社団法人日本分析機器工業会一般社団法人日本科学機器協会は、日本国民の生活・経済・教育・文化に貢献した貴重な分析技術/分析機器や科学機器を、文化的遺産として後世に伝えることを目的に「分析機器・科学機器遺産」の認定制度を2012年より導入しました。

2016年度

最終年となる今回は15件が認定され、株式会社 堀場製作所からは、以下1製品が「分析機器・科学機器遺産」に認定されました。

自動車排ガス測定装置 MEXA

自動車排ガス測定装置 MEXA-1

本装置MEXA-1は、1965年、自動車から排出される一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、炭化水素(HC)、一酸化窒素(NO)のガス濃度を測定する自動車排ガス分析計の国産第1号として発売されたものです。MEXA-1は、1964年に創業者の堀場雅夫らが開発した高速応答性に優れた医学用呼気ガス分析計の非分散赤外線分析法(NDIR)技術を応用して製造・販売されましたが、当時は僅か3台しか売れませんでした。その後、先進国で自動車排ガスによる大気汚染の問題が深刻化し、大気汚染防止法による自動車排出ガス規制により排ガス計測が義務化され、またエンジン開発に不可欠なツールとしても、MEXAの需要が徐々に高まっていきました。排ガス規制の強化と自動車開発のグローバルなニーズや、新技術の採用や技術改良を加え、MEXAシリーズの性能と機能を今日まで向上させてきました。その間、多くの国家認証機関や主要自動車関連メーカーで採用され、MEXAシリーズの販売累計台数はMEXA-1発売以降のこの50年間で10,000台を超えました。


2014年度

3回目となる今回は16件が認定され、株式会社 堀場製作所からは、以下1製品が「分析機器・科学機器遺産」に認定されました。

中型分光器 HR320

中型分光器 HR320

分散型スペクトログラフ/モノクロメータHR 320は、仏Jobin Yvon社(現在のHorba Jobin Yvon S.A.S)において開発され、1982年から2002年にかけて販売されました。焦点距離320mmで、このクラスでは世界で初めてのツエルニターナ方式スペクトログラフ/モノクロメータとして、発売当時まだメジャーではなかったマルチチャンネル検出器にも対応しました。世界中で約1000台、そのうち約7割が日本で販売されました。ツエルニターナ方式で、コマ収差を極限まで補正した光学系を採用することで、320mmの焦点距離でありながら、0.05nm(1200gr/mm 68mm × 68mmグレーティング使用時F/4.2)の分解能が得られました。これは、焦点距離500mmクラスの分光器の分解能に匹敵します。また、洗練された光学配置とホログラフィックグレーティングの採用で、10- 5の低迷光もあわせて実現しました。さらに、当時の大型分光器でもあまり採用されていなかった2つの入口スリット、2つの出口ポートが使える光学デザインとなっており、プラズマモニター、ラマン分光、蛍光分光、透過/反射率測定、吸収測定など、あらゆるアプリケーションに使用され、それぞれのアプリケーション計測の基礎的、標準的な分光器として、その後の計測機器開発にも貢献しました。分光計測で、あらゆるアプリケーションに対応できる最初のスペクトログラフ/モノクロメータとして、その意義は大きいです。


2013年度

2回目となる今回は15件が認定され、株式会社 堀場製作所からは、以下2製品が「分析機器・科学機器遺産」に認定されました。

工業用赤外線ガス分析計 GA-1形

GA-1

本装置GA-1形は、1957年、プロセスガス計測など工業用途の非分散形赤外線ガス分析計(NDIR法)の国産第1号として発売されたものです。実際の1号機は、大阪大学理学部・赤堀研究室でのアクリルニトリル合成試験プラントの青酸ガス制御用として製作されました。NDIR法は、もともと1930年代に実用化されたもので、1940年代には欧米で様々な方式のものが開発され、戦後には日本の大学等でも欧米製のものが使用され始めていました。これに対し、日本においても、1950年代前半、NDIR法を用いて呼気分析用の二酸化炭素計および燃焼管理用の一酸化炭素計が開発されました。このGA-1形は、ここで用いられたNDIR法を工業用ガス分析計に初めて応用したものです。当時、プロセスガスなどの分析法はガスクロマトグラフ法が中心でしたが、GA- 1形以降は、応答速度に優れるNDIR法が主流となっていきました。以後、同様の装置は、化学・金属など各工業分野における生産現場のプロセスモニタとして、戦後の日本の産業発展に寄与しました。このように、工業分野に欠かせない連続ガス分析計技術の転換点となった最初の装置として、その意義は大きいと考えます。


平面センサを用いたポケットサイズ水質分析計

カーディシリーズ

1987年に販売されたPET(ポリエチレンテレフタレート)のシート上に平面センサを形成した世界唯一の水質分析計カーディシリーズ。ポケットに入るサイズで現場での測定や微量サンプルの測定に適しています。特にpHに関して、販売から26年経過した現在でも、PETシート上にガラス電極を形成できる技術は世界唯一です。本機器の使用用途は多岐にわたりますが、特に現場での測定が重要な酸性雨などのpHを測定する研究者、土壌や植物のpHや電気伝導率、硝酸イオンを測定する農業関係者、原料や添加された塩分を測定する食品業界への貢献は大きく、とりわけ、本器が現場測定を実現したことは、工業プロセスにおける迅速な判断が可能となり、工業製品の品質向上に大きく貢献しました。初号機の1987年以来、後継機を含め累計30万台(海外含めると40万台)を販売し、四半世紀後の今なお、日本の工業製品の品質向上に貢献し、日本経済の発展に大きく寄与しています。


2012年度

2012年度は、20件が認定され、株式会社 堀場製作所および、株式会社 堀場エステックから、以下3製品が「分析機器・科学機器遺産」に認定されました。

ガラス電極式pH計 H型

H型(量産型)

堀場製作所は、日本の高温多湿な気候でもガラス電極と増幅器の高い電気絶縁性を保ち、さらにガラス電極の長寿命化と増幅器のゼロ点の安定化を実現した国産のpH計を1950年に開発しました。その普及型モデルが1951年製のH型です。
戦後復興の象徴である化学工場では、pH計測は工程管理の基本となる指標でした。例えば、戦後の食糧増産に欠かせない化学肥料「硫安」は、アンモニアを硫酸で中和しますが、その際中和プロセスを監視するためのpH計測は非常に重要でした。このような時期に輸入品より品質が良いpH計が開発されたことで、戦後の日本の復興に大きく寄与することとなりました。
また、戦後の日本を支えたともいえる電気産業にとって重要な部品である電解コンデンサーの品質向上にも大きく寄与し、電気産業界へ貢献しました。その後、日本の産業振興に伴い、繊維工業、食品・化学工業、電子電気機器産業など、多くの工業・産業分野で使用され、その発展に貢献しました。


標準ガス分割器 SGDシリーズ(株式会社 堀場エステック)

標準ガス分割器(型式SGDシリーズ 以下SGD)はガス分析計を校正するための標準ガスの発生器で、1975年から販売している製品です。主な用途は規制基準の下での大気汚染や自動車排ガスのガス分析です。1981年に制定された環境大気や排ガス用分析計の5等分割校正曲線の作成方法を定義したJIS K0055に適合し、公害対策に貢献しました。分析計のスパンガスとゼロガスを接続し切り替えコックを回すだけの簡単操作と、切り替えブロックに内蔵された定差圧調圧器と5本の毛細管だけで構成されたシンプルな構造が特徴です。初期タイプは標準ガスの消費量が比較的多い機構でしたが、消費量の少ない排気レスタイプの開発に成功し、また米国基準に合致した6分割、8分割、10分割などのシリーズを発売し、現在も生産販売を継続しています。


マスフローコントローラ SEC-4400シリーズ(株式会社 堀場エステック)

マスフローコントローラ(型式SEC-4400シリーズ)(以下MFC)は流量センサと、流量制御バルブを搭載し、ガスの質量流量を電気的に精密に計測制御する機器で、1985年に独自で開発した製品です。主な用途は半導体製造機器であり、MFCに対しては流量精度のほか、清浄性、高速応答性などの要求項目があります。SEC-4400シリーズは業界初のピエゾダイアフラムバルブ、外部メタルシール、接ガス部オールメタルにより、これらの要求に対応したMFCです。それまで外部シールにはゴム製のシール材が使用されていましたが、ガスの透過などにより外部リーク量は最低でも1×10-8Pa・m3/s.でした。しかしステンレス製のシール材を使用することにより5×10-12Pa・m3/s.を達成し、半導体プロセスのクリーン化、活性の高いガスを取り扱う際の安全性向上に寄与しました。また、内部容積を最小にしたバルブのダイアフラム化とともに、積層型のピエゾ素子をバルブアクチュエーターに採用することにより、高速動作により1秒以下の高速応答性を実現しました。SEC-4400シリーズはこれまで世界の半導体デバイスメーカで、10万台以上使用され、半導体デバイスの微細化、高密度化に貢献いたしました。

堀場エステック マスフローコントローラ