ぶんせきコラム

半導体プロセスと地球温暖化ガス


地球温暖化をもたらす「温室効果ガス」には、石油などの化石燃料を燃やしたときに発生する二酸化炭素だけでなく、産業で使われるさまざまなガスも対象となっています。今回は、半導体産業と温室効果ガスとのかかわり、そして削減への取り組みについて考えてみます。

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 温暖化の深刻な影響
現代の産業化社会における二酸化炭素、メタン、フロン、亜酸化窒素などの「温室効果ガス」の排出量は、これまで増加の一途をたどってきました。現在の大気は産業革命前とくらべて、たとえば二酸化炭素では2割以上多く含むようになっています。

化石燃料の消費にともなう二酸化炭素の排出量がこれからも増え続け、さらにそれ以外の温室効果ガスも現在の勢いで増えていくとすると、21世紀末までには地表の平均気温は3℃上昇すると予測されています。そしてこれにより、海面水位は65cm〜1m上昇するといわれています。

「たかが1m」と考えてしまいがちですが、たとえばナイル川河口のような海面上昇に対して非常に弱い地域では、多くの土地が失われる恐れがあります。また、モルジブなど海抜2m程度しかない国では、海面が1m上昇すると台風が来ただけで国全体が壊滅状態になる可能性すらあるのです。

日本の沿岸域においても、現在861平方キロメートルが満潮水位以下にあります。仮に海面が1m上昇すると、この範囲が約2.7倍に拡大し、高潮・津波の氾濫危険地域は約4倍に拡大すると言われています。
半導体産業も例外ではない
1997年に京都で開催された「国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」において、先進国における温室効果ガスの排出削減目標などを定めた「京都議定書」が採択されました。COP3削減対象ガスには、二酸化炭素はもちろんメタン、亜酸化窒素、そして「パーフルオロコンパウンズ(PFC)」があります。

私たちの生活のなかでも、スプレーや電気冷蔵庫に使われていたフロンガスが代替ガスへ切り替えられてきましたが、PFCもフロンガスの一種です。

じつはPFCガスは、半導体・液晶生産プロセスで広くもちいられてきました。半導体の回路を形成するパターンをシリコンウェハ上に形成するときに、プラズマエッチング装置の反応ガスとして使用されているのです。

身のまわりに携帯電話やパソコン、家電製品などがあふれている今日、半導体・液晶生産プロセスに使われるPFCガスの量も増加する可能性があります。ましてPFCガスは、二酸化炭素の100倍から1000倍もの温暖化効果があるとされているのです。

このため日本国内の半導体業界では、PFCガスの削減目標として1995年の排出量を基準に、10%削減しようと取り組んでいます。
PFC削減をささえる分析技術
PFCガスの排出を抑えるには、次のような方法が考えられます。

1. 排出されるPFCガスを分解、無害化する効率を上げる
2. プラズマエッチング装置を最適化し、PFCガス使用量そのものを減らす
3. 排出されるPFCガスを回収・再利用する
4. 代替ガスを利用できるようにする

これらPFCガスを削減するためには、その濃度を測定する装置が不可欠です。しかしこれまで国内には、研究室内でガスを分析するような装置しかなく、現場で簡単かつ短時間に測定できるような専用装置の開発が待たれていました。


このたび発売された『FTIRガス分析計』は、半導体・液晶の生産プロセスで発生する有害ガスを測定する専用のガスモニターです。測定時間の短さや操作の簡便さから半導体業界のスタンダードとなってきた「フーリエ変換赤外分光法(FTIR)」をもちい、コンパクトサイズで生産ラインの各チェックポイントに簡単に移動、設置ができるようになりました。

300mmの次世代半導体ラインへの切り替えや液晶の生産ライン規模拡張の方向にある今日、PFCガスを含む有害ガス除去装置とともに生産ライン上でこれらのガスをモニターする「現場測定」のニーズが高まっています。『FTIRガス分析計』は半導体生産プロセスでの有害ガスの削減に大きく貢献すると期待されています。


関連情報
UNITED NATIONS FRAMEWORK
CONVENTION ON CLIMATE CHANGE
(国連気候変動枠組条約)
HORIBA:ニュースリリース
「国産初、半導体・液晶プロセス専用ガスモニターを開発」
HORIBA:ぶんせきCafe
「温暖化防止を阻む経済発展というジレンマ」