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四重極形質量分析計とは?(原理・特徴・用途を徹底解説!)

四重極形質量分析計(Quadrupole Mass Spectrometer 別名:QMS, Qmass)は、電子部品製造から化学分野まで、あらゆる真空プロセスにおいてガスの「特定」(定性分析)と「可視化」(定量分析)を可能にする重要な装置です。本記事ではQMSの原理・特徴などわかりやすく解説します。

目次

四重極形質量分析計とは?

QMSは、質量分析(MS)装置の一種で、イオン化した試料を電場の力を用いて質量電荷比(m/z)*1を高精度に測定し、半導体や化学など幅広い分野で、真空装置内の成分特定や残留ガス分析に利用されます。
*1イオン質量の電荷数の比(m/z)。QMSはこの値を基に選択したイオンだけを通過させる。

計測の仕組み

QMSは「イオン源」、「四重極部」、「検出部」の主要三要素で構成されます。

1. イオン源
測定したい残留ガスは、高温のフィラメントから放出された熱電子と衝突することでイオン化されます。生成したイオンは電圧によって加速・収束され、質量分析部へと運ばれます。

2. 四重極部(マスフィルター)
四重極部の中心は四重極 (4本の円柱形電極)です。この4本のロッドに、直流電圧(DC:Direct Current)と高周波交流電圧(RF:Radio Frequency)を組み合わせた特殊な電場を印加します。直流及び交流電圧を印加することにより、イオンの質量ごとにふるい分けられます。
この組み合わせによって、四重極は「マスフィルター」として働き、特定のm/z値を持つイオンだけを選択的に通過させることができます。
・安定な軌道: 設定された特定の質量電荷比(m/z)を持つイオンのみが、四重極の電場を通過し、安定した螺旋軌道を描いて進行します。
・不安定な軌道: それ以外のm/zを持つイオンは、軌道が不安定になり、ロッドに衝突して排除されます。
電圧(RF/DC比)を高速でスキャン(走査)することで、分析したい質量範囲(例:m/z=1から100)を順次切り替え、次々と特定のイオンを通過させることが可能になります。

3. 検出部
分離されたイオンはファラデーカップと呼ばれる検出器に到達します。イオンが検出器に到達すると電流が発生し、イオン電流の大きさが測定されます。この電流の大きさは、元々存在していた残留ガスの量(分圧)に比例するため、イオン電流を測ることで、真空チャンバー内にどのような種類のガスが、どれだけの量(分圧)で存在しているかを定量的に把握できます。

四重極形質量分析計のメリット

四重極形質量分析計(QMS)は、他の質量分析計(例:磁場型、飛行時間型など)と比較して、現場のプロセス監視において以下のような大きなメリットを持ちます。

 高速スキャンによるリアルタイム多成分分析が可能

QMSは、質量電荷比(m/z)のスキャン速度が非常に速く、数秒単位で全質量範囲の分析を完了できます。これにより、高速な全質量範囲の測定よって多成分を連続的に検出でき、反応の経過やガス成分の変動など、時間変化をリアルタイム測定するのに最適です。

 構造がシンプルで、耐久性・安定性に優れる

磁場偏向型*2などの複雑な構造を持つ装置に比べ、QMSは電場のみで動作するため、構造がシンプルです。これにより、振動や温度変化といった外部環境からの影響を受けにくく、現場での連続使用に耐えうる耐久性を持っています。
*2イオン化した試料を磁場によって軌道を変化させ、質量ごとに分離・検出する分析方法。質量の違いが小さいイオンも細かく分離できるため、複雑な混合物や同位体の分析に適している。

 操作・運用がシンプル

QMSは、装置に接続してソフトウェア上で測定したい質量数を指定するだけで、簡単にモニタリングが可能です。複雑な磁場制御を必要とする磁場偏向型質量分析計の場合、磁場の強さや方向、イオン源の調整など、複数のパラメータを細かく設定する必要があり、運用には高度な専門知識と経験が求められます。
一方、QMSは電場のみで動作するため、特別な専門知識を必要とせず、設定されたプログラムに従って日常的な運用をスムーズに行うことが可能です。

 高分解能な質量分析計と比較して導入しやすい

QMSは、高分解能な質量分析計(磁場偏向型など)と比較して、導入の敷居が低い分析装置の一つです。複雑な分析を必要とせず、ウエハや製品の品質保証、プロセス異常の迅速な原因特定といった目的において高い効果を発揮します。

 真空プロセスに必要なガス成分を網羅

質量分析計として標準的な測定範囲(例:m/z=1~100または200)をカバーしており、真空プロセスで問題となる主要な残留ガス(N2,O2,Ar,H2O,CO2など)を過不足なく網羅的に分析できます。

四重極形質量分析計のデメリット

QMSは多くのメリットを持つ一方で、その原理的な制約により、以下のような課題(デメリット)が存在します。

 複雑な混合ガスの分析には限界がある

QMSは原理的に高分解能な質量分析は不得意です。質量電荷比(m/z)がほぼ同じ成分(例:N2,CO m/z=28)が混在する場合、ピークが重なり合ってしまうため、個々の成分を正確に分離・識別するのが難しくなります。

 連続的な長時間測定で安定性が低下することがある

イオン源に使用されるフィラメントや検出器の劣化、イオン源の汚染などにより、長時間の連続測定では感度や測定精度が徐々に低下することがあります。特に真空度の悪い環境や有機物が多い環境下では、この傾向が顕著になります。

 真空度やガスの種類に制限がある

QMSはイオンを真空中で運動させて分離する装置であるため、特定の真空環境下での使用が前提です(10⁻² Pa(約10⁻⁴ Torr)以下の真空域で性能を発揮します)。また、イオン源のフィラメントは高温になるため、腐食性の高いガス(F2,Cl2など)や酸素濃度が高い環境下での使用には、フィラメントの断線による寿命低下や故障のリスクが伴います。ただし、近年では耐腐食性に優れたイリジウムフィラメントや、不活性ガスで保護されたイオン源を採用したQMSも登場しており、これらの制約は徐々に改善されつつあります。

四重極形質量分析計の主な用途

QMSが活躍する主な分野は、そのリアルタイム性と耐久性を活かした真空プロセス監視です。

 チャンバークリーニング後の残留ガス分析(RGA: Residual Gas Analysis)

真空チャンバー内の残留ガス成分を特定し、真空到達度や汚染源をチェックする最も基本的な用途です。ベーキング(加熱脱ガス)時の残留H2Oなど、真空環境の質を管理するために不可欠です。

 成膜・エッチングプロセス監視

半導体やディスプレイ製造における薄膜形成(PVD/CVD)やエッチングにおいて、プロセスガスの消費、副生成物の発生、異常な汚染ガスの混入をリアルタイムで監視します。これにより、製品の品質安定化や歩留まり向上に貢献します。

 真空リーク検出

Heなどのトレーサーガスを用いて、真空装置の接合部や配管からガスが漏れていないかを高感度に検出します。QMSはHeの分圧変化を非常に迅速に捉えられるため、リーク箇所の特定作業に利用されます。

まとめ

四重極形質量分析計(QMS)は、電場を利用してイオンを質量電荷比(m/z)ごとに分離する装置であり、真空プロセス監視において最も広く利用されています。高速スキャンによるリアルタイム多成分分析、耐久性、操作の容易さが主な強みですが、高分解能分析や長時間連続使用には課題もあります。
高性能なQMSを選ぶ際は、これらの課題を克服するための以下のポイントが重要となります。

1. センサー部の耐環境性能
腐食性ガスを扱うプロセスや、有機物の揮発が多い環境下では、耐腐食性に優れたフィラメント素材や、イオン源へのプラズマ影響を抑制する特殊な設計が不可欠です。これにより、フィラメントの長寿命化と安定した感度維持を実現できます。

2. 安定性とメンテナンス性
最も重要なのは、安定した測定を持続させるための機構とメンテナンスの容易さです。不特定多数のガスを用いて試験を行う場合、イオン源の汚染やフィラメントの断線が発生しやすくなり、修理時には、都度、メーカー修理を依頼する必要があります。
そこで、センサ脱着が可能な構造など、メンテナンス性に優れた製品を選択することで、装置のダウンタイムやメンテナンス時の大気暴露の時間・回数を縮小することが可能となります。

3. ソフトウェアの利便性
プロセス監視の現場では、専門知識がなくても異常を素早く検知できることが求められます。
操作が簡単で見やすいソフトウェアを使用することで、用の効率性を高めることが可能となります。

※堀場エステックが展開する四重極形質量分析計「Micropole System QL Series」は世界最小クラスのサイズを誇る分析計で、9つの四重極部からなる独自構造のセンサを搭載しており、ユーザー自身が現場で簡単にセンサ部を交換・メンテナンスできる構造になっています。
これにより、ダウンタイムを最小限に抑え、運用コストを大幅削減できます。

対象製品はこちら:
コンパクトプロセスガスモニタ MICROPOLE System - HORIBA *3
真空計測・ガスモニタ製品一覧はこちら:
インラインガスモニタ – HORIBA
真空計 - HORIBA
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