HORIBAのひとり言

「平面血液センサ」開発は試行錯誤の連続

HORIBAは豊橋技術科学大学と共同で世界初の血液用平面状センサを開発しました。従来よりも大幅な小型化に成功した、新型血液センサ開発に携わった堀場製作所・開発センターの佐竹大輔氏に聞きました。

──このたび開発に成功した血液用平面状センサは、これまでの血液用センサとどこが違うのですか?

佐竹氏:血液用の平面状センサは豊橋技術科学大学と共同開発したもので、血液中の赤血球と白血球の数を測定できるものです。従来のセンサは10立方センチメートル程度の部品の内部にごく小さな孔があって、そこに血液を流し血球が通るときの電気抵抗変化から計数を行っています。

今回あたらしく開発したセンサでは、「マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(MEMS)」という技術を利用して、1cm四方の半導体チップの平面上に同等の機能をもたせています。センサの体積がおよそ100分の1になったことで、検査に必要な血液量も従来の100分の1のμL程度まで減らすことができました。

──センサが小型になり検査に必要な血液量が少なくてすむと、どのようなメリットがありますか?

佐竹氏:「ポイント・オブ・ケア」(point of care) という言葉をご存じでしょうか。言葉そのものは「診療現場」といった意味あいですが、これは医療にかかわる検査を大がかりな装置や研究所のようなところへ検体を持ち込んだりすることなく、診療の現場や生活の中で行おうという考え方をあらわしています。なじみのある検査では妊娠検査薬や糖尿病患者のための血糖値測定なども、この考えにもとづいてつくられています。

「患者に近いところ」で検査を行うポイント・オブ・ケアの目的の一つは、検査の負担をできるだけすくなくし、検査のために何日も待つようなことがないようにするということです。また来るべき高齢化社会では、病院の不足や医療費の高騰などを避けるためにも、小型でどこにでも設置できたり、安価で携帯できるような検査装置が望まれます。

血液検査はご存じのとおりとても基本的な医療検査です。これによって多くの病因の手がかりをつかむことができます。多くの病院や診療所などで使われる血液検査のためのセンサを、従来より大幅に小型化できたことは、ポイント・オブ・ケアの検査をすすめるうえで大きな進歩となるのです。

──どうやって、ここまでセンサを小さくすることができたのですか?

佐竹氏:HORIBAのクリーンルーム施設の中ではMEMSの研究が行われており、その一つとして血球計数のセンサ部分の小型化にとりくみ、約1cm角のシリコン基板上にセンサをつくることができました。

従来の部品に比べて約100分の1の大きさですから、たとえば携帯用血球カウンタといった装置にも応用できると思います。微小化によって患者さんの負担が減ることはもちろん、検査に使う薬液も少なくてすみますので環境負荷も低減させることができます。

──このセンサを開発するにあたって、苦労したことはありますか?

佐竹氏:そうですね、なにしろセンサが小さいので、ちょっとしたホコリでセンサを詰まらせてしまったり絶縁不良が起こったりと、まさに試行錯誤の連続でした。だからはじめて信号を検出したときには、飛びあがって喜びたいほどの気持ちでした。本当に大きな充実感を味わいました。

でも、これからが本当のスタートです。携帯用血球カウンタの実現にむけて、試行錯誤の日々がまたはじまります!



HORIBA:ニュースリリース
「世界初 MEMS技術で血液分析用の平面状センサ開発」