世界中で大きな変化を余儀なくされた2020年は、HORIBAの強みは何か、について改めて考えることができた年でした。
世界トップレベルの基礎技術、また、それを応用する一人ひとりの発想とスキルをもとに、HORIBAはこれまで以上に、様々なフィールドで新たな価値を生み出し始めています。
これからも現状への危機感と変化を読む力で、この激動の時代を切り拓いていきます。
2020年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な拡大により、非常に厳しい事業環境に置かれた1年となりました。
HORIBAでは様々な制約下で事業活動を継続するという困難な状況に、これまで積み重ねてきた取り組みと人財の力で対応し、 2020年12月期の実績は売上高、営業利益、経常利益、当期純利益ともに前年実績には届かないものの、営業利益率は10.5%(前年比0.1ポイント増)と2019年と同等の結果を確保することができました。HORIBAは経営資源を機動的に活用して各セグメントへの投資を継続的に行う、バランス経営で成長を実現させてきました。異なるマーケットを持つ5つの事業を保有することで、リーマンショック時においても自動車や半導体事業の落ち込みを科学や医用事業がカバーし、グループ全体として黒字を確保することができましたが、COVID-19の影響を大きく受けている現在も同様です。多くの産業が停滞し、さらに大きな変革期を迎えている自動車業界の先行きも極めて不透明な状況ですが、半導体需要は世界的に増加しており、HORIBAの半導体事業も2020年は大幅な増収増益を確保、グループ全体の業績を牽引しています。このように様々な産業を対象マーケットとすることは、有事においては特にその多様性の効力を発揮します。HORIBAを取り巻くビジネス環境の変化は、これまで以上に激しく、加速していくものと認識していますが、逆風が吹くなかでも変化に柔軟に対応できる経営のあり方として、HORIBAはこれからもバランス経営を推進していきます。
現在、様々な社会的課題が顕在化しはじめ、デジタルトランスフォーメーション、モビリティ革命など、世界は大きく変化していますが、私はこの潮目の変化をチャンスと捉えています。例えばエネルギーに関する問題を捉えても、エネルギーを「つくる」「ためる」「つかう」というすべてのプロセスにおいて、HORIBAは保有するあらゆる技術を活用した様々なソリューションを提供することができます。エネルギーに関するマーケットではセグメントの枠を越えて、新たな視点で事業展開を考える必要があり、一定の事業規模になるまで時間がかかるかもしれません。しかし、HORIBAの現在の主要製品であるエンジン排ガス測定装置も元々は人間の呼気を分析する装置として開発されており、視点を変えることで新しい価値を見出した製品でした。基礎となる研究開発がしっかりなされていたこと、そして、それを応用できる技術があったからこそ新しい価値を見出すことができたのです。
基礎研究とそこから生まれる応用技術を使った製品提供は、今なおHORIBAの強みです。さらにこれからは、はかる技術を装置として提供するだけでなく、技術者の持つスキルをはじめとした、ソリューションを提供することも強みとして積極的に打ち出していきます。この度、本社社屋を新設した堀場テクノサービス社は、小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」から持ち帰った試料の分析プロジェクトに参画していますが、その分析は決して簡単なものではありません。試料を減失させないことはもちろん、試料にダメージを与えることなく物質の特定を行う必要があるため、高精度の分析・計測装置とそれを分析する技術者の高いスキルが必要です。HORIBAは、世界トップレベルの分析・計測装置を製造する技術を保有しているだけでなく、ホリバリアン※が持つ能力も高く評価されているからこそ、このプロジェクトに招かれたのだと誇りに思っています。
このように強みにさらに磨きをかけていくことで、これからもHORIBAが貢献できるマーケットは無限大に拡がると確信しています。
※ホリバリアン:HORIBAで働くすべての人を同じファミリーであると考え、ホリバリアンという愛称で呼んでいます
私が懸念していることの一つは、日本の教育現場において「教科書どおりに行動することが優秀」という認識が広がっていることです。そのような教育では、学んだ知識をもとに創造的に考え行動する力を身に付けることはできません。自ら考え、行動する力がなければ既存製品のモデルチェンジはできても、ユニークな製品をゼロから生み出すことは難しいのではないでしょうか。教科書以外の様々な経験から、自分のなかにある体験のデータベースを築き上げていくことによって、変化を読む力が備わり、ビジネスに関するセンスが磨かれると考えています。経営者の視点では、COVID-19拡大による影響が広がる以前から事業環境の潮目は変わっていたと考えており、現状の変化に大きな驚きはありません。経営は理屈どおり、教科書どおりにできるものではないからです。自身の経験や学び、それらから得たセンスや知恵を活かして先を読み、ビジネスや企業の方向性を定め、組織をリードしていくことがマネジメントの役割です。 2020年は物理的な移動や人との交流が大きく制限されましたが、2019年より導入していたオンライン・コミュニケーション・ツールを活用することで、グローバルでのマネジメントも円滑に行うことができました。日本では旧来の在宅勤務制度を2019年に発展させ導入した「Good Place勤務制度」もリモート環境において柔軟かつ効率的に働く支えとなりました。これらのツールや仕組みは、COVID-19拡大を受けて急遽導入したものではありません。平時であっても厳しい事業環境においても、将来を見据えての成長投資を変わらず続けていくことが経営者として重要と考えています。
HORIBAは、多彩な輝きを放つステンドグラスのように、多様な人財がそれぞれの場所で輝いてほしいと考えています。マネジメント力によってチームで成果を上げる人、新たな技術をとことん追求する人など、それぞれの能力を発揮し、役割を果たすことが結果的にHORIBAの大きな力になります。COVID-19拡大による厳しい影響を受けながらも事業を継続できたのは、ホリバリアンたちが、日頃より各々の部門においてリーダーシップを発揮し、高みをめざしてきたからです。彼らの多くは、危機的状況に置かれたとき、これまでの延長線上にはない新たなアプローチやチャレンジが必要なことを学び実践してきています。例えば、現在、業績を牽引している半導体事業も、一時は半導体市場そのものが低迷し、業務が激減する厳しい状況に追い込まれた経験をしています。そのような業績が厳しいなかでもHORIBAは半導体事業に投資を続けました。困難に耐えるホリバリアンの不屈の精神と、厳しい状況のなかでも投資を続ける会社への信頼感が、今の半導体事業の躍進につながっていると考えています。
危機感とは「このままではダメだ」と一人ひとりが本気で感じることです。常日頃から危機感を持って新たなアプローチやチャレンジを自らに問い、提案し、果敢に挑むことができる人財。そんなホリバリアンこそがHORIBAを大きく成長させる原動力です。
オンラインでコミュニケーションをとることの機動性や効率の良さを実感する一方、「対面でのコミュニケーションも大事」という声が世界各拠点から上がってきたことは、非常に興味深いことでした。オンラインでの会議導入前には当然のようにあった会議後の懇談の場における気の置けない会話や意見交換は、信頼関係の構築に重要な役割を果たしていたのです。このことについて多くのホリバリアンが大切だと認識しているのは、HORIBAにとっての大きな財産です。
これから社会は、オンラインと対面、両方の価値を組み合わせることで、1+1=2ではない、3にも4にも広がる時代に変化していくと考えています。 HORIBAでは、このような変化に対応できる土壌を備えており、すでに様々な取り組みを進めています。そして激動の時代であるからこそ、社是「おもしろおかしく」の精神に改めて立ち返り、これまで築いてきたHORIBAの強みを活かすことで企業価値を生み出していきます。2021年もこれまでと変わらぬご理解とご支援をよろしくお願い申しあげます。
2021年4月
代表取締役会長兼グループCEO 堀場 厚