スペシャルインタビュー
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スペシャルインタビュー Vol.3

分析のバトンをつなぐ

スペシャルインタビュー Vol.3分析のバトンをつなぐ

株式会社堀場テクノサービス 分析技術本部 Analytical Technology Department / 化学分析チーム
蛍光X線分析担当:森田 麻由(もりた まゆ)
ラマン分光分析担当:小野瀬 森彦(おのせ もりひこ)

「はやぶさ2」が採取した小惑星「リュウグウ」試料の初期分析が2021年6月から開始されました。スペシャルインタビュー第3回は、北海道大学 圦本(ゆりもと)教授が率いる化学分析チームで非破壊分析の一翼を担うHORIBAグループの分析技術者 森田 麻由と小野瀬 森彦に、初期分析における取り組みと、分析技術者としてのおもいを聞きました。

Q 「リュウグウ」試料の分析を担うことになった経緯を教えていただけますか?

森田:
2018年の冬、東京理科大学の中井先生らが「リュウグウ」試料に含まれる元素の種類や量などを蛍光X線で分析※1できる分析メーカーを探しておられるとのことでした。その時点では「はやぶさ2」が持ち帰る試料がどの程度の量になるかわからないものの、微量かつ貴重であるのは明らかです。HORIBAの蛍光X線分析装置はX線顕微鏡として微小部分析を得意としているので、この強みを活かして微量分析ができる分析手法とサンプリング技術を提案しました。その結果、化学分析チームの一員として分析を担うことになりました。

※1蛍光X線分析:X線を物質にあてて、その際に生じる「蛍光X線」とよばれる元素ごとにもつ固有の光を捉えることで、物質に含まれる元素の種類や量を明らかにする分析手法

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Q 初期分析に向けてどのような準備をされてきたか、「リュウグウ」試料を分析すると決まったときの気持ちを教えてください。

森田:
はやぶさ2が持ち帰った「リュウグウ」試料は5.4gでしたが、この分析に分配される試料は、1mgから25mgの数種類の試料でした。HORIBAの蛍光X線分析装置の微量分析が強みではあるものの、砂状試料の定量分析は通常5gほどで分析しますので1mgを精度良く測るのは初めての挑戦でした。1mgとはどのくらいなのだろう、「リュウグウ」の砂ってどういうものなのだろう、といったところから考え始めました。
そして、分析をより正確に行うために、分析や持ち運びの際に試料を保持する専用セルを一から設計・開発しました。「リュウグウ」に性質が似ているとされる土を何度も測り、測定方法や専用セルの改良を続けていました。自分の期待どおりに行かず、挫けそうになる時もありましたが、「あと、もう一日頑張ってみよう」という積み重ねが、良い結果に繋がったと思います。「リュウグウ」試料の初期分析ができると正式に決まった時は、本当に嬉しかったですね。ずっと「リュウグウ」のことを考えていましたから。

小野瀬:
化学分析チームは、もともと元素分析を蛍光X線分析で行う予定でしたが、試料の成分をより多角的に調べるためにHORIBAからラマン分光分析の追加を圦本先生に提案しました。 2020年6月頃から東京理科大学の由井先生とラマン分光分析について本格的な議論を始め、2021年の4月に、蛍光X線装置と同じ京都の最先端ラボ「Analytical Solution Plaza」で、私が分析することが決まりました。以前から分析してみたいとは思っていたものの、まさか本当に自分が分析することになるとは、と驚きました。
また、HORIBAで開発した専用セルの改良にも関わっていました。ラマン分光分析装置でもスムーズに測定ができるかをフィードバックする役割です。HORIBAの分析が完了した後も化学分析チームの他のメンバーに分析が引き継がれますので、化学分析チーム、HORIBAの開発、設計と協力して専用セルの改良を進めました。

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Q 分析を行った感想を教えていただけますか。

森田:
今は無事分析が終わってほっとしています。初期分析は沢山の方々が分析しますので、試料に異物が混ざらないこと、試料を汚染しないことも求められます。プレッシャーはありましたが、より良い形で次の分析へとバトンをつなぐことができました。

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蛍光X線分析装置で「リュウグウ」試料の元素の種類や量を分析

小野瀬:
蛍光X線分析装置で分析した結果を踏まえて、より詳しく調べたい箇所の成分や構造をラマン分光分析装置で分析しました。ラマン分光分析は蛍光X線分析に比べると、より微小、微量分析を得意とした手法ですので、1mgでも比較的に多い量だと言えます。ただ、異物の混入を防止するといった試料の取り扱いに苦労しました。
「リュウグウ」の試料は、ラマン分光分析による物質の構造は同じであっても、顕微鏡では見た目が異なるように見えるところもあり不思議でした。初期分析の総合的な分析結果が楽しみです。

Q 現在はどのような活動を行われていますか。

小野瀬:
化学分析チームでは、HORIBAで行った分析の他にもさまざまな分析が行われています。それぞれの分析手法による結果が一致しているかどうかをチーム内で検証し、ディスカッションしています。初期分析は来年の6月まで続きますので、分析データを学術的に価値あるものにできるよう今後も尽力していきたいです。

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ラマン分光分析では分子構造の違いから鉱物の種類を特定する

Q 普段はどのような業務をされているのでしょうか。

森田:
普段は、HORIBA製品の購入を検討されているお客様に製品のデモストレーションを行うことや、お客様から送っていただいた試料を分析してデータを提供する受託分析サービスなどを提供しています。小野瀬は半導体や電池関係、化粧品などの材料分析を、私は食品や自動車部品などの異物検査や材料分析を行い、お客様が取り組まれている研究開発や品質管理のサポートを行っています。

Q 理系を志したきっかけはありますか?なぜHORIBAで働くことを選択されたのでしょうか。

森田:
好奇心が強くて、よく質問する子どもだったそうです。
理系をめざしたのは、高校の数学の先生の影響が大きいですね。問題を解く際に、何かを定義することや定理の証明からはじめた先生に「やる必要があるのか」と聞きました。先生は私に「自分で証明していないのに解答に使えるのか。自分で確かめたことがないのに使うのはよくない。当たり前を疑いなさい」と。それ以来、自分の目で探求したいという気持ちが強くなり理系を志しました。何か乗り越えるべき問題がでてきた時も、問題を分解して考えたり、自分の中で定義付けをしたりして進めていく、そんな最初の一歩の進め方を先生に教わりました。数学に向き合う姿勢は日々の仕事でも生かされていると思います。
大学院では分子生物学を専攻していました。分子生物学は相対的な比較評価が多いのですが、研究を進めるうちにより定量的に測ることを突き詰めたいという思いが強くなったことや、グローバル企業であることからHORIBAで働くことを選択しました。

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小野瀬:
子どもの頃から生き物に興味があったことが理系を志したきっかけです。よく友だちと虫取りに行っていました。高校に入ってからは特に化学が好きでした。これまで疑問に思っていたものの仕組みや、ある事象が起こる理由がロジカルにわかることが面白かったからです。大学では回折格子を用いてタンパク質の構造変化の研究をしました。大学の研究分野にも関連がある光を使った分析装置を扱うメーカーで働きたいというおもいからHORIBAに入社しました。

Q お2人にとって分析とは?

小野瀬:
研究開発にとって、分析はとても重要なものだと考えています。実は大学生の時、研究を進めるために分析装置を作ったことがあります。文献をもとに光源や検出器などを組み立てるのですが、時間もかかるうえ難しくて苦労しました。この経験から、分析装置がないとか、分析装置を扱うことができないために研究開発が止まるという状態を無くしたい、より多くの方に分析データの取得機会を増やしたい、と思うようになりました。

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森田:
私たちは分析の中でも「分析技術者」という役割を担っています。HORIBAでは、分析技術者はF1レーサーだと言われています。HORIBAの分析装置がレーシングカーで、それを乗りこなすレーサーが分析技術者です。F1レーサーはレーシングカーの特性、原理、使い方を熟知して乗りこなさないとレースにも勝てないし、人々をあっと驚かせる走りはできません。同じように、分析技術者が分析装置を使いこなし、素晴らしい分析結果を出してお客様に伝えていくことが大切だと考えています。
今回は、「リュウグウ」の試料というどのコースを走ってよいか分からない手探りの中でスタートしましたが、やるべきことは同じ。HORIBAの分析装置に真摯に向き合い、試料についてしっかり調べて、より良い分析結果というゴールに近づいていく。化学分析チームや社内の開発・設計メンバーたちと協力して、チーム戦でより良いゴールに向かうことができたと思います。

Q 本取り組みを振り返って思うことはありますか。

森田:
HORIBAの分析担当者として、初期分析に参加するという貴重な機会をいただいたこと、そして沢山の方にサポートや応援いただいたことに、あらためて感謝の気もちを伝えたいです。このプロジェクトを進めるにあたって、圦本先生をはじめ先生方にご指導いただき、沢山の学びがありました。また、社外の方からも心温まる応援メッセージをいただき、これらを力に分析をやり遂げることができました。

Q 科学が好きな方や次代を担う子どもたちにメッセージをお願いします。

小野瀬:
私は生き物をきっかけに科学に興味をもち、今は最先端の材料分析から「リュウグウ」の試料分析までさまざまな分野に携わることになりました。分析する際にこの辺りはどういう構造なのだろう、なぜだろうと、その解を求めるおもしろさは、高校生の時に感じた事象の起因を知るおもしろさと通ずるところがあると思います。
本取り組みがより多くの方に科学に興味を持ってもらえるきっかけになればうれしいです。

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