ぶんせきコラム

「きれい」なほど難しい、
pH測定


簡単なようでなかなか難しいpH測定。ぶんせきコラムでも何回かとりあげてきましたね。さて今回も化学分析の基本、pH測定の中から、とくに測定が難しいといわれる純水や水道水の測定をピックアップしてみましょう。

「水道水のpHを測ると指示が安定するのが遅かったり、不安定だったりするのはなぜ?」

こんな質問をいただくことが、しばしばあります。pHを測るのが難しいと言われているサンプル(被検液)はいくつかありますが、この質問のサンプルもそんなひとつです。ちょっと奇異に感じるかもしれませんが、ガラス電極はサンプルが「きれい」になるほど、かえって測りにくくなるものなのです。

pH測定はふつう、ガラス電極、比較電極、温度補償電極の3本からなる電極系を用いて行います。【*1】 水道水のpHが測りにくいということは、じつはこのガラス電極と比較電極の特性が関係しています。順に説明していくことにしましょう。

まず1つめには、サンプルの「pH緩衝能(かんしょうのう)」が低い場合、ガラス電極には応答が遅くなる性質があるということです。

「pH緩衝能」というのは、サンプルに酸性やアルカリ性の物 質を加えたときに、pHを一定に保とうとする性質のことをいいます。

ガラス電極の先にあるガラス薄膜(応答膜)の表面では、ミクロな 目で見ると、pHをつかさどるH+(水素イオン)に対して、可逆反応がおこっています。そしてこの反応が平衡に達して、そこに生まれる電位差を測ることで、pHとしています。ところがサンプルのpH緩衝能が低いと、ガラス表面における反応が平衝に達するまでの時間は長くなり、つまりは応答が遅くなるというわけです。

水道水というのは無機物イオンや有機物を含んでいるだけですので、 pH緩衝能は多くのサンプルに比べて低いものです。したがって、水道水のpHを測定すると、pH標準液などpH緩衝能の高い水溶液を測定する場合に比べて応答は遅くなります。【*2】

既設のごみ処理施設ではCO濃度を50 ppm以下(ppmは100万分の1)、新設の施設では30 ppm以下にすることが定められています。

一般的なpH電極を使用した場合で、かつサンプルのpH緩衝能が低いとき、pHが測れる限界は経験的に1mS/m(ミリジーメンス/メートル)〜10 mS/mといわれています。地域によって差はあるものの、水道水の導電率はおよそ10mS/m前後ですので、簡単にpHを測定できるめやすは、だいたい水道水ぐらいのきれいさまでと考えればよいでしょう。

3つめは、比較電極からサンプル中に浸み出てくる内部液による影響があります。

サンプルの導電率が低い場合、比較電極から内部液が流れ出るにつれ、一般的にはpHの指示が低い方へドリフトすることがあります。水道水ぐらいの導電率があればまだ問題は少ないのですが、サンプルが少ない場合にはこの影響が無視できなくなります。

また複合形や一本形電極を用いる場合、pH応答ガラス膜の上部に比較電極の液絡部が位置する構造になっており、静置すると比重の大きな内部液がゆっくりと下降してガラス膜を覆ってしまい、pHの指示値が不安定になることもあります。このようなときは、スターラでゆっくりかくはんするようにするとよいでしょう。

まとめると、水道水よりも導電率が低く、またpH緩衝能の低いサンプルのpHを測るときは、上記の3つのポイントを考慮し、次のようなことを心掛けることで、最良の結果が得られるはずです。
  1. サンプルをたっぷりと用意する
  2. ガラス電極、比較電極、温度補償電極を個別に用いる
  3. 比較電極にスリーブ形液絡部のものを用いる
  4. 電極を浸したあと2〜3分スターラでかくはんし、静置後pHの指示を読み取る
HORIBA online には、他にもpH測定のためのヒントがつまっています。





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やさしいpHの話

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【*1】
最近ではガラス電極と比較電極を一体化した「複合形電極」や、さらに温度補償電極まで一体化した「一本形電極」が主流となっています。

【*2】
言いかえれば、pH標準液はpH緩衝能が高いからこそ、安定して標準液として使うことができます。