなセンサーによる自動運転のための外界環境認識技術」

高齢社会の到来により、高齢ドライバーの運転支援の重要性が増している。これまでに開発された関連技術の多くは高速道路など自動車専用道路を想定したものであり、また、高価なセンサーが用いられることから、実社会での普及は難しかった。伊藤氏は、車載センサーと地図情報を組み合わせて活用することで、必ずしも十分整備がされていない生活道路を対象に、擦れ等の生じた停止線や横断歩道、規制速度表示などを検出する技術を開発した。この技術では、車載カメラなど、必要十分な機能だけをもった適正なセンサー類を採用していることも特徴である。実際に市販車に搭載されることにより、特に高齢者の生活環境での移動を支援し、活力あふれる社会の実現に寄与することが期待される。

 

アルパー イルマズ(Alper Yilmaz) 氏 
オハイオ州立大学 土木・環境・測地工学部  准教授

「地図情報システム※3を活用したユビキタス位置認識法」

自動運転車両にとって、車両現在位置の認識は非常に重要である。
位置特定によく用いられるGPSは、自動運転に適用するには不十分であり、それに代わる技術が模索されている。
イルマズ氏は、既存の地図情報システムに含まれる構造物等の目印を、単眼カメラと車載センサー類からの情報に基づく「ビジュアルオドメトリ※4」による位置認識と組み合わせることで、車両の走行軌跡を推定する新しい方法を提案した。
これにより、GPS信号の精度不足やデータ欠けの影響を受けず、正確に車両位置を特定できるようになった。
この画像解析技術は、スポーツ医学の分野での患者の患部の動きの解析にも有効である。

 

【用語解説】

※3 地図情報システム:コンピューターネットワーク上で公開される、 地図に各種の地理情報を重ね合わせたデータベース
※4 ビジュアルオドメトリ:カメラの画像情報から、視覚的に移動量を推定する方法

関連情報 堀場雅夫賞ウェブサイト