HORIBAのひとり言

運行管理でむすぶ、
人・くるま・環境


人とくるまと環境、これらは密接に関係しています。街でよく見かけるトラックやタクシーもその例外ではありません。これらを運転するドライバーにとって、長距離、長時間の運転はたいへん過酷なもの。

じつは、そのドライバーの労働状態と自動車の走行状態とが、環境問題に深く結びついているのです。

5トン以上のトラックや政令指定都市を走るタクシーに対しては「タコグラフ」というものを装備して、自動車の運行状態を管理することが法的に義務づけられています。タコグラフは自動車の速度、走行距離、走行時間を記録します。

タコグラフの記録方式は最近まで「アナログ式」といって、直径12センチほどの円盤型の紙が回転し、その上で針が動くことによって記録していく方式が主流でした。それに加えて昨年からは、走行情報をデジタルデータで記録していく「デジタル式」が装置型式指定品目に指定され、普及がはじまっています。

HORIBAは1988年から、関連企業によって設置された委員会で活動を行うとともに開発を進め、1999年に国の規制緩和の一環としてデジタル式が装置型式指定されたのきっかけに、装置型式を取得することができました。

従来のアナログ式とデジタル式の最も異なる点は、記録したデータの解析が容易になるということです。

「細かな点まで正確にきちんと把握できるということが、これまで以上にいろいろな目的でそのデータが利用されることにつながるのではないか」という期待をこめて開発を進めてきました。

ところで、タコグラフというものには、運輸省、警察庁、労働省という3つの省庁が関係しています。運輸省は、装置が基準に照らして適正かどうかを審査し、自動車への搭載を認可します。警察庁では、自動車が事故にあったとき、事故解析の資料として利用されます。どのくらいのスピードでカーブを曲がったのか、といった情報が得られます。労働省では、法律を守ってドライバー管理をしているかどうか、ドライバーが苛酷な労働状態を強いられていないかを判断する材料として利用されます。つまり、きちんと休憩をとっているか、無理な労働をしていないかということです。

このように、自動車の運行記録は自動車の走行状態ばかりでなく、関連するさまざまな情報を提供してくれます。

デジタルで運行状態を記録することは、0.5秒ごとの詳細な走行変化を追跡することを可能にしました。それによって、急発進・急ブレーキなどが把握できるようになり、燃費を抑えるという経済面で貢献できます。速度変化を詳しく調べていけば、ギアチェンジまでも判別することができます。また、アイドリングや空ぶかしを把握できることで、自動車から出る窒素酸化物(NOx)や二酸化炭素(CO2)などの大気汚染物質を軽減するためドライバーに注意を促して、環境問題にも貢献できる装置になりました。

この製品の開発にあたっては、どうやってデータ解析をどこでもできるようにするか、どうやってドライバーが簡単に使えるものにするか、

そして、デジタル化で社会へどんなメリットをもたらすことができるのか、というところに苦心しました。

そのことが認められてか、自動車からの二酸化炭素排出を抑制するためには、自動車エンジンの改良などハードウェア面の対策だけでなく、運転をする人自身が環境にやさしい運転を心がけることが重要だという主旨で開催された「第2回エコドライブコンテスト」ではエコドライブ支援装置部門で優良賞をいただくことができました。

このように、自分たちの考えが製品を通して世の中へ問題を投げかけ、開発したものが社会に貢献できるということを、開発者のひとりとしてたいへん誇りに思うとともに、大きな責任を感じています。この分野はまだまだ大きな可能性があります。たとえば、自動車の中のすべての情報をデジタルにすることによって、車が故障すれば自動で感知してメンテナンスできる、自動車の中がオフィスになる、そんな目標をもってこれからも開発に取り組み、新たな風をつくっていきたいと思っています。





※記事中に登場する関係省庁の名称は執筆当時のものを使用しています。