ぶんせきコラム

シックハウス問題とVOC対策


1970年代におこった石油ショック以来、新築ビルなどでは冷暖房エネルギーの節約のため、ビル内の換気量を減らしたり、部屋 気密性を上げるなどの対策がとられてきました。ところが、このような新築のビルで働く人々が、しばしば体の不調を訴えるようになったのです。


その症状はさまざまで、めまい、吐き気、頭痛、また重度の場合ではアレルギー症状やぜん息になる場合もありました。この現象ははじめ欧米でとりあげられ、大きな問題となりました。「シックビルディング症候群 (Sick Building Syndrome)」と呼ばれるこれらの症状は、日本でも新築の家に引っ越したり、家を改築したあとに体調不良を訴えるといった事例が増えるにつれ、「シックハウス問題」として報じられるようになりました。

水質総量規制とは
シックハウス問題は、住宅に使用されている建築材料から放散する化学物質が原因でおこるといわれています。たとえば住宅に使用される木材には、防腐処理としてある種の化学物質が含まれています。また木材だけでなく、ビニールやプラスチック、接着剤などにも化学物質は使われています。

これらの化学物質は徐々に空気中へ放散しますが、このとき部屋が密閉されていていると、室内の空気中に含まれる化学物質の濃度が高くなり、体調不良をひきおこすと考えられています。しかし、どの化学物質がどのような症状の原因となるかは、現在ではまだすべて特定できていません。これは建築材料に使用されている化学物質の種類がとても多く、また人によって体調不良の原因となる化学物質が異なるからです。


2001年度からはじまる第5次水質総量規制
シックハウス問題が大きな社会問題となる中で、住宅メーカーや建築材料メーカーは、できるだけ化学物質を使用しない建築材料を開発しています。近ごろ住宅の広告で「低ホルムアルデヒド建材を使用」「VOC(揮発性有機化合物)対策ずみ」といった言葉を目にしたことがありませんか?これらは、問題となる化学物質を含む建築材料の使用をできるだけ避け、シックハウス問題が起こりにくい住宅だということを強調したものです。

厚生労働省では「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」が設置され、昨年12月には室内空気汚染の低減のため、揮発性有機化合物の室内濃度に関する指針値案が設定されました。このガイドライン案では、次のような化学物質が選定されています。


《揮発性有機化合物の室内濃度に関する指針値案》(*1)
 ◇ ホルムアルデヒド
 100 μg/m3 (0.08 ppm)
 防腐材や接着材に含まれます。
 ◇ トルエン
 260 100 μg/m3 (0.07 ppm)
 有機溶剤で接着剤などに含まれます。
 ◇ キシレン
 870 100 μg/m3 (0.20 ppm)
 合成樹脂などに含まれます。
 ◇ パラジクロロベンゼン
 240 100 μg/m3 (0.04 ppm)
 殺虫剤などに含まれます。
 ◇ エチルベンゼン
 3800 100 μg/m3 (0.88 ppm)
 有機溶剤。
 ◇ スチレン
 220 100 μg/m3 (0.05 ppm)
 合成樹脂や合成ゴムなどに含まれています。
 ◇ クロルピリホス
 1 100 μg/m3 (0.07 ppb)
 殺虫剤です。シロアリ駆除などで使われていました。
現在は使用されていません。
 ◇ フタル酸ジ−n−ブチル
 220 100 μg/m3 (0.02 ppm)
 プラスチックなどに含まれています。


住宅メーカーや建築材料メーカーでは、これらの化学物質を低減したり、まったく含まない建築材料を開発するなどの努力が行われています。また、実際の建物内部で揮発性有機化合物を測定できる『ポータブルVOC分析計』といった分析装置も、これに一役かっています。
このようにシックハウス問題は年々改善されつつありますが、とくに新しい家や改築・改装した部屋では、部屋を閉めきりがちな寒い季節にも十分な換気を心がけることが大切です。


(注釈)
*1:化学物質名および指針値については厚生労働省ホームページより引用。注釈については当社記載。



シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会
中間報告書−第4回〜第5回のまとめについて(厚生労働省)
厚生労働省
HORIBA:ぶんせきcafe
「VOC測定『現場主義』で分析に新しい風」