医療法人福甲会 やました甲状腺病院

導入施設の紹介

福岡県

医療法人福甲会 やました甲状腺病院

内科部長
橘 正剛 先生

使用機器:自動血球計数装置 Yumizen H1500
測定項目:CBC+白血球5分類

甲状腺専門病院におけるCBC+白血球5分類測定の意義と即時検査の重要性について

臨床症状だけで無顆粒球症を診断するのは難しいため、抗甲状腺薬を服用されている患者様を対象に測定します。好中球が1000/μL未満まで減少した場合や好中球が著しい減少傾向を呈す場合には、抗甲状腺薬の投与中止を検討します。

まず、CBC検査について伺います。
CBC検査は、どのような目的で測定されていますか?


当院は甲状腺の専門病院なので、抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)の重篤な副作用である無顆粒球症のチェックのために測定しています。抗甲状腺薬を服用されている患者様は、最初の3ヵ月間は2~3週間に1回、3ヵ月目以降は定期受診毎にCBC検査をオーダーしています。
無顆粒球症は、主に投与開始後2ヵ月以内に発症することが多いとされていますが、長期の治療経過後に発症したケースも報告されています。当院でも約1年半程度のチアマゾール内服継続後に重度の無顆粒球症を発症した例があります。
また、当院で甲状腺の手術をされる患者様は年間800人程度です。その術前検査の一環として貧血および血小板の評価目的でもCBC検査をオーダーします。

CBC検査は、どのような患者様を対象に測定されていますか?


臨床症状だけで無顆粒球症を診断するのは難しいため、抗甲状腺薬を服用されている患者様を対象に測定します。好中球が1000/μL未満まで減少した場合や好中球が著しい減少傾向を呈す場合には、抗甲状腺薬の投与中止を検討します。
無顆粒球症が原因で抗甲状腺薬が中止となった場合、もう一方の抗甲状腺薬の投与も原則避けるべきとされています。そのため、基本的には手術か放射性ヨウ素内用療法での治療となることが多いです。甲状腺腫が大きい場合や腫瘍の合併がある場合、早期の妊娠希望がある場合、甲状腺眼症の合併がある場合などは、手術が選択されることが多いです。甲状腺腫が大きくない場合や手術自体がリスクとなる場合、頸部の傷を避けたい場合などは放射性ヨウ素内用療法がよい適応と考えます。

甲状腺疾患の患者様と非甲状腺疾患の患者様の比率は、どのくらいですか?


甲状腺疾患患者が95%、副甲状腺疾患患者が5%です。
甲状腺・副甲状腺の専門病院なので、甲状腺・副甲状腺疾患の精査・加療が主目的の患者様のみです。

では、次に薬剤性無顆粒球症について伺います。
薬剤性無顆粒球症の患者様は、どのくらいの頻度でおられるのでしょうか?


抗甲状腺薬の服用患者の薬剤性無顆粒球症の発生率は、0.1~0.5%程度です。
当院では、薬剤性無顆粒球症と確定診断に至る症例は年に1~2例程度の頻度です。
ただし、好中球減少症を含む薬剤性無顆粒球症の疑い症例を含むともう少し症例数は増えます。

どの薬剤において、薬剤性無顆粒球症の患者様が多いですか?


プロピルチオウラシルの服用患者の薬剤性無顆粒球症の発生率も、0.1~0.5%とチアマゾールと同程度です。
基本的にチアマゾールより若干効果が弱く、副作用が若干多い事が知られています。そのため、一般的に抗甲状腺薬の第一選択薬は、チアマゾールとなることが多いです。
但し、妊娠を考慮する女性においては、チアマゾールを妊娠初期に服用するとMMI-related embryopathy(頭皮欠損、臍帯ヘルニア、臍腸管遺残、気管食道瘻など)を来す可能性があることが報告されている事から、チアマゾール以外での治療を選択します。

薬剤性無顆粒球症の患者様の場合、CBC以外にどの検査データを考慮されますか?


薬剤性無顆粒球症の診断には、CBC以外であれば血液塗抹標本の目視確認となりますが、当院ではその他の検査体制との兼ね合いで実施していません。CRPは無顆粒球症の影響で細菌感染を併発した場合などに参考にします。
しかし、無顆粒球症を発症していても無症状のことがあるので、当然CRPだけで無顆粒球症を診断する事はできません。
無顆粒球症の評価という点においてCBCが非常に重要になると考えます。

薬剤性無顆粒球症以外では、どのような疾患でCBC検査をされますか?


亜急性甲状腺炎や急性化膿性甲状腺炎などの炎症性の甲状腺疾患において検査しています。
これらの疾患では炎症を反映して白血球の増加を認めます。

ありがとうございます。
今回、Yumizen H1500を導入いただき、1年ほどが経過しました。導入後、何か変化はございましたでしょうか?


患者様が受診された場合、当日に得られるCBC検査の結果を始めとした各種検査結果に基づき、抗甲状腺薬の開始や調整・継続を判断するため、CBCは必須な検査と捉えています。
以前は装置トラブルの影響で患者様に長時間お待ちいただくことがありました。さらに、当日に結果が得られない場合は後日改めて受診いただいたり、手紙や電話で内服量の調整させていただくこともありました。当院は診療の特性上、熊本/佐賀/長崎/山口など遠方から来院される患者様も多く、容易に後日受診としにくい患者様も多いので、装置の安定稼働は大変助かっています。

違和感なくご使用いただいていると伺い、大変安心いたしました。
では、最後にCBC検査以外についてもご教示ください。CBC検査の他に院内で重要な検査は何でしょうか?


TSH FT3 FT4 TRAb、TSAb、TgAb、TPOAbなどの免疫検査項目は、当院の診療の特性上最も重要な検査となります。これらは他社装置で院内にて測定しています。
手術に関連するところでは術前感染症検査があり、測定頻度は手術件数と同じ年間800例程度ですので、大部分を外注検査で対応しています。

チアマゾールに代わる新規薬剤はありますでしょうか?


新規薬剤ではありませんが、チアマゾールはこれまで5mg錠しかなく、投与量の減量を進めていく上で2日に1回1錠といった形で処方(1日あたり平均2.5㎎投与)していました。どうしても服薬アドヒアランスに影響が見られていましたが、2021年2月に2.5mg錠が発売され、患者様の服薬アドヒアランスの改善につながっていると思います。
また、K1-70 はTRAbが陽性の甲状腺機能低下症患者のリンパ球から単離されたブロッキング抗体のモノクローナル抗体であり、甲状腺眼症の治療薬として期待されていますが、TSH受容体のブロッキング抗体なので甲状腺機能亢進症の改善効果も報告されています。しかし、投与方法(注射薬)や薬価のことなどを考慮すると、基本的には抗甲状腺薬、放射性ヨウ素内用療法、手術が治療の3本柱となることに変わりはないと思います。

 

医療法人福甲会やました甲状腺病院 診療技術部臨床検査科のご案内

施設インフォメーション

診療科目 : 内科・外科・麻酔科
住所   : 〒812-0034 福岡県福岡市博多区下呉服町1-8
基本情報 : CBC検査数/日 
       月水金(診療時間 終日):150-180検体/日
       火木土(診療時間 半日):100-120検体/日
WEBサイト: https://www.kojosen.com/

<編集後記>

福岡市の博多駅から約10分という好立地な場所にある医療法人福甲会 やました甲状腺病院。
甲状腺・副甲状腺の専門病院ということもあり、福岡県内だけでなく、県外(山口県、佐賀県、熊本県など)からも数多くの患者様が訪れられるそう。甲状腺疾患は、長期的な治療が必要になってくるかと思います。日々、患者様のためにスタッフ間で綿密に連携を図られ対応されていることが、患者様にとって治療の続けやすさにつながっていると感じました。この度は、インタビューをお受けいただき本当にありがとうございました。

(2024年4月掲載)
※掲載している情報は取材時点のもので、現在とは異なる場合がございます。

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