『2014堀場雅夫賞』受賞者決定 / 授賞式は10月17日

-社外の「分析計測技術」研究者の奨励賞-

当社は、このほど、国内外の大学または公的研究機関の研究開発者を対象とした「分析計測技術」に関する研究奨励賞『堀場雅夫賞』の2014年度の受賞者を決定しました。
2003年の本賞創設から11回目となる今回の選考テーマは、”ガス計測”です。本年4月から5月にかけて公募し、海外含め29件の応募がありました。これらの応募に対し、募集分野において権威ある研究者を中心に9名で構成する審査委員会が、将来性や独創性、ユニークな計測機器への発展性に重点を置いて評価し、以下の3名を堀場雅夫賞受賞者、1名を特別賞受賞者に決定しました。受賞記念セミナーならびに授賞式は、学究界および行政関係から出席者をお招きし、10月17日(金)京都大学 芝蘭会館にて執り行います。

 

2014堀場雅夫賞 募集分野について

私たちの身の回りにある物質は、通常、固体・液体・気体のいずれかの形をとっています。このうち気体は触って感触を確かめることも困難であり、そのほとんどは無色透明で視認できないため、その存在を忘れがちです。しかしながら、人間は空気を呼吸することで生命を維持し、風力発電や酸素による燃焼反応からエネルギーを生み出し、気流からの浮力によってジェット機を飛ばしています。その他、ガスの性質を利用する人間活動を数え上げればきりがなく、ガスは想像以上に有用な資源です。この目に見えない重要資源であるガスの実態を把握するためには、「計測」が欠かせません。典型的な例は、大気中に含まれる汚染物質の計測です。地表活動に影響する対流圏の厚さは約10 km、地球の直径のわずか0.1%にも満たない「地球の薄皮」です。その汚染状況を把握して対策を立て、制御していくことは、ガス計測の技術があってはじめて可能になります。また、工業プロセスや生体から排出されてくるガスについても、計測技術が大きな意味を持ちます。環境負荷の小さい工業プロセスの確立や呼気ガス分析を通じた各種の診断など、見えないものから有用な情報を引き出す上でも、ガス計測は重要な役割を果たしています。
2014堀場雅夫賞では、この重要なガス計測を募集分野に設定しました。

 

受賞者ご紹介

【堀場雅夫賞】

ティモシー H. バートラム 氏
カリフォルニア大学 サンディエゴ校 化学・生化学科 助教

「海洋表面における反応の直接測定のための高感度化学イオン化質量分析計の開発」

バートラム氏は、独自に海上で高感度にNOxを測定する装置を開発し、海洋表面がNOxの濃度変化に与える影響について研究を進めている。
大気中のNOxの化学反応を解析するためには、従来技術では極微量な物質を検出する能力が不十分などの課題があり、実測に基づいた研究は十分になされていなかった。
同氏は、イオンの飛行速度によって物質を分離する化学イオン化飛行時間型質量分析計を採用し、海上で環境基準の成分濃度の1,000分の1にあたるppt(1兆分の1)レベルを測定できる装置を開発した。NOxを高感度に測定することで、化学反応で発生する極微量のNOxまで解析できたことで、海洋が夜間にNOxを吸収する現象の実証に成功した。これまで注目されていなかった海洋表面が、大気環境に非常に重要な役割を果たしていることを示した。この研究によって、これまで実測の難しかった大気中の諸現象のメカニズムが解明され、大気環境の正確な把握・予測ができるようになることが期待される。

 

塩田 達俊 氏
埼玉大学大学院 理工学研究科 准教授

「周波数可変ギガヘルツ光周波数コムを用いた超高分解スペクトル計測システムの研究」

一般的にガスの性質を調べるには、ガスの成分ごとに特定の周波数の光を当てて計測される。測定原理上、多くの種類の周波数をガスに照射すれば、より多くの成分を計測できる。光周波数コムは、1つの光源から複数の周波数の強い光を照射して、多成分のガスを高感度に計測できる技術として近年注目されている。しかし従来の光周波数コムによる計測手法では、計測に有効に利用できる周波数は限られていた。
塩田氏は光通信分野で用いられる技術を応用し、光周波数コムとしては世界で初めて、周波数を連続的に変化させて、ガス成分に応じた周波数を自在に制御できる技術を開発した。
本技術は、工業プロセスや自動車の排ガスといった多成分が混在したガスを成分ごとにリアルタイムで計測する必要がある分野などで、技術革新をもたらすことが期待される。

 

定永 靖宗 氏
大阪府立大学大学院 工学研究科 応用化学分野 准教授

「大気中二酸化窒素濃度の高確度連続計測」

酸性雨や光化学スモッグの原因成分とされる二酸化窒素は、一酸化窒素から間接的に計測すると定められています。
定永先生は、LED光を用いて窒素酸化物からより正確に一酸化窒素を求める手法を開発し、また実用化も期待できる二酸化窒素を直接測定できる装置も開発しました。長期的なモニタリング試験においても、信頼性が高い実証成果をあげています。
この研究により、学術研究で活用できる高確度な二酸化窒素の計測が可能で、ひいては地球環境に影響を及ぼすオゾンなどの詳細な動態解明が期待されます。

 

特別賞

ウェイウェイ ツァイ氏
ケンブリッジ大学 化学工学科 EU マリー キュリー フェロー

「非線形トモグラフィー:燃焼解析のための新たなイメージング理論」

“トモグラフィー”とは、病院のCTスキャンのように、周囲からの計測で内部情報を得る技術である。ガス計測でも濃度分布の画像化に応用が期待されている。しかし、従来のトモグラフィーでは、算出されるガス濃度に影響する温度や圧力といった環境要因を仮定する手法で、予測できない変化が生じる現実のガス濃度分布とは差異があった。 
ツァイ氏は、高感度に計測できるレーザーを用いたガス計測技術に、ガス濃度や温度、圧力などの変化も解析できる計測理論 “非線形トモグラフィー”を融合した新たな計測システムを提唱した。環境要因の変化に対応した上で、ガス濃度分布を高精度に画像化できる研究成果をあげている。
この手法を用いることで、エンジン内部のような不均一で高速に変化する環境の、ある一瞬の温度・圧力・ガス濃度分布や微量成分の分布が測定可能となり、エンジン内部の燃焼シミュレーションと実験結果との比較が行えるようになる。特に自動車やエネルギーなど燃焼を扱う産業界での応用が期待される。

関連情報 堀場雅夫賞ウェブサイト