さまざまな食品の中で最もpH測定が重要なのは、パン、酒、ビール、醤油、味噌、チーズおよび乳酸飲料など酵素作用を利用して製造する食品群です。と言うのは、酵素の働きは反応溶液のpHに影響され、それぞれ一定のpHにおいて最も効率よく発酵が行われるからです。
一般の食品の場合、pH測定は「味 」と「 安全性 」に関連して行われます。
食品にはそれぞれに最も望ましいpH値があり、そのpH値より異常に高くなったり、低くなったりすると、風味が損なわれるだけでなく、異物の混入など安全性に問題があることも予想されるのです。各食品メーカーにおいて、おいしくて均一な品質の食品を作るためにpH測定が行われています。
医薬・化粧品では、その製造工程で化学反応のチェックにpH測定をしています。溶液のpH値によって反応速度が変わりますし、pH値を知ることで反応の終点もわかります。
たとえば、ペニシリンなどの抗生物質やビタミンの製造では、発酵工程でpHを管理して高い収率と無菌性を維持しています。
また、医薬・化粧品は体内に取り入れたり肌に塗ったりするため、なにより厳しい品質管理が必要です。
化粧品では、肌と化粧品のpHに大きな差があれば皮膚障害の原因になります。また医薬品では、pHに異常があれば「薬も毒に変化」ということが予想されます。
具体的には「日本薬局方」でpH測定に関する試験法(たとえば胃腸薬のpH試験方法)が規定されています。
医療機関では、試薬の調整にpH測定を行なっていますし、医療研究や健康診断、治療の目安として、血液、胃液、尿など体液のpH測定も行なっています。
また、歯科大学の研究室では、虫歯の研究にpH測定を行なっています。食後5分たつと口の中のpHが下がりはじめ、pH5.2以下になると、歯を溶かしはじめることがわかっています。
アクティブな状態にある胃液のpH測定には、超小型の消化器用複合pH電極が使用されます。
体液のpHのいろいろ
血液 (健康人) 7.40(7.36〜7.44)
脳脊髄液 7.32
胃液 1.5〜8.5
膵液 8.6〜8.8
唾液 7.46(7.2〜7.6)
精液 7.4(7.1〜7.6)
汗 3.8〜6.5
尿 4〜7.8
【引用文献】 電解質異常<内科 MOOK No.27.1985 編集企画 堀川昭三> pH調節系、116P、(1985年) 著者:諏訪邦夫
血液のpH値(以下、血液pHと記す)の重要性については、ある映画でわかりやすく示された例があります。
ジュラシックパークなどで有名なアメリカ人作家,Michael Crichton(マイケル・クライトン)の出世作
『アンドロメダ病原体(The Andromeda Strain)』(1969年発売SF小説、1971年映画化)は、回収した人工衛星から持ち込まれた未知の病原体が人間の血液pHの正常値内(pH7.40前後の狭いpH範囲)で増殖し、人々を死亡させるという設定の映画です。ただし、泣き続ける赤ん坊(過喚気の状態でCO2の過剰排出により、血液pHが正常値よりアルカリ性側になる「アルカローシス」の状態にある)と飲んだくれの老人(アルコールの過剰摂取により、血液pHが酸性側となる「アシドーシス」の状態にある)が生き残りました。血液pHの狭い正常値範囲をうまく取り込んだサイエンスフィクションです。