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容積式流量計とは?(原理・特徴・用途を徹底解説!)

容積式流量計は、流体を一定体積ずつ区画に取り込み、その繰り返し回数から流量を測定する方式の流量計です。特に粘度が高い液体や非導電性液体の計測に適しており、低流量域でも高精度を維持できる特長があります。本記事では、容積式流量計の計測原理・特長・他方式との比較・主な用途について、わかりやすく解説します。

目次

容積式流量計とは

容積式流量計は内部に設けられた回転体やピストンなどの機構を用いて、流体を一定量ずつ区画に分けながら送り出すことで流量を計測します。各回転や往復動作ごとに決まった体積の流体が通過するため、回転数を検出することで体積流量を求めることができます。
主な構造としては、隔壁で仕切られた計量室内を偏心して回転するピストンが、流体を取り込み・押し出すことで流量を計測するロータリーピストン式、2枚の楕円ギアで液体をかみ合わせながら搬送するオーバルギア式、ねじ状の回転子を用いるヘリカル式などがあります。これらはいずれも「流体を区画ごとに実際に動かす」ため、流量を直接的に体積として測定できるのが最大の特長です。

計測の仕組み

容積式流量計は、流体が通過する際に「1回の動作(回転または往復運動)で排出される体積」があらかじめ決まっています。この体積を計量容積と呼びます。
計量室内の回転子やピストンが流体の圧力を受けて動作し、流入した液体を順次吐出口へ押し出します。この動作回数を機械的または磁気的に検出することで、以下の式により体積流量を求めます。
【基本式】
流量 = 計量容積 × 回転数(または動作回数)÷ 単位時間
たとえば、1回転あたり100mLの計量容積を持つ流量計が1分間に10回転すれば、流量は1000mL/分(1L/分)となります。

※上図はオーバルギア式容積式流量計の構造例です。

容積式流量計の特長と他方式との比較

容積式流量計は、流速変動の影響を受けにくく、流体の体積そのものを高精度に計測できる安定した積算性能を持ちます。一方で、内部に可動部があるため、流体の粘度変化や異物混入への配慮、定期的なメンテナンスが求められます。このような特長を踏まえ、以下では他方式との比較を交えながら、容積式流量計のメリット・デメリットについて解説します。

容積式流量計のメリット

容積式流量計は「一定量を物理的に区画して計測する」というシンプルかつ直接的な測定原理により、他方式の流量計が苦手とする領域でも高精度な流量測定を実現します。特に低流量の測定、使用環境に左右されにくい安定性、粘度の高い流体への適用性など、多くの実務的な利点を備えています。主なメリットを以下にまとめます。

 低流量域でも高精度を維持できる

容積式流量計は、流体を機械的に区画して体積を直接カウントする方式で流速に依存しない構造のため、低レイノルズ数(高粘度・低流速など)の条件でも正確に体積を積算できます。タービン式や超音波式で苦手とされる“微少流量での立ち上がり”が良く、微量供給や少量バッチにも向いています。

 脈動や偏流など「流れの乱れ」に強い

上流配管の影響や脈動ポンプによる周期変動など、“流れが不安定な条件”でも精度が落ちにくい点は大きな特徴です。容積を直接積算するため、流速プロファイルの偏りや瞬間的な変動が測定値に直結しにくく、安定性が求められるプロセスで力を発揮します。

 流体の物性に左右されにくく幅広い流体に対応

電磁式のように電導性を必要とせず、超音波式のように音速・温度条件への依存も小さいため、油類・樹脂系・薬液・粘性液・添加剤混合液など、多様な流体に適用できます。
密度・誘電率・導電率が異なる流体でも測定方式を切り替える必要がありません。

 導入・運用コストを適切に抑えられる

容積式流量計は構造がシンプルなため、必要となるメンテナンス内容も比較的軽微で、作業の難易度も高くありません。高価な検出素子や複雑な部品を持たないため、全体として運用コストをコントロールしやすい方式です。

 長い直管長が不要で設置性に優れる

流速の偏り(流速プロファイル)や安定化に依存しないため、上流・下流に長い直管長を確保する必要がなく、狭い装置内や複雑配管でも設置しやすいというメリットがあります。既存ラインの更新や追加設置、スペース制約下でも柔軟に導入できる点は大きな利点です。

容積式流量計のデメリット

容積式流量計には高精度・高い安定性といった利点がある一方、可動部を持つ構造特有の制約があります。扱う流体の性状や設置条件によっては、他方式に比べて不利になる場合もあります。主なデメリットを以下にまとめます。

 粘度変化によるリーク量の変動

可動部と固定部の間には、わずかな隙間(クリアランス)が存在します。粘度が高い流体ではこの隙間を通り抜けようとする際の抵抗(せん断応力)が非常に大きくなるため、リーク量は抑制されます。一方、粘度が低下すると隙間からのリーク量が増加し、測定誤差の原因となります。
温度変化、圧力条件、混合比のばらつき、経時的な性状変化などによって粘度が変動する場合は、補正や再校正が必要です。粘度差が大きい流体を扱う場合は、粘度依存性の小さいコリオリ式流量計などの検討も推奨されます。

 可動部の摩耗・固着によるメンテナンス負荷

ギア、ロータ、ピストンなどの可動部を持つため、流体に固形粒子(懸濁液やスラリー)が含まれると、以下の問題が発生します。
・摩耗:可動部表面が削れ、精度が低下
・固着・噛み込み:粒子が隙間に入り込み、回転不良を引き起こす
・堆積:バインダー成分を含む流体では内部に堆積し、動作不良の原因に
そのため、固形物を含む流体には原則として不向きであり、前処理フィルタの設置が必須となる場合があります。

 圧力損失と構造上の限界

可動部が流体抵抗として働くため、一定の圧力損失が避けられません。また、流量範囲にも上限があり、非常に高流速域では可動部の追従限界に達して精度が低下します。また、構造上クリアランスが必要なため、極端に高粘度の流体では始動トルク不足により計測誤差が発生する場合があります。

 定期メンテナンスが必要

経年により内部クリアランスや摩耗状態が変化し、体積効率やリーク量に影響するため、定期的な点検・校正が必要です。使い切り設計や交換不可のモデルでは、詰まりや性能劣化時に本体交換が必要となる場合もあります。

他方式との比較表

容積式流量計と主な流量計の違いを比較すると下記のようになります。

種類測定方式メリット主な用途
容積式流量計ギア・ピストン・ロータなどで一定体積を計測高精度・安定した積算計測
比較的低コストで導入可能
高粘度・非導電液体対応
化学、食品、飲料、油類、樹脂液体、潤滑油
熱式流量計加熱素子と温度差で質量流量を測定微少流量に強い
高応答性・高感度
高精度測定
半導体、石油・ガス、化学、発電、食品・飲料製造、環境モニタリング
差圧式流量計オリフィスなどで発生する差圧を測定構造がシンプルで低価格
多用途に対応
高温・高圧・腐食性流体にも強い
石油・ガス、上下水道、化学、発電、半導体、空調
電磁式流量計液体の電磁誘導電位を測定低圧損で導電液体に対応
異物混入に強い
直線性が良好
上下水道、排水、食品、化学
超音波流量計超音波の伝播時間差またはドップラー効果を利用非接触測定が可能
クランプオン対応
上下水道、排水、石油・ガス、化学、食品、空調
タービン式流量計流体によって回転する羽根車の回転数を測定高い繰り返し精度
比較的低コストで導入可能
構造がシンプルで小型軽量
石油・ガス、化学、浄水、食品

容積式流量計の主な用途

容積式流量計は、高粘度液体でも安定した精度を維持できる構造を持ち、さらに導電性の有無に依存しない計測方式であることから、次のような分野で広く採用されています。特に、電磁式流量計が使用できない流体や、高粘度ゆえにタービン式の適用が難しい工程において、信頼性の高い積算計測を実現できる点が評価されています。

 潤滑油・燃料油の定量供給・バッチ管理

エンジン用潤滑油、重油、軽油などの粘度が高い油類の計量に適しています。容積式は流体の粘度増加による影響を受けにくく、一定体積ごとに確実に計測する構造のため、高粘度流体の定量供給・バッチ制御に最適です。燃料供給システムや潤滑装置内での積算管理にも広く使用されています。

 化学薬品・樹脂・接着剤などの非導電性液体の計量

有機溶剤、樹脂、接着剤のように導電性が低く電磁流量計では測定できない液体の計測に強みを発揮します。粘度の高い化学品や、タービン式では粘性抵抗により精度が安定しない流体でも、容積式は体積変位で計測するため高い再現性を得られます。

 食品・飲料製造ライン(高粘度原料の定量充填)

糖液、シロップ、ソース、ペースト状原料などの高粘度食品原料の計量で広く採用されています。濃縮工程、原料投入ライン、充填工程など、精確な積算値が必要となるバッチ処理に適しており、サニタリー仕様のモデルでは食品衛生に配慮した運用が可能です。

 油圧装置・潤滑系統の流量モニタリング

油圧ラインや潤滑システムでは、フィルタ詰まり・ポンプの劣化・内部リークなど、設備側の異常が生じるとわずかに流量が低下します。容積式流量計は流量と回転が機械的に結びついているため、こうした微小な変化を正確に捉え、設備保全や早期異常検知に活用できます。

 高粘度特殊流体の定量管理

鉱物油、ギア油、濃糖液、樹脂原料など、流動性を保った高粘度液体の計量に適しています。タービン式では粘性抵抗が増えて精度が低下しやすい領域でも、容積式は体積変位で計測するため安定した再現性を得られます。

まとめ

容積式流量計は、流体を一定体積ごとに区切って計測するシンプルかつ堅実な原理により、幅広い条件下で安定した高精度計測を実現します。外部電源を必要としない機械式指示計を備えたモデルも多く、潤滑油や高粘度液体、非導電性液体など、電磁式・タービン式では扱いにくい流体の計量に適しています。低流量域での精度維持や微少流量の変化を捉えやすい点も大きな特徴です。
一方で、ギアやロータ、ピストンなどの可動部を備えるため、固形物の混入や過度な高流速条件では可動部の表面摩耗が進み、内部クリアランスの変化を通じてリーク量や計測精度に影響を及ぼすことがあります。また、粘度が大きく変動する流体では、最適な計測レンジから外れることで誤差が生じやすくなる場合があります。安定した計測のためには、前処理フィルタの設置や定期的な点検・校正といったメンテナンス体制が欠かせません。
適切な流体条件・設置環境のもとで使用すれば、容積式流量計は「粘度依存性の高い流体や特殊液体を確実に定量管理したい」という現場において、非常に信頼性の高い選択肢となります。潤滑油・燃料油の定量供給、化学薬品や樹脂液体の計量、食品・飲料製造ラインにおける高粘度原料の供給管理、油圧装置や潤滑系統のモニタリングなど、多様な分野で活用されています。流体特性を正しく把握し、適切なメンテナンスと組み合わせることで、高精度な流量計測を実現できます。

 

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