次世代電子デバイス用材料に新たに成膜方法を提案 フラッシングスプレーCVD法の開発に成功

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同志社大学 工学部 千田二郎教授(同志社大学エネルギー変換研究センター長)とHORIBAグループは共同で、新成膜方法としてFS-CVD法(フラッシングスプレーCVD法)を開発し、次世代電子デバイスの材料の薄膜化に成功しました。「減圧沸騰噴霧気化」方式を採用し、成膜原料を自動車エンジンで用いられているインジェクタでCVD装置の成膜室に直接、噴射することによって、従来の「加熱気化」方式では困難とされていた原料であっても気化させることができ、その結果、高誘電率材料であるNb2O5薄膜の成膜に成功しました。また、CVD装置に気化器が不要になるなど、小型化、省エネなどの効果もあり、この成果は次世代電子デバイス用材料の薄膜化に貢献することが期待されるとともに、エンジン分野と成膜分野の異分野の技術の融合の成果でもあります。

〈開発した方法について〉

CVD(Chemical Vapor Deposition: 化学気相成長)法は、気化(ガス化)した成膜原料を基板表面で化学反応(熱分解反応や酸化反応)させることによって、薄膜を成膜する方法であり、LSIに代表される、電子デバイスの生産には非常に多く用いられている成膜方法です。

最近まで、シリコン酸化物に代表される、シリコンをベースとした、酸化物、窒化物が、電子デバイスには多く用いられてきましたが、高集積化が進む中、さまざまな機能性材料の薄膜を利用する要求が高まってきています。しかしながら、このような材料の薄膜を得るには、成膜原料を十分に気化させる技術が必要になります。しかし、従来の気化技術である「加熱気化」方式では、加熱温度を上げざるを得ず、このために原料が分解を起こしてしまい、量産規模で気化することは困難でありました。

今回開発したフラッシングスプレーCVD(Flashing Spray-CVD:減圧沸騰噴霧-CVD)法は、「減圧沸騰噴霧気化」方式を用い、成膜原料には「二相領域」の概念を取り入れた混合溶液を用いることを基本としました。さらに噴霧ノズルの構造を工夫して噴霧を微粒化させることにより、気化が困難とされていた成膜原料であっても、気化させることが可能になりました。これにより、従来、困難であったNb2O5(五酸化ニオブ)薄膜の成膜に成功しました。Nb2O5薄膜は高誘電率材料であり次世代電子デバイスへの利用が期待されており、貢献度の高い、成果であると考えています。

また、この成果は自動車エンジンに用いられているガソリン用インジェクタをそのまま、CVD装置に転用を試みたまったく異なる分野の技術の融合です。
 

参考資料

〈用語の説明〉

  • 次世代電子デバイス
    LSIに代表される、シリコン半導体基板をベースとした超高集積回路。ムーアの法則に従い、微細化、高集積化が進んだが、物理的限界に近づいています。それを打破するために、現在さまざまな機能性材料(高誘電率材料もそのひとつ)を用いての研究開発が国内外において進められています。
  • Nb2O5(五酸化ニオブ)
    高誘電率材料であり比誘電率は約60程度です。その薄膜は2013年以降に必要とされる電子デバイス(主にDRAMディーラム:DynamicRandomAccessMemory:随時読み出し書き書き込み記憶素子)のキャパシタ(蓄電部分)への利用が期待されています。
  • 「減圧沸騰噴霧気化」方式
    減圧下に液体を噴射させて、急激に沸騰させ、気化(ガス化)させる方式。断熱膨張による気化のため、高温を必要としない、よって、成膜原料の熱分解などを抑制することができ、さまざまな成膜原料を気化させることに期待されています。よって、高温に保持した気化器や配管を必要としないため、CVD装置をコンパクトに設計でき、省エネ効果も期待されています。
  • 「二相領域」
    液体と気体が混在している領域。成膜原料(液体)と有機溶剤(気体または液体)を混合させることによって現れます。混合された溶液は成膜原料単体よりも、蒸気圧は上昇し、気化しやすくなります。成膜原料との相性のよい、有機溶剤を選定することが重要になります。