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水素炎イオン化検出方式 (FID:Flame Ionization Detector)

目次


測定原理

水素炎イオン化検出方式(FID)とは

試料中の炭化水素(HC)が水素炎に導入されると、炭化水素が酸化され、イオン化反応が起こります。(式1) 発生したイオンは炭素数に比例するため、このイオンを静電捕集し電流として検出することで、炭化水素のガス濃度を測定します。

\[CH \xrightarrow[(O)]{\text{酸化}} CHO^+ + e^-\]

式1:水素炎による炭化水素のイオン化反応

FIDを用いたガス分析計の構造と動作原理

FIDを用いたガス分析計では、燃料ガス(水素(H2)、水素とヘリウム(He)の混合ガス、水素と窒素(N2)の混合ガスのいずれか)と助燃ガス(精製空気)を常に供給して、水素炎を生成します。試料ガスは燃料ガスと混合されて、ジェットノズルの先端の高温水素炎(1500K以上)に導入され、試料ガス中の炭化水素分子が酸化・イオン化されます。(式1)このイオンをコレクター電極で捕集し電流として検出することで、炭化水素のガス濃度を測定します。(図1)

図1:FIDを用いたガス分析計の基本構造

図1:FIDを用いたガス分析計の基本構造と動作原理

特にFIDを用いたガス分析計は、試料ガス中のメタン(CH4)、非メタン炭化水素(NMHC)※1、全炭化水素(THC)※2の連続濃度測定に使用されます。

※1: NMHC:Non-Methane hydrocarbonsの略称 メタン以外の炭化水素の総称。
※2: THC:Total hydrocarbonsの略称 全炭化水素の総称

またFIDのガス分析計では、ppmCという単位が一般的に使用されます。ppmCは炭素1個当たりに換算したガス濃度で、ppmに炭素数を乗じたものがppmC(炭素換算濃度)です。

例えば試料ガス中に炭化水素としてプロパン(C3H8)だけが100ppm存在する場合、プロパン(C3H8)は炭素(C)を3つもつため、FIDの分析計の測定結果は、100x3=300ppmCとなります。

全炭化水素(THC)ガス分析計の構造と動作原理

HORIBAは、大気や排ガス中の汚染物質である、メタン(CH4)、非メタン炭化水素(NMHC)、全炭化水素(THC)を同時に連続濃度測定するために、FIDを用いたガス分析計を使用しています。ここでは大気中のこれらの炭化水素成分ガスを連続測定する分析計を例に、その構造と動作原理について説明します。

分析計の構造と動作原理

分析計の全体構造例を図2に示します。FIDの水素炎は、試料ガス中のほとんどの種類の炭化水素に対しイオン化反応が生じます。試料ガス中のメタンや非メタン炭化水素や全炭化水素の成分ガスを測定するために、HORIBAのFID分析計は選択燃焼方式の非メタン除去器(NMHCカッター)とゼロガス精製器を内蔵しています。

図2:FIDを使用したガス分析計の構造と動作原理

ライン切り替え順はA→C→B→C。これの繰り返し。

図2:全炭化水素(THC)ガス分析計の構造と動作原理

選択燃焼方式の非メタン除去器(NMHCカッター)

炭化水素は分子を構成している炭素の数により燃焼温度が異なります。例えば、メタンに比べてプロパンの燃焼温度が低いです。この特性に従い燃焼温度を制御して試料ガス中の非メタン炭化水素をすべて燃焼して、炭化水素の成分ガスがメタンだけの試料ガスを作ることができます。この方法は選択燃焼方式と呼ばれています。この際、試料ガス中のメタンが燃焼損失しないように制御することが重要です。

分析計内の非メタン除去器(NMHCカッター)はこの方式を利用しています。

 

分析計の動作原理(図2)

試料ガスをそのまま通過させたガス(ラインA)をFIDを組み込んだ炭化水素検出器に導入し全炭化水素を測定します。次に電磁弁でラインCに切り替え、ゼロ点の比較ガスとして炭化水素を含まないガスを炭化水素検出器(FID)に導入し、ゼロ点のドリフト(*)を低減します。ゼロ点比較ガスは、ゼロガス精製器により大気から水分や炭化水素等を除去して生成されます。

次にラインBに切り替え試料ガスを非メタン除去器により、炭化水素はメタンだけのガス(ラインB)を炭化水素検出器(FID)に導入しメタンを測定します。メタン測定後は、ラインCに切り替えて、ゼロ点比較ガスを炭化水素検出器(FID)に導入して、ゼロ点のドリフト(*)を低減します。
このように炭化水素検出器(FID)には、ラインA→C→B→Cの順で選択されたガスが導入されます。

非メタン炭化水素は、この全炭化水素とメタンの濃度差より算出されます。(ラインA,B)

さらに電磁弁の切り替え機能により、これらのガスは同じ反応セルに流れ、同じ検出器で検出されます。これにより時間経過等による反応セルや検出器の感度変化は、ガスの検出に等しく反映され、最終的に全炭化水素とメタンの感度の差を最小にしています。

(*)ゼロ点ドリフトとは、分析計のゼロ点が温度や経年劣化等で一定方向に少しずつずれていく現象。ゼロ点のずれを比較するためのガスを使用する事で、ゼロ点ドリフトの影響を低減できます。

測定に影響を与える要因の低減

炭化水素のイオン化率の違いによる影響

FIDのガス分析計は既知濃度のプロパンもしくはメタンが、水素炎でイオン化されたときの測定値を基準にメタンや全炭化水素、非メタン炭化水素を測定しています。例えば、プロパンがイオン化される率(イオン化率)が他の炭化水素でも同じであれば、試料ガス中にどの炭化水素が含まれていてもFIDで正確に測定できますが、炭化水素によってイオン化率が異なれば、測定に影響がでます。実際には、炭化水素の構造(二重結合や三重結合など)や酸素の有無等で、イオン化率は異なります。

このように、FIDのガス分析計の測定は、試料ガス中の含まれる炭化水素の種類と濃度によって影響を受けます。FIDの分析計では、できるだけ各炭化水素のイオン化率が同じになるような機構や仕組みが必要です。

 

酸素による炭化水素燃焼の影響

酸素の濃度によって、炭化水素の測定値は影響を受けます。これは、酸素干渉と呼ばれています。
例えば、試料ガス中の酸素によって、炭化水素のイオン化より先に一部の炭化水素の燃焼が発生し、それによりイオン化の量が変わり測定に影響が発生します。

 

測定に影響を与える要因の低減方法

HORIBAでは、下記の項目を最適化することで、炭化水素のイオン化率の違いによる影響や酸素干渉の影響を低減しています。

  • FIDに供給する試料ガス・燃料ガス・助燃ガスの流量とその混合比
  • FIDの材質・構造・ジェットノズル形状
  • 分析計校正用ガスの種類(メタン、プロパンなど)

非分散形赤外線吸収方式(NDIR)との比較

主に大気中の炭化水素を測定する場合にFIDの分析計が使用されます。排ガス中の炭化水素を測定する場合は、国別・産業別の環境規制に従い、FIDやNDIRの分析計が使用されます。またNDIRは燃料ガス等のユーティリティーガスが不要、FIDは1台で複数の成分ガス(THC, NMHC, CH4)を同時に測定可能と、それぞれに特長があります。


関連製品

水素炎イオン化検出方式(FID)の分析計は、光化学スモッグの主成分であるオゾン(O3)の生成や有害な浮遊粒子状物質の生成につながる自動車や工場から排出される炭化水素の連続計測・監視で活躍しています。 さらに、自動車の燃費やエンジンの燃焼効率向上等の開発にも使用されています。

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