ぶんせきコラム

VOC測定「現場主義」で
分析に新しい風


工場での洗浄剤や建築材料、インク溶剤などで幅広く利用される「VOC *1(揮発性有機化合物)」。
環境庁が有害大気汚染物質に該当する可能性がある234物質をリストアップし、その中に多数のVOCが取りあげられていることから、耳にする機会も多くなりました。

従来からの大気汚染物質である窒素酸化物や硫黄酸化物は、自動車 や工場の排ガスなど、特定の発生源を有していました。

このような 物質に対しては、定置型のモニタリング装置が適しています。一方VOCでは、モノの生産・流通・消費・廃棄すべてにわたって、さ まざまな発生源と排出形態を有していて、現場での直接測定が発生源の把握や物質の初期判定に有効であると考えられます。

ところで物質を特定するにはどのような方法を用いるのでしょうか。

「質量分析」は試料をイオン化し、荷電粒子となった試料をその質 量に応じて分離する装置です。これにより、試料がもつ正確な分子量や分子構造の情報が得られます。

また既知の物質を対象とする場合には、ナノグラム(10億分の1グラム)程度のごく微量の物質を定量分析することもできます。この ように質量分析は、現代の薬学・医学の領域をはじめ、分析化学に おいてなくてはならない方法のひとつに数えられています。

さて「現場で測定したい」というニーズにこたえる質量分析装置は あるのでしょうか。

最近、脚光をあびている「TOF-MS*2(飛行時間型質量分析計)」は、イオン化した物質を真空中で飛行させ、検出器に到達するまでの時間から「イオンの質量(m/z)」を分離します。数ある質量分析装置の中で、TOF-MSには次のような大きな特長があります。
  1. ミリ秒(1/1000秒)程度の時間で全質量スペクトルが得られる
  2. 生成したイオンを全て検出することができ、多成分を同時に高感度に測定できる
  3. 測定できる質量数に原理的に制限がない
このような特長をいかし、大気環境中の汚染物質をポータブルで高速・高感度に分析する装置が最近登場しました。

ポータブル化され たTOF-MSは、大気中をはじめ土壌、地下水汚染の把握や住環境中のVOC測定に利用され、現場で高速に行うという分析スタイ ルは、その応用範囲の広がりとともに分析の既成概念を打破するものとして、注目をあびているのです。





【*1】
VOC:Volatile Organic Compounds

【*2】
TOF-MS:Time-Of-Flight Mass Spectrometer



※記事中に登場する関係省庁の名称は執筆当時のものを使用しています。