「2023堀場雅夫賞」受賞者決定 / 授賞式は10月17日

|   ニュースリリース

 

株式会社堀場製作所(本社:京都市南区吉祥院宮の東町2、代表取締役社長 足立正之 以下、当社)は、このほど、国内外の大学または公的研究機関の研究開発者を対象とした「分析・計測技術」に関する研究奨励賞『堀場雅夫賞』の2023年度受賞者を決定しました。
2003年の本賞創設から19回目となる今回の選考テーマは「次世代半導体デバイスの開発に貢献する分析・計測技術」で、海外含め33件(国内18件/海外15件)の応募がありました。これらの応募に対し、募集分野において権威ある研究者を中心に7名で構成する審査委員会が、将来性や独創性、ユニークな計測機器への発展性に重点を置いて評価し、以下の3名を堀場雅夫賞受賞者、2名を特別賞受賞者に決定しました。受賞記念セミナーならびに授賞式は、学究界および行政関係から出席者をお招きし、10月17日(火) 京都大学 吉田キャンパス 国際科学イノベーション棟 5F シンポジウムホールにて執り行います。

 

受賞者と受賞研究内容

【堀場雅夫賞】

・石井 良太(イシイ リョウタ)氏
   国立大学法人京都大学 大学院工学研究科 電子工学専攻    助教
  「超ワイドギャップ半導体の基礎光物性解明と新機能性発現に向けた深紫外時空間分解分光法の開拓」

・Naresh Kumar(ナレシュ・クマール)氏
 チューリッヒ工科大学 化学・応用バイオサイエンス学部 上級研究員
 「チップ増強光分光法を用いた新規半導体材料のナノスケール化学特性評価」

・Ang-Yu Lu(アン・ユー・ルー)氏  
 マサチューセッツ工科大学 電気工学・コンピューターサイエンス学科 博士課程
 「機械学習モデルによる単層MoS2のラマンとフォトルミネッセンスの相関の解明」
 

【特別賞】

・竹中 充(タケナカ ミツル)氏 
   国立大学法人東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授
 「シリコン光回路を用いた光電融合深層学習プロセッサの開発」

・久志本 真希(クシモト マキ)氏
   東海国立大学機構名古屋大学 大学院工学研究科 電子工学専攻 講師
 「微細構造計測に向けた小型深紫外レーザー光源の開発」

 

堀場雅夫賞について

堀場雅夫賞は堀場製作所創立50周年を記念し、2003年に創設されました。本賞は、画期的な分析・計測技術の創生が期待される研究開発に従事する国内外の若手研究者や技術者を支援し、科学技術における計測技術の地位をより一層高めることに貢献しようというものです。分析・計測技術のなかでも当社グループが育んできた原理や要素技術を中心に毎年対象分野を定め、ユニークかつその成果や今後の発展性を世界にアピールすべき研究・開発にスポットを当てています。
 

2023堀場雅夫賞 審査委員会 委員一覧(敬称略、順不同)

審査委員長   :染谷 隆夫 東京大学大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授
審査委員      :小林 正宏 住友電気工業株式会社 シニアフェロー 研究開発本部 技師長
                     藤村 紀文 大阪公立大学大学院工学研究科 電子物理系専攻 教授
                     昌原 明植    国立研究開発法人 産業技術総合研究所 デバイス技術研究部門 部門長
海外審査委員:陳永富(チェン・ヨン・フー) 国立陽明交通大学(台湾) 電子物理系 教授
社内審査委員:田中 悟 株式会社堀場テクノサービス 分析技術本部
                      Analytical & Testing Technology Department マネジャー
                 Fran Adar(フラン・アダー) Principal Raman Applications Scientist
                                         Semi / Scientific Applications
                                         HORIBA Instruments Incorporated
                    (ホリバ・インスツルメンツ社/米国)

 

授賞式について

日程:2023年10月17日(火)
場所: 京都大学 吉田キャンパス 国際科学イノベーション棟 5F シンポジウムホール

【2023 堀場雅夫賞授賞式プログラム(予定)】
第一部:受賞記念セミナー(14:30~)
・受賞者 講演: 受賞者3名、特別賞受賞者2名
第二部:授賞式 (16:30~)
・受賞研究紹介
・本賞/副賞授与
・堀場 厚  アワードディレクター 挨拶    (当社代表取締役会長 兼 グループCEO)

 

2023堀場雅夫賞の募集分野と背景

昨今のデジタル化の波は、IT企業だけでなく、製造業、モビリティ、サービス業、農業および医療など、全ての産業、社会経済システムに変革をもたらしています。デジタル化の拡大により、データ処理量は右肩上がりで増加を続けており、ICT関連機器に使用されている半導体デバイスの高性能化を進めることが欠かせません。化合物半導体は、シリコンよりも電子の移動速度がはるかに速く、高速信号処理や低電圧での動作が可能であることに加え、光への反応やマイクロ波を発生させるなどの優れた特性を備えていることから、デジタル化を支える半導体デバイスのキーマテリアルとして日常生活に広く使われるまでに成長しています。

パワー半導体は、自動車、産業機器、電力、鉄道および家電など、生活に関わるさまざまな電気機器の制御に使用されており、カーボンニュートラルの実現に向けて、省エネに向けた技術革新がますます期待されます。一方、デバイスの高速化、省電力化のためには、革新的な電送技術の確立も重要となり、光と電気を融合して情報通信処理を行う光エレクトロニクス技術の確立が急がれ、さらには、Beyond 5G/6Gのオール光時代を見据えた光エレクトロニクスデバイス、光電融合プロセッサの開発も重要となります。加えて、量子コンピューターの実現のために超電導やイオントラップ、光などの現象へのさらなる理解が必要で、そこでも新たな分析・計測技術が求められています。

半導体デバイスは、原材料から加工プロセス、製造プロセスおよび実装プロセスなど、多種多様な技術のうえに成り立っており、基礎研究のレベルから試作や生産プロセスまで全ての過程において、分析・計測技術は必要不可欠なものとなっています。特にパワーデバイスや光デバイス、量子デバイスなどの革新的なデバイスの実用化においては、未知の現象の理解や試作・製造における制御ポイントを見出すことが重要で、そのためにも分析・計測技術がますます重要となります。

2023堀場雅夫賞では、これらの課題を解決し、次世代デバイスを世の中に提供するために必要な先端分析・計測技術を募集対象とします。このような分析・計測技術開発に取り組み、その成果をシステムの自律化、モビリティの革新および健康医療のためのウェアラブルデバイス実現など、次世代デバイスのユースケースやアプリケーションへつながる研究にスポットを当てました。


受賞者ご紹介

【堀場雅夫賞】

・石井 良太(イシイ リョウタ)氏
   国立大学法人京都大学 大学院工学研究科 電子工学専攻    助教
  「超ワイドギャップ半導体の基礎光物性解明と新機能性発現に向けた深紫外時空間分解分光法の開拓」

超ワイドギャップ半導体※1は、将来の光電子デバイスに使われることが期待されている新しい半導体材料で、ダイヤモンドや酸化ガリウム、窒化アルミニウムなどを含み、従来半導体であるシリコンとは非常に異なる性質を持ち、エネルギーの高い紫外線を効率的に発する深紫外発光デバイス※2や、高い電力を扱えるパワーデバイスなどへの応用が期待されている。これらのデバイスが実用化されれば、浄水・殺菌などの新機能性を有する光源や通信機器、パワーエレクトロニクスにおける電力変換効率の向上など、さまざまな分野に貢献できる。しかし、深紫外発光デバイスについては、発光効率が良くないことが課題として存在している。石井氏は、その要因として超ワイドギャップ半導体の物性が完全に理解できていないことや、分析技術が十分でないことに着目し、深紫外時空間分解分光法※3など新しい分析技術の開拓により超ワイドギャップ半導体の物性をより詳しく調べることに成功した。本研究により、超ワイドギャップ半導体を使ったデバイスの進化に大きく貢献し、より高性能で効率的な光電子デバイスの実現に寄与することが期待される。
 

※1 超ワイドギャップ半導体:バンドギャップ(電子が存在できないエネルギー幅)が広い半導体材料。広いバンドギャップにより、高電圧、高温、高周波、高電力環境下で効率的に動作できる。
※2 深紫外発光デバイス: 深紫外領域の光を放出するデバイス。深紫外領域は、波長が非常に短く、一般的な可視光よりもエネルギーが高い領域。
※3 深紫外時空間分解分光法:材料からの深紫外領域の光応答を時間軸・空間軸・エネルギー軸に分解して試料の物性を分析する手法。

 

・Naresh Kumar(ナレシュ・クマール)氏
 チューリッヒ工科大学 化学・応用バイオサイエンス学部 上級研究員
 「チップ増強光分光法を用いた新規半導体材料のナノスケール化学特性評価」

クマール氏は、半導体デバイスの更なる微細化を実現するための材料として期待されている二次元遷移金属ダイカルコゲナイド※4や光を電気エネルギーに変化する有機光起電力デバイス※5の特性評価の研究を行っている。同氏の研究は、チップ増強光分光法※6という測定技術と顕微鏡などの技術を組み合わせることで、材料やデバイスの挙動を解析した。二次元遷移金属ダイカルコゲナイドでは、ナノスケールで光の特性を調べる方法を開発。また、有機光起電力デバイスに対しても、その性能を高い分解能で評価することに成功した。本研究は、次世代の電子デバイスや太陽電池の開発に大いに役立ち、より効率的なエネルギー変換や高性能な光デバイスの実現に寄与することが期待される。


※4 二次元遷移金属ダイカルコゲナイド:遷移金属元素(モリブデン、タングステンなど)と硫黄・セレン・テルルなどのカルコゲン元素からなる、二次元的な層状構造を持つ化合物。
※5 有機光起電力デバイス:有機半導体材料を使用して光エネルギーを電気エネルギーに変換するデバイス。
※6 チップ増強光分光法:表面にナノスケールの金属構造(探針)を配置して光の増強を実現する光分光法の一つ。

 

・Ang-Yu Lu(アン・ユー・ルー)氏  
 マサチューセッツ工科大学 電気工学・コンピューターサイエンス学科 博士課程
 「機械学習モデルによる単層MoS2のラマンとフォトルミネッセンスの相関の解明」

二次元遷移金属ダイカルコゲナイドは、特殊な半導体材料で、明るい光を放出する(フォトルミネッセンス※7)性質を持っている。この性質を活かして光検出器や発光ダイオードなどの光学電子機器の分野で応用が期待されている。その材料の標準的な特性の評価方法として、迅速かつ非破壊なラマン分光法※8という手法がある。しかし、二次元遷移金属ダイカルコゲナイドを構成する二次元材料のMoS2※9は、特性が複雑で評価が難しいとされていた。そこで、ルー氏はフォトルミネッセンスとラマンの関連を解明することにより、その物理的な仕組みを考察した。さらに、機械学習を使って、ラマンスペクトル※10からフォトルミネッセンスを予測する方法を開発し、相互影響を評価した。本研究は、機械学習を使った半導体材料の評価と、より効率的な発光特性をもつ二次元半導体の製造と調整において知見をもたらし、光学デバイスの性能向上に寄与することが期待される。


※7 フォトルミネッセンス:物質中の電子が光を吸収し、その物質特有の光を放出する現象。
※8ラマン分光法:光の散乱を使って試料の特性を解析する分析技術。非破壊的で幅広い分野で利用される。
※9 MoS2:モリブデンと硫黄から構成される化合物。半導体の特性を持つ二次元材料。
※10 ラマンスペクトル:分子の構造を光で解析する手法。分子の振動・回転エネルギーに基づく固有の指紋を測定し、非破壊的な情報を得る。

 

【特別賞】

・竹中 充(タケナカ ミツル)氏 
   国立大学法人東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授
 「シリコン光回路を用いた光電融合深層学習プロセッサの開発」

竹中氏は、さまざまな半導体材料を使ったデバイスをシリコン光回路※11に組み込んで、高性能な光電融合深層学習プロセッサ※12に応用することを目指している。このプロセッサは、次世代のコンピューティング技術として注目されており、高速で電力を節約しつつ、人工知能の性能を向上させることが期待されている。しかし、実現にはいくつかの課題がある。具体的には、光回路内で光の波の形を正確に制御し、効率的に光を電気に変換する技術が必要である。同氏は、化合物半導体※13をはじめ、さまざまな材料をシリコン光回路に集積することで、光回路内の光の特性を精密に計測・制御する方法に挑戦してきた。また、AIによる学習の加速も可能な新しい光回路の実現に向けた研究にも取り組んでいる。これらの研究成果は、シリコン光回路を用いた深層学習プロセッサの早期実現に大きく寄与すると期待される。


※11シリコン光回路:シリコン半導体を使った光学デバイス。高速通信や情報処理に利用される。
※12光電融合深層学習プロセッサ:光回路と電子回路を組み合わせた特殊な情報処理を行うために設計された集積回路。
※13化合物半導体:複数の元素で構成される半導体材料。異なる元素の組み合わせで高性能デバイスに使用される。

 

・久志本 真希(クシモト マキ)氏
   東海国立大学機構名古屋大学 大学院工学研究科 電子工学専攻 講師
 「微細構造計測に向けた小型深紫外レーザー光源の開発」

久志本氏は、半導体産業の技術進化を進めるために小型の深紫外半導体レーザー※14の開発を行った。深紫外半導体レーザーは、非常に波長の短い光を発し、その特性から計測、センシング、ヘルスケア、レーザー加工など幅広い分野でその応用が期待されている。半導体レーザーは小さくて効率がよく、低コストな光源として検査システムなどでよく使われているが、深紫外光を発する半導体レーザーには、さまざまな課題があった。同氏は新しい素材と制御技術を使い、欠陥を少なくし、効率的に動作させ、従来のレーザーよりも10分の1の電力で連続的に光を発することができる深紫外半導体レーザーを開発した。本研究は、半導体レーザーの実用化に大きく貢献すると期待されている。


※14 深紫外半導体レーザー: 波長が紫外線よりもさらに短い光を発する半導体レーザー。
 

 

■受賞者の所属・役職等は応募時点の内容です。