【はじめに –半導体デバイスの進捗- 】
半導体デバイスは微細化が進み、液浸ダブルパターニング露光、EUV、DSA技術などの微細化技術が研究されている。微細化の流れに伴い成膜やエッチングに使用する液、ガスの制御に対する要求もさらに厳しくなりつつある。本稿では半導体デバイスの進捗に伴うマスフローコントローラについて紹介する。
【マスフローコントローラの多機能化,高性能化】
デジタル通信への移行に伴い,MFCの内部信号処理のデジタル化が進行した。MFCの内部信号処理のデジタル化により,以下の機能が新たに追加され 多機能化,高性能化が行われた。
【検量線の多項式曲線近似】
アナログ処理の場合,流量信号は流量センサ出力の直線部分のみを使用して おり,1次式による近似が行われていた。このためガス種による感度の調整は, 1次式の傾きのみを変更することにより行われてきた。一方デジタル処理の場 合は,多項式曲線近似を使用しており,ガス種による感度の調整は各係数を 調整することにより行われるため,より高精度な直線化が可能になった。流量 精度は調整ガスに対してアナログMFCの±1%F.S.から±1%S.P.へ高精度化 が可能になった。また,流量センサ出力の直線部分を使用するため,流量セ ンサのダイナミックレンジを従来の2倍程度に広げることが可能になった。こ の結果,流量レンジがベースモデルの25〜100%の範囲で任意にフルスケー ルが変更可能なマルチレンジ対応,ならびにガス種がコンフィギュレーショ ンソフトを用いて変更可能なマルチガス対応が可能になった。アナログMFC の場合,ガス種,フルスケール流量は一品一様で調整されるため,全て受注 仕様に合わせて生産が行われていた。MFCの使用量の増大に伴い,客先で の予備品の在庫が大きくなり,問題が顕在化していた。デジタルMFCのマル チレンジ,マルチガス化により,客先での仕様変更が可能になり,デバイス メーカおよび装置メーカでの在庫量が大幅に削減された。
【デジタル補正】
MFCは温度補正のほか,各種外乱要因の影響を低減するために各種の補正 が行われている。これらの補正もアナログによる直線補正からデジタルによ る多項式補正が可能になり,補正誤差を最小にすることが可能になっている。
【デジタルPID調整】
デジタルPID調整によりPID定数の最適化,自動化による応答のバラツキの低減が可能になった。また流量域,ガス種に応じてPID定数を連続的に変化させることにより,全流量域 での高速応答を実現した。
【圧力式MFC】
Figure 1に差圧式MFCの構造を示す。差圧を作り出すリストリクタ,前後の絶対圧圧力センサ, 制御バルブ,制御回路から構成されている。ガスは全量がリストリクタに流れ,差圧の発生に寄与 する。リストリクタは同一形状の微細な層流素子である流量パスの集合体であり,各流量パスの 流れは完全な層流状態のため,流量パスの数を変更することによりフルスケール流量の変更が 可能である。また各流量パスの特性を一致させるようパスの設計が行われているため,プロセス ガスに対する特性も最低限の流量パスで特性評価を行うことにより,パス数を変更した場合にも 同一の特性を得ることができる。そのためプロセスガスに対しても±1%R.S.の流量精度保証が可 能になった。 Figure 2に質量流量と1次側圧力,2次側圧力との関係を示す。圧縮流体であるガスの場合,質 量流量は差圧と2次圧力に関係するため,圧力から質量流量を計算する場合,温度補正を含めた 複雑な演算が必要になる。また圧力センサも各種補正が行われている。こ の様な複雑な演算処理を高速で処理することにより,制御バルブへのフィードバック制御が可能 になる。差圧式MFCは高精度小型圧力センサ,高精度リストリクタと共に, 高速演算処理を可能にする高性能のCPUにより始めて可能になった。