ぶんせきコラム

「点」から「面」へ、
新しい水質計測がもたらすもの


湖沼や河川、海洋、地下水などの水資源における水質汚染は、数々の防止策がとられるにもかかわらず、いまだ根本的には解決されていません。このような状況のなかで、水系の汚染状況を全体的に把握したり、汚染源からの拡散状況を調査したりという、あらたな計測ニーズがうまれています。
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水質汚染と計測
まず、代表的な水質汚染である「富栄養化」をとりあげて、それがもたらす影響と計測について考えてみることにしましょう。

水の中に含まれる窒素やりんのような「栄養塩類」が少ない状態を「貧栄養」といいます。水が貧栄養状態のときは、その中に生育するプランクトンの数が少ないため、一般に透明度が高くなります。これに対して、水中に栄養塩類が多く含まれる状態を「富栄養」といいます。富栄養状態ではプランクトンも増加し、水は濁って透明度が低くなります。「富栄養化」とは、貧栄養から富栄養へ水の状態が変化することをいいます。

富栄養化の原因としていちばんに考えられるものは、生活排水や工場・農業排水などが水域に流入することです。富栄養化は、透明度の低下を招くだけでなく、カビ臭や水産業に深刻な打撃をあたえる赤潮・アオコのような水質障害をもたらすことが知られています。

ひとたび富栄養化が起こると、その汚染源を特定することは簡単ではなく改善が難しい問題です。そのため、汚染防止のために排水源では窒素・りんを測定し、水域では水資源の状態を正確に把握して汚染源の特定に役立てるなど、計測機器のはたす役割は大きいといえます。

最近では、富栄養化を引き起こす窒素・りんだけでなく、環境ホルモンや有害金属、油など水質汚染監視のための測定項目は多岐にわたるようになりました。また一方では、いくつもの場所で同時に定点監視をおこない、これまでの「点」での水質測定から、「面」による水循環系全体の把握へと、その要望が高まっています。

「面」の水質測定実現へ
では、このようなニーズに応える計測機器とはどのようなものでしょうか。まず、多くの場所に機器を設置して測定を行うためには、機器が十分に低価格でなければなりません。また、設置される場所が屋外であるため防水対策がとられていることはもちろん、ときには遠隔地や海上に設置される場合もあり、無人で連続測定ができることが条件です。電源すらないかもしれません。精密な計測機器にとっては難題ばかりです。

まず、水質分析の心臓部となるセンサ部分として白羽の矢が立ったのが、『マルチ水質モニタリングシステム』に採用されるセンサプローブでした。この直径46mmほどの小型プローブには、各種の水質センサが組み込まれていて、最大13項目の水質測定を高い精度で行うことができます。さらにこの装置は、水深100mの水圧に耐えながら自立して測定を続けることができることから、無人での遠隔計測にはもってこいでした。

次に電源です。外部電源がなくても計測が行えるよう、太陽電池が選ばれました。太陽電池は太陽光のエネルギーによってのみ発電するため、環境汚染につながるような排出がまったくありません。また充電用のバッテリも内蔵されていて、夜間はもちろん、たとえ昼間の日照が十分でなくても1週間は稼働できるようになっています。

そして、この装置で計測した水質データを収集することも、広域の水質把握には不可欠です。電源さえ引くことができない場合には、もちろん電話線などの通信ケーブルを敷設するのも困難です。そこで、通信回線として選ばれたのが、携帯電話のパケット通信網でした。その通信エリアは日本全国に広がっていて、携帯電話が通じる場所ならどこからでも計測データを送信することができます。その通信コストも、データ量に応じて課金されるパケット通信では、標準的な使用で1か月あたり約2,000円と試算されています。

さらに、データ転送方式として標準的なeメールをもちいることにより、eメールさえ受信できればデータを受けとる側で特別なシステムを用意する必要をなくしました。また、水質が異常値を示したときは、eメールによって携帯電話などに警報を送ることもでき、災害や水産被害へ備えることができます。

水質データ遠隔収集システム
太陽エネルギーを受けて人手を介することなく、最大3つのセンサプローブから収集した水質データを無線通信で送信し続けるこの計測システムは、『水質データ遠隔収集システム アクアeモニター』と名づけられました。その応用範囲は沿岸、湖沼、河川、ダム、養殖場、農業用水、工場排水、井戸水、地下水などと幅広く、各地に計測ネットワークがひろがっています。

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