高精度な質量流量と密度の同時計測を可能にする「コリオリ式流量計」は、化学・食品・医薬など精密なプロセス制御を必要とする現場で幅広く活用されています。高粘度や多成分流体など、従来の方式では測定が難しかった条件でも高精度な計測を実現します。本記事では、コリオリ式流量計の原理、特徴、主な用途についてわかりやすく解説します。
コリオリ式流量計は、振動するチューブ内を流れる流体が生じさせる「コリオリの力(慣性力)」を利用し、質量流量や密度を直接かつ高精度に測定する方式です。液体・気体・スラリーなど多様な流体に対応し、高精度が求められる製造や研究分野で広く使われています。
コリオリ式流量計は、内部に設けられた1本または複数本の計測チューブを振動させ、そこに流れる流体が生み出す「コリオリの力(慣性力)」を検出することで、質量流量を直接測定する方式です。チューブの形状にはU字・直線・S字・ループなどさまざまな形式があり、用途や流体特性に応じて最適な設計が選ばれますが、基本的な計測原理は共通です。この質量流量の直接測定は、流体の密度や温度が変化してもその影響を受けにくく、体積流量計では難しかった正確な計測を可能にする点が大きな特徴です。計測の仕組みにてコリオリ式流量計が質量流量を算出する流れを簡潔に示します。
コリオリ式流量計は、質量流量の直接測定という独自の原理により、密度や粘度の影響を受けにくい高精度な計測を実現します。従来の体積流量計では難しかった特定の流体計測や、より精密なプロセス管理が求められる場面で特にその真価を発揮します。この章では、コリオリ式流量計が持つメリットとデメリットを掘り下げ、さらに他の主要な流量計との比較を通じて、本方式の選定ポイントを詳しく解説します。
コリオリ式流量計は、流体の体積ではなく「質量」そのものを直接測定するため、圧力や温度の変動による影響を受けにくい特性があります。密度や体積流量の変化が発生しやすいプロセスにおいても、安定した質量ベースでの管理が可能で、薬液供給や合成反応ラインなど、精密な流量制御が求められる場面に適しています。
コリオリ式流量計は、測定構造部に優れた安定性を備えており、液体において±0.1~0.2%程度の高精度な測定が可能です。液体・気体に加えて、スラリー(固体と液体の混合物)や高粘度流体、混相流といった従来の体積流量計では困難だった流体にも対応できるため、さまざまな条件下でも信頼性の高い計測を実現します。
コリオリ式流量計は、質量流量の測定とあわせて、内部チューブの共振周波数から流体の密度を高精度で計測する機能を備えています。この密度変化は、液体・気体を問わず濃度や混合比率の変化に伴って現れるため、製品の濃度管理や混合状態の監視に活用することができます。プロセス条件における密度と成分比率の関係が事前に把握されている場合には、リアルタイムでの品質管理や異常検知にも有効な手段となります。
コリオリ式流量計は流量変化に対して高い応答性を持ち、動的に変動する流量のモニタリングやバッチ処理の切替タイミング検知など、リアルタイムのフィードバックが求められる場面で性能を発揮します。
コリオリ式流量計は構造上、入口・出口に直管部を設ける必要がありません。そのため、配管スペースに制約のある装置内部や複雑なレイアウトにも柔軟に対応できます。
コリオリ式流量計は、質量流量を直接測定するために精密なセンシング機構と高度な電子回路を備えており、構造が比較的複雑です。そのため、本体価格や設置工事費が他方式と比べて高くなる傾向があり、特に多点設置が求められるラインや小規模システムでは初期コストが課題となる場合があります。導入にあたっては初期投資の回収期間やランニングコストを含め、総合的な費用対効果の検討が必要とされます。
コリオリ式流量計は、内部のセンサチューブを微細に振動させることで流体の質量流量を測定しますが、外部からの振動(ポンプや装置の振動など)に干渉を受けやすい特性があります。特に振動源が近接する環境では、測定値の安定性に影響が出る可能性があるため、設置場所の選定には、ポンプや大型機器から離れた場所を選ぶ、専用の架台を用いる等といった防振対策が欠かせません。
コリオリ式には、フルスケール流量が数十~数百mL/minに対応する少流量モデルも存在しますが、
微少流量になるほどコリオリが小さくなり、信号が周囲の振動や温度変化などの外乱ノイズに埋もれやすくなります。
そのため、微少流量では安定した計測が難しい場合があります。こうした条件下では、熱式や差圧式など他方式の方が適しているケースもあります。
コリオリ式流量計はその構造上、他方式(熱式・差圧式など)と比べて本体が大型・重量化しやすい傾向があります。そのため、スペースに制限がある装置や軽量化が求められる機器への組み込みでは導入が難しいケースもあります。設置条件や装置構成に応じて、他方式との比較検討が必要です。
コリオリ式流量計は、計測精度の確保を目的としてチューブを屈曲させたり、内部構造が複雑であったりすることが多く、圧力損失がやや大きくなる傾向にあります。特にチューブ断面が小さいモデルや2本チューブ構造では顕著です。システム全体のエネルギー効率やポンプ負荷への影響を考慮し、特に低圧・微少流量ラインでは、事前に詳細な流体計算やシミュレーションによる影響評価が必要です。
コリオリ式流量計と主な流量計の違いを比較すると下記のようになります。
| 種類 | 測定方式 | メリット | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| コリオリ式流量計 | チューブ振動によるコリオリ力で質量・密度を直接測定 | 質量・密度の高精度測定が可能 液体・スラリー対応 成分変動にも強い | 石油・ガス、化学、食品、医用 |
| 差圧式流量計 | オリフィスなどで発生する差圧を測定 | 構造がシンプルで低価格 多用途に対応 高温・高圧・腐食性流体にも強い | 石油・ガス、上下水道、化学、発電、半導体、空調 |
| 熱式流量計 | 加熱素子と温度差で質量流量を測定 | 微小流量に強い 高応答性・高感度 高精度測定 | 半導体、石油・ガス、化学、発電、食品・飲料製造、環境モニタリング |
| カルマン渦式流量計 | ブラフ体による渦周波数を計測 | 高温・高圧・蒸気対応 可動部がなく耐久性が高い | 工業プラント、発電所、空調、蒸気ライン |
| 超音波流量計 | 超音波の伝播時間差またはドップラー効果を利用 | 非接触測定が可能 クランプオン対応 | 水、排水、石油・ガス、化学、医用、空調 |
| 電磁流量計 | 液体の電磁誘導電位を測定 | 低圧損で導電液体に対応 異物混入に強い 直線性が良好 | 上下水道、排水、石油・ガス、食品、化学 |
コリオリ式流量計は、質量流量や密度の高精度かつリアルタイムな計測が求められる場面で広く活用されています。特に、液体やスラリーなど密度変動の大きい流体における正確な質量制御が重要となる分野で高い評価を得ています。以下に代表的な用途例を挙げます。
LPGや軽油、各種燃料など、密度や粘度の異なる流体を正確に管理する必要のある取引・製造現場で重宝されています。また、一部の高性能モデルでは、混相流や流量変動の大きい探鉱・採掘現場においても、安定した測定性能を維持できるため、過酷な条件下でのプロセス監視にも適しています。
反応プロセスでの薬液の正確な投入や、原料の混合比率制御に不可欠です。腐食性流体や高粘度液にも対応可能で、流体状態が安定したプロセスにおいて高い測定精度を発揮します。
高精度な混合比率管理が求められる調味料や添加物の混合工程、粘度の高いチョコレートやシロップ、濃縮果汁などの充填管理に不可欠です。質量ベースでの管理により、製品の品質を安定させます。
新薬・新素材の開発現場では、流体の物性が不明な場合も多く、コリオリ式の“物性に依存しない質量流量測定”が重宝されます。微少流量でも高精度に対応できる点も利点です。
コリオリ式流量計は、質量流量・密度のリアルタイム計測を強みとする高性能流量計で、化学、食品、医薬などの高精度が求められるプロセス分野で活用されています。液体・気体・スラリーといったさまざまな流体に対応し、比熱や組成が不明な新材料・新薬の計測にも適しているため、柔軟性の高い測定技術として評価されています。特に、比熱や組成など、流体の物性が不明な混合ガスや液体の質量流量を直接的に測定できる点は、コリオリ流量計の大きなメリットです。
構造的に可動部がなく、高粘度や腐食性の流体にも対応できる一方で、導入コストや配管設計に対する要求は比較的高いため、用途や予算に応じた導入検討が必要です。